古くから、学生の就職について、「好きなことを仕事にしよう」とアドバイスする方がいます。一方で、「好きなことを仕事にしよう」はやめた方がいいという考えの方もいます。どちらが正しいのでしょう?

「好きなことを仕事に」には2種類ある

「好きなことを仕事にしよう」と言う方の多くは、2つのことをよくおっしゃいます。1つは、「好きこそものの上手なれ」のことわざのように、「好き」であることの方が上達もするし、長くも続く。もう1つは、例え失敗したとしても「好き」なことに挑戦して失敗したならば後悔もしない。確かにこれは間違っていないと思います。

一方で、「好きなことを仕事にしよう」はやめた方がいいとおっしゃる方の多くは、概ね次の2つのことをおっしゃいます。1つは、「好き」なだけでは食っていけないし成功しない確率の方がはるかに高い。またもう1つは、「好き」なことを仕事にしてしまうと「つまらなく」なる。これも間違っていないですし一理あると思います。

後者の方の多くは、「好きなこと」よりも「出来ること」を仕事にすることを強調することが多いようです。確かに「自分には向いてない」と思っていても、やってみてうまく出来ると、意外な面白さに気が付き、好きになることもあります。

さて、この両方の意見をうまく取り入れられないでしょうか?

誰しも「好きなこと」が必ずしも得意だとは限りません。「できること」を必ずしも「好き」になるとも限りません。しかし、自分が「好きなこと」が同時に「自分ができること」であり、これを探し出し仕事にできれば、これにこしたことはありません。

では、仮に、「好きなこと」であり、同時に「できること」を見つけることができたとして、本当にそれでよい結果になるでしょうか?

実は私は職を選ぶ上で、「好きなこと」+「できること」だけでは不十分だと、本当は思っています。

自分が「好きなこと」であり、自分に「できること」であっても、他の人や機械などが簡単に取って代わられるような仕事は、常に激しい競争にさらされてしまいます。ですから、単に「できること」ではなく、「自分にしかできないこと」が見つかると、よりよいのではないかと思います。

もっとも、「好きなこと」「自分にしかできないこと」を自分の職業にできたとしても、そのことが社会に必要とされていないと職業としては成り立ちません。ですから「社会から必要とされること」という考えを3つめに加えて考えるとよいと思います。

「好きなこと」

「自分にしかできないこと」

「社会が必要とすること」

全部で3つになりました。

「そんなことはムリ」「現実的ではない」とよく言われます。その通りです。「好きなこと」を見つけるだけでもかなり難儀なことだと思います。まして単に「できること」ではなく「自分にしかできないこと」を探せと言われても、無理だと思う人も多いでしょう。「自分に相応しい職業は簡単には見つからない」ということだけが、唯一、私がはっきり今言えることです。

「社会から必要とされること」というのも常に変わり続けています。今社会が必要としていることが10年先20年先にも必要とされているとは限りません。「では、結局どうすればいいの?」と思われるかもしれません。

自分自身が常に「バージョンアップ」して成長していくしかないのだと思います。そんな私も「好きなこと」を続けてきているつもりではありますが、果たして本当にこれが「自分にしかできない」ことなの? 「社会から必要とされている」ことなのか? と、日々自問自答する毎日です。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。(現 株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役)主に企業の戦略PR、マーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2011年から国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立代表理事就任。