同じ会社内の上司と部下という関係の場合、あたり前だが上司は部下に対して仕事を振る際、「部下ができる(であろう)仕事」を振る。明らかに部下が「できなさそうな仕事」を振ったり、「間に合わなさそうなタイミング」で仕事を振ったりしたら、これは一種の「嫌がらせ」(あるいはパワハラ?)である。同じ会社の上司・部下の関係、あるいは業務上の取引先にあたる関係の場合、(業務上において)「ムチャ振り」をするのはよろしくない。

仕事上ではない「ムチャ振り」を

ところで、私はよく「ムチャ振り」をする。

くれぐれも仕事上ではない。仕事を超えて趣味や個人的なつながりのある人などと、いわゆる一種の「お遊び」をする時である。「お遊び」とは言っても、そこらの「お遊び」とはちょっと違うこともある。ほんの「お遊び」のつもりが300人近く参加するイベントになってしまったり、メディアをひとつ作ってしまったりということも以前にはあった。

ところで、なぜ「ムチャ振り」をするのかというと、(これは今まで誰にも話したことはないのだが…)「ムチャ振りしてほしい」というオーラをその人から感じてしまうからである。それがどういう「オーラ」かというと、「現状では物足りない」とか「さらに何か飛躍したい」というか、とにかくそうした「上(前)向きオーラ」である。

私はその方(たいていは年下の方だが)にとっては社内の上司でもなければ、取引先でもないので、私の「ムチャ振り」など無視してしまっても何ら問題はない。だからこそ、こちらも「気軽に」「遠慮なく」ムチャ振りができる。そして、何故かたいていは、その「無茶振り」を二つ返事で受ける方が多い。(ムチャ振りした後になって「本当に大丈夫か?)と私のほうが不安になることも多い)

私のムチャ振りに「うっかりと」応じてしまった方たちは、その後、大きく2つのタイプに分かれる。

ひとつは、この「ムチャ振り」された機会をうまく生かして、かなり大きくその後の人生がプラスの方向に変わる人だ。「ムチャ振り」とは、そもそも、その方がこれまでの人生において、あまり経験のなかったことや、自分の発想の延長線上では思いもよらなかったことに思いもよらず挑戦することである。これこそが「ムチャ振り」の醍醐味である。こうした機会を生かすも殺すも、その人次第だ。「ムチャ振り」を機会と捉えてうまく自分自身の飛躍に活かすことのできた人からは、後々、私は感謝されるだろう。「そういえば、あの時、片岡さんが…」と、何年経ってからでもいいので必ず心に留めておいて欲しい。

一方で、逆効果となる場合もありうるだろう。「何であんなことを(うっかり)引き受けてしまったのだろう…」と後悔する人も中にはいるはずだ。あまり経験のなかったこと、自分ひとりのこれまでの発想の延長線上では思いもよらなかったことに挑戦してしまったがゆえに…「そういえば、あの時、片岡さんが…」と、全く逆に後から恨まれることだってあり得る。もっとも、これはこれで「ムチャ振り」する側の醍醐味でもある。こうなった場合は、自らムチャ振りを引き受けてしまった自分の運さを後悔して、できることならば早く忘れていただけることに期待する。こういうことは恨みっこなしがよい。

その人の「ムチャ振り」が自分を引き立ててくれるかどうかは、結局は「ムチャ振り」を受け入れる人次第なのである。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。(現 株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役)主に企業の戦略PR、マーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2011年から国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立代表理事就任。