宝酒造が新社会人を対象に行った意識調査によると、新社会人が上司からの飲み会の誘いに応じる理由で最も多かったのは「酒を飲みに行くのも仕事」で61.9%。6割以上が上司との飲み会を仕事の延長だとして、ある意味、割り切っているという結果が出た。一方、上司や先輩に、若手社員が飲み会の誘いに応じる理由を聞いたところ、「酒を飲みに行くのも仕事」は31.0%と、約2倍の意識の差があった。

宝酒造「新社会人と上司のお酒に関する意識調査」結果

この結果を最初に知って、まず私が思ったのが「そりゃ~そうだよな」という納得感だった。

ちょっと待て、私が子供の頃も…

私が子供の頃、まだ日本は高度経済成長期にあった。私の父は若い部下をよく仕事の後に自宅に招いて連れてきた。今のように「飲み屋」で部下と飲むという話ではない。同じ「社宅」に住む部下たちを連れ、自宅で酒を飲んでいた。そしてよく麻雀をしていた。部屋はたばこ臭かった。

そんな「企業戦士」の姿を見て私は育った。若い社員たちを「ご接待」する私の母は「みなさん本当にお酒がお好きね~」などと言ってもてなしていた。しかし、若い社員らが帰宅すると、母は全く逆の「小言」を父に向かって言った。

「みなさん、あなたが上司だから、仕事だと思って気を遣って飲みにきているのだから、もう少し早く切り上げてあげてください」すると父は、そんな母に「誘われてくる方も仕事。誘って連れてくる方も仕事。そんなことくらいはわかっている」と言い返して、疲れと睡魔のせいか、すぐに眠ってしまった。

昔から「会社関係の飲み」は「仕事」では??

さて、調査結果の数字だけを見ると、とかく「最近の若い人は…」とコメントしたくもなる。私が思うのは、少なくとも私の記憶に残る1970年代の、ごく普通のメーカー企業の社宅内での「上司と部下」の間の「飲み」に関しては、「こんなのお互い仕事だよな~」という、暗黙の上司と部下の理解があったような気がする。(もちろん、現在とは違って、当時、女性の部下はいなかった。いれば自宅に深夜飲みなどは、考えられなかっただろう)

3つの「仕事」

サラリーマンにとって上司との「飲み」は、昔から「仕事」だったのではないかと書いたが、私は仕事には、昔も今も3つのタイプの仕事があると思っている。

(1) 会社のために「最低限」する仕事
(2) 自分のために「個人的」にする仕事
(3) 「プロ」として受け入れる仕事

(1)は主に勤務時間に行う仕事。いわゆる「勤務」である。

(2)は少し幅が広いスキルアップのための仕事だ。英語を学ぶ、経営書を読む、仕事に関する書籍を読むなど、時に自腹で「投資」することもある。これは「プライベイト」の時間でも「遊び」ではなく、私は「仕事」だと思っている。

(3)は「プロ」として受け入れる仕事である。例えば、野球選手やタレントであれば、街中で、突然、子供たちやファンにサインを求められることはある。上記の(1)、(2)の「仕事」ではない。もちろん断る権利はある。受け入れる義務はない。

私は「上司との飲み」は上記の(3)の「仕事」だと思う。サラリーマンとして、自分は(1)だけをすると考える人はそれでいい。サラリーマンとしての最低限の義務を果たせば良い。(1)と(2)はともかく、(3)の「仕事」はかなわないと思う人も、それでいい。無理にする必要はない。スポーツ選手やタレントにもサインを断る人はいる。

私の父が当時、自宅に招き、「飲み」明かした当時の「企業戦士」の中から、後に重役や社長としてすばらしいリーダーになられた方がいる。父の葬儀の際に、みなさんが集まってくれた。私とは30年ぶりの再会だった。皆さん、その後、(1)、(2)の仕事も頑張ってこられたことだろう。同時に(3)の仕事も、サラリーマンの「プロ」としてそれなりに受け入れてこられたのだろう。退職してすでに何年も経つ私の父の葬儀に、お忙しい中、わざわざ来てくださったのも、(3)の「仕事」だったと、私は思う。

結局は、その人の「生き方」「考え方」次第である。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。