訪問介護大手の「コムスン」は、すべての介護事業から撤退することになり、訪問介護など、在宅系サービスの大手企業を中心に、合計16事業者に売却されることになりました。譲渡先は、47都道府県ごとに分割して行われ、年内にも完了される見通しです。ある程度決着がついたわけですが、この事件は介護事業業界に多くのものを残し、これで解決したわけではないのです。それらについて解説していきましょう。
コムスンを引きうけたのは、大手企業
第三者委員会の堀田委員長は健全財務、職員の継続雇用、地域密着などの条件を優先したとのことで、結果として大手の企業系がほとんどを占めました。NPO法人や社会福祉法人が少ないのには意外な印象があると思いますが、NPO法人は、条件が合致しなかった、応募が少なかったという実情があります。NPO法人は、日本ではまだ歴史が浅く、こじんまりと良心的にサービスを提供するというスタンスを持っているところが多く見られます。こじんまりというのは長所であり、地道に運営している点では評価されますが、経営的には、所帯規模の点から、スケールメリットを発揮するにはやや不利な面があり、「コムスン」を引き受けるような規模ではなかったと考えられます。
引き受け手がない過疎地の介護
訪問介護では、一々お宅を訪問するのですから、相手先が集中している地帯が有利となります。場所的には都会地などを選ぶのが戦略に適っています。ここで疑問に思うのは、"企業型利益追求の権化"のように言われているコムスンが過疎地や離島などを担当していたことです。これは、コムスンには良心的で福祉的な配慮があったといっていいのでしょうか。読者の皆様はどのように思われますか。コムスンの崩壊により、過疎地や離島が困ってしまうという課題ができてしまったわけですが、誰もこの"不思議"には触れていないのです。
コムスンが何かの折に「自分たちの背後には、厚生労働省がついている」というような表現をしたことがあります。これをどう解釈したらいいのでしょうか。巷では次のようなことがささやかれています。それは、厚生労働省が、戦略的に有利なところと不利なところを抱き合わせてコムスンにかかえてもらったのだという説です。介護保険導入当時、厚生労働省は「保険あってサービスなし」という事態を批判されておりました。とにかくサービスを確保する、この重要命題に取り組んでいたはずですので、企業でも何でも参入してもらいたいという思惑があったのだと、これもまことしやかに流布されています。厚生労働省の敷いたレールをひた走ったコムスンは、今度はレールからはずされた。こういう図式になったと解釈していいのでしょうか。
今回の売却決定では、ニチイなど大手の企業は、都会地などを多く選択しています。ここでは抱き合わせ方式は採用されなかったのでしょうか。これもまた疑問が残ります。
24時間訪問介護は増えていない
24時間訪問介護は、地域密着型のうち在宅介護を支える切り札として、厚生労働省の、いわば"目玉商品"なのですが、全国的に見ても事業所は増えていないのが現状です。2006年の改正から、半年毎にみると、14カ所、43カ所、86カ所と増えていますが、まだ2桁台です。利用者は、夜間にも訪問してもらえるのですごく助かっているのですが、事業所数は伸び悩んでいます。原因は、人材確保難で報酬が少ないことにあります。これは夜勤をする人が確保できないし、夜勤をする割には報酬が少ない、すなわち、採算性の面から運営難であるというところに集約できます。もともと難しい経営ですから、これを引き受けてくれる事業所がない、という結果になってくるわけです。サービスを受けられずに困る利用者が、TVなどで報道されています。利用者にとって、不安は解消されないままであり、介護保険は自治体が運営しますので、自治体にとっても課題が残り、先行き不透明のままとなった今回の結末であります。
今回の事件で、浮き彫りになった介護の課題
これらの共通課題として「要するに介護の人材がいない」これが大きな要因になっているのです。次回は、この課題について考えてみましょう