入社後、何年かがたつと、部下や後輩社員を仕事上リードしていかねばならないことも多くなる。任せられる仕事も増えてくる。今回は、そんな時のための上手な「手抜き術」を紹介したい。もっとも「手抜き」というとネガティブなイメージがある。「単に楽をしたいのではないか?」という印象を持つ人も多い。しかし「手抜き」と言っても「周囲に迷惑をかけない」ことは当然である。では、どのような「手抜き」が「良い手抜き」なのだろうか?

(1) 機械に任せる

「機械に任せる」というと少し乱暴に聞こえるかもしれない。正確には「自動化やオンライン共有を駆使して、可能な限り手作業を減らす」という意味である。

例えば、誰もが多くの会議や来客などのアポイントメントを抱えていると思う。専任のアシスタントがいてくれればよいがそうもいかない。そして、意外と人任せにはできないのが、このスケジュール調整だ。特に急な変更が生じた場合、仮押さえの時間帯が重なってしまった場合など、最終的にどのようにスケジュールを確定させるかは、本人でないと判断がつかない場合が多い。

私は自分の予定をGoogleカレンダーで管理している。同時にアポイント管理には「Cu-hacker」を利用している。アポイント調整専用のWebサービスで、自分のスケジュールのすいている時間帯をアポイント候補日として「仮押さえ」できる。オンライン上に発行されるURLを送ると候補日時の中から、相手が都合の良い日時を選び予定を登録してもらえば自動的に自分のカレンダーに反映される。いったん慣れてしまうと、今までの手間がうそのように楽になる。

この他、名刺整理。書類の電子化、クラウド共有など、「機械」に任せた方が「手作業」で行うよりもはるかに効率的なものは徹底的に利用するに限る。

(2) 人に任せる「手抜き術」

例えば、最初にクライアントにお会いして、ごあいさつや要件を伺う時。また重要な決断やアドバイスを行うような会議の席。このような時には私は必ず顔を出すが、必ずしも自分ではなくても済む場合に、どれだけ「人」に任せることができるか。

私は自分がしなくてはいけない仕事を大きくABCの3つに分ける。

A 自分以外がやってはいけない仕事
B 自分の代わりに誰かが代理をしてくれるとありがたい仕事
C 自分がやってはいけない仕事

部下や後輩がいない頃には、私はよく自分で「メモ」を取った。上記のABCの全てを自分でこなさないといけないため、自分が大事な要件を忘れないためだ。

しかし、アシスタントや部下を持つようになってからは、逆にこれまでの「メモ」という形では記録をとらなくなった。「メモ」とは自分自身の「備忘録」に過ぎず、お恥ずかしいことだが、この「備忘録」の数が恐ろしい件数になると、何を「メモ」したかを忘れてしまうからである。これは異業種交流会などで多くの名刺交換をしたものの、誰が誰だか後から分からない状況と同じである。

こうしたことを避けるために、私は自分が記憶しておかなくてはならないことを「メモ」ではなく「メール」に書く。正確にはEvernoteSimplenoteなどの‎メモソフトや、Facebookのメッセージに内容を打ち込み、終了と同時にメールで送信する。

「備忘録」としての「メモ」ではなく、「アクションリスト」としてリストアップしたり、時には「依頼文」の形式でメールを打つ。

こうすれば、たとえ会議や面会先での要件を、瞬時に自分以外の誰か(実際にアクションをすることになるスタッフ)に、タイムラグなく情報を集約(分散)することができる。(上記のCのような仕事)

また、スタッフに頼む場合でなくても「依頼文」という形で文章を書けば、そのまま仕事の依頼をパートナー企業の方などに依頼することができる(上記のBのような仕事)

もちろん、後から送信履歴には、いつ誰に、何の内容を自分が送ったかの記録は残る。この一覧をコピペして、よく「自分自身」を宛先に「メモ」を送ることがある。その際にRight Inboxというサービスのメール送信のタイマー機能を使うと、1日の仕事が終わり、一息ついた頃の時刻を見計らって自分自身に通知(リマインド)することもできる。個々の依頼内容の詳細は忘れてしまっても、おおまかに誰に何を依頼したかを記憶しておくこと(上記のAの仕事)は自分でしっかり管理しないといけない。忘れっぽい私にはぴったりの「人」任せの管理法である。

(3) 仕事を減らす「手抜き術」

一見、簡単なようで、もっとも難しいのが、「仕事そのものを減らす」という「手抜き術」である。多くの仕事(作業)の中で、「何をするか」ではなく「何をしないか」の判断はとかく難しい。

いくら「機械」「人」をうまく活用したとしても、仕事(作業)の量自体が無尽蔵に増え続けてしまってはせっかくの「手抜き」も意味が無い。「仕事を増やす」ことは誰にでもできる。また「仕事を増やして、リソースを増やす」ことも頑張ればできるかもしれない。一方、「リソースが増えない状況で、仕事をいかに減らすか」という視点に立つと高度な判断が必要となる。

結論から言うと、細かな施策ではなく、自分が抱えている重要な事柄を上から10個ほど思いつく順番(優先順)に書き記してみればいい(20社あるクライアントのうち優先する順番に上から10個書き出すという話ではない)。その上で、下半分(さすがにムリであれば下3つくらい)の事柄をバッサリと一時停止してしまうというのが最も手っ取り早い「手抜き術」であることが多い。

「重要な事柄を10個ほど思いつくままに書き記して」と言われて、上から5、6個まではともかく、実際にすらすらと10個書くことができた人は少ないのではないかと思う。下半分の「重要な事柄」はすでに記憶の片隅に追いやられてしまっているのだ。

よく私は日々机にたまる書類を整理する際も似たような手法を使う。あまり気にせずにどんどんと新しいものから上に積んでいく。途中で必要になったものを積み上げられた書類の中から抜き出す。そして書類のあった場所ではなく、一番上に積み上げる。

そうすると、常に重要なもの、今必要なものが自然と上の方に集まってくる。そして月に1回くらい、机にたまった書類の下半分をまとめて、どこかにしまってしまう。あるいは電子化してしまう。意外なことに、これで大きく困ったことはない。「処分」してしまった下半分の仕事をある日、再び思いついた時には、「どこか」から書類を引っ張りだすか、電子化されたPDFを検索すればいい。

その方法と全く同じく、「下半分は一時棚上げ」という「手抜き」方法を私はよく行っている。これはいい加減なようでいて、実は言い換えれば「上半分へのリソースの集中」でもある。

以上、主に部下や後輩を持つ管理職の方々のための「手抜き術」を紹介したが、これらはあくまで、私のやり方の一例にすぎない。くれぐれもご参考までにしていただき、ご自身なりのポジティブな「手抜き術」により、無理なく時間利用の効率化と、重要案件へのリソース集中を行ってもらえればと思う。

※写真は本文とは関係ありません


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。