日頃、自分の周りには優れたクリエーターの人が多い。

グラフィック、映像ディレクター、コピーライター、プランナー……こうしたスペシャリストの人たちに仕事を依頼させてもらう時に、私が気を付けていることがある。「自分が知らないこと」(専門でないこと)を不用意に口にしないことだ。

顧客の声を代弁していただけだった?

あくまで一例としてだが……「朝の元気な気分」をグラッフィックで表現してもらいたいとする。「朝」「元気」の2つをキーワードとして伝える。(もちろん背景その他は別途)

ところがついこの2つのワードだけだと物足りなく(不安に)なり、あまり深く考えないで「ブルーで明るいイメージ」などと口頭で付け加えてしまう。すると「朝」「元気」を表現する上で何も「ブルー」にこだわらずとも自由な表現ができたはずだが、「ブルー縛り」のアイデアばかりが集まってしまう。

自分の不用意な「朝」「元気」といえば「ブルー」だという固定観念を口にしてしまったせいでバイアスがかかってしまう。

もっとも、多くの優秀なクリエーターさんの場合、私の固定観念など軽く受け流してくれる。(あるいはその場で確認してくれる)「ブルー」のバージョンとそうでないバージョンを用意してくれた上で期待を超えたアイデアを提案してくれたりもする。自分が不用意な色指定をしてしまったことを申し訳なかったと反省する。

またこんなこともあった。ゲストを招いてのイベントの企画した時の話。プランナーさんや営業担当の方とのちょっとした雑談の合間に、私がうっかり「◯◯さん(タレント名)に最近注目しています」と言ってしまった。以降のゲスト案にはコンセプトとは何も関係ない「◯◯さん」の名が毎回あがってくる。(そんなつもりは全くなかったのだが…)

慌てて「あれは企画の趣旨とは関係ないです(勘弁して下さいよ……)」と念を押す。

プロの提案者というのは、これほどまでに「企画を通す」ということにこだわる。企画などというものは実現してこそなんぼなのだ。だからこそ、オリエンをおこなう際には不用意な「バイアス」を表現者に与えないように配慮しなくてはならない。

最近、キャッチコピーのコンペをさせてもらった。若いクリエーターさんが多いせいか、そもそもオリエンシートを本当に読んでいるのか疑わしいアイデアが多く提案された。

先ほどの例で言うならば「朝の元気な気分」をキャッチコピーで表現して欲しいとはっきり明記しているにもかかわらず「夜」のコピーだったり、「元気ではない」コピーだったりする。これは私が不用意な「バイアス」を与えてしまうという次元の話ではない。最初のオリエンシートが間違っていたのかと何度も読み返すが、ちゃんと「必須事項」は明記されている。

私はその分野のプロではない。だからプロの方にお願いしている。不用意なバイアスを与えたくない。あえてオリエンシートに「スキマ」を創る。しかし、「必須」である仕様を満たしてない提案が多いと、全く会話が成り立っていないことに落ち込む。「6人がけのイス」を依頼したら「4人がけのイス」が大量に送られてくるようなものだ。

「仕様外」のアイデアが複数あると、何か私が悪かったのではないか?? とついつい不安になる。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサー等を経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2015年4月より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。