15年近く前の話になる。日本企業から外資系企業に転職し、初出勤した日の朝の話。オフィスで不思議な光景を目にした。
初日だったので、私が張り切って8時前に出勤すると、上司がすでに出勤して仕事をしていた。ひょっとして、私が初出勤の日だったから、気を遣って早く出社してくれたのだろうかと、一瞬思った。
しかし、翌日には、どうやらそうでもないことがすぐにわかった。その上司は次の日もその次の日も朝早く出社していた。毎日朝7時台に来ていた。
どれだけ仕事が溜まっているのだろう?
朝から海外の本社と電話会議でも毎日やっているのだろうか?
ひょっとして、この企業の社風で、さらにその上の上司が早朝に出社するから気を遣って毎日、早朝出社しているのか?
あるいは…部下たちに自分の「頑張り」をアピールしてるのか?
いずれにしても面倒くさそうでイヤだなと、私は直感的に思った。何故ならば、自分は長らくマスメディアの世界でプロデューサー的な働き方をしていたので、良くも悪くも自分のペースで出社時間も退社時間も決めるのが普通だったからだ。(その代わり、人手が足りなくても自分で何とかしないといけなかったが……)
そんなことを思いつつも、私は新しい上司に媚びるわけでもなく、ただ興味本位で、しばらくは自分も朝7時台に出勤をしてみた。そして毎日、個室で朝早くから業務を行っている上司を見続けた。
ところが……
どうやら別に仕事が溜まってアタフタしているようでもない。
海外との電話会議をしている日もあったが、決して頻繁でもない。
まして、早朝出勤をしないと上司からの風当たりが強くなるような、そんな社風では全くない。(むしろ逆で自由な空気だった)
そして、その上司の仕事を終える時間は早く、ほぼ定時に毎日仕事を切り上げて帰宅していた。部下に「頑張り」をアピールしている様子など全くなかった。
半年か1年ほど、私の興味本位は続き、早朝出勤を続けた。だが、結局なぜその上司が毎朝早く出勤しているのかは分からずじまいだった。(直接、聞けば済む話だが、わざわざ聞くのもヤボなので……)
やがて、その上司が他部署に異動となって、私の早朝出勤は終わった。私は定時に出社するようになった。
以来、10年以上が経った。
こんな思い出話はずっと忘れていたのだが、今朝1週間ぶりに自分の東京のオフィスに出勤してパソコンを立ち上げた時、この上司のことをふと思い出した。気が付くと、自分が朝7時台にはいつもオフィスに来ているではないか。
あ~そういうことだったのですね。やっとわかった。
<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサー等を経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2015年4月より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。