AHSが取り扱うDAWソフトMAGIX「Music Maker Producer Edition」は低価格でありながら、エフェクトが豊富に付属するのも特徴だ。今回はそのエフェクト周り、そして自動作曲機能であるソングメーカー機能を使ってみよう。

独特のエフェクト操作、ボーカルの補正も可能

DAWソフトの魅力のひとつは、付属するエフェクトで音を作り込めること。ループ素材だけを使った曲でも、エフェクトの使い方ひとつで雰囲気はかなり変わる。「Music Maker Producer Edition」にはリバーブやEQといった基本的なエフェクトを中心に、よく使われるエフェクトが一通り揃っている。

エフェクトの使い方には楽器→エフェクト→ミキサーと繋ぐ「インサーションエフェクト」、ミキサー→センドバスのエフェクト→ミキサーと信号を送る「センドエフェクト」、そしてミキサーのマスターアウトに繋いで最終的な調整を行う「マスタリングエフェクト」の3パターンがある。Music Maker Producer Editionでは、この3パターンすべてを使い分けることができるが、操作方法が少しだけ独特だ。他のDAWソフトを使っていた人には、戸惑う部分もあるだろう。

たとえばインサーションエフェクトはトラック全体にかけることはもちろん、トラック内の各クリップに別々のエフェクトをかけることも可能となっている。また、ミキサー画面からの操作も可能だ。この概念そのものは他のDAWソフトも同じだが、Music Maker Producer Editionでは、行う操作によって各エフェクトを読み込み手動設定する場合と、設定済みのエフェクトプリセットを読み込む場合が混在している。そのため最初は使いたいエフェクトが選べない、ということがある。

各トラックに用意された「FX」ボタンをクリックし、プリセットから選択してトラック全体にインサーションエフェクトをかける。このパターンではエフェクトのパラメータは固定で調整はできない

各クリップを右クリックしてエフェクトを選び、そのクリップ単体にインサーションエフェクトとしてセットできる。この場合はエフェクト画面が開き、自分でパラメータを調整する

10バンドEQ、リバーブ、コンプレッサなど、各種のエフェクトがあらかじめセットされ同時に使えるエフェクトラック。一番下にはコーラスやディレイなどが含まれる「Vintage Effects Suite」がある。自分でインストールしたエフェクトを読み込むことも可能で、それぞれのエフェクトを単体で起動することもできる

ミキサーの各チャンネル(トラック)にはエフェクトラックを呼び出す「FX」ボタン、そして▼をクリックするとVintage Effects SuiteやDirectX/VSTプラグインをセットできる。これはどちらもトラックに対するインサーションエフェクトとなる。なおその下の「FX1」、「FX2」スライダーはエフェクトバスへの信号センド量を設定

これは慣れや好みで印象が変わるだろうが、エフェクト設定の自由度そのものは高い。ウィンドウ下側のテンプレートではあらかじめ設定されたエフェクトテンプレートをクリックするとサウンドの違いを試聴して確認、選択ができる。効果がよくわからないというエントリー層には音作りのヒントとなるだろう。

マスターアウトにはエフェクトラックだけでなく、4バンドEQやコンプレッサ、リミッタを搭載したマスタリング専用エフェクト「Mastering Suite 2.0」を搭載。目的別のプリセットも用意されている

「テンプレート」にはセッティング済みの各種エフェクトテンプレートを用意。クリックするとエフェクトがかかったサンプルサウンドを試聴できる。使いたいテンプレートを決めて、トラックのクリップへドラッグ&ドロップすると、クリップ単位でのインサーションエフェクトとなる

音を変えるという意味で面白いのは、オーディオファイルの音程を細かく調整できるエラスティックオーディオという機能だ。これは楽器音だけでなくボーカルも読み込め、音程や歌い方を調整したり、ハーモニーを加えるといったことができるもの。レコーディングしたボーカルの音程が外れている場合に効果を発揮するだろう。

オーディオクリップに含まれる音の音程を自由に操作できるエラスティックオーディオ機能。ボーカルを調整してうまく歌わせたり、自然なハーモニーを加えたり、といったことができる。もちろんボーカル以外にも活用可能だ

他のソフトではCakewalkの「SONAR 7 Producer Edition」に「V-Vocal」というより強力な機能が搭載されているが、そちらはいわば価格帯が違うDAWソフトであり、この低価格で同じような機能が用意されているのは興味深い。

すぐに曲が完成する自動作曲機能、ソングメーカー

最近のDAWソフトは付属するオーディオ/MIDI素材をドラッグ&ドロップして貼り付け、曲作りができるループシーケンス機能に対応しているものが多い。このMusic Maker Producer Editionも同仕様なのは前回も触れた通り。素材も豊富に付属するため、楽器が弾けなくともすぐに曲を作ることができる。

とはいえまったく初めてこの手のソフトに触れるとなると、素材が豊富なだけにどの素材を貼り付けていくか、逆に悩んでしまうかもしれない。そこでMusic Maker Producer Editionには「ソングメーカー」という自動作曲機能まで用意されている。

使い方はとてもシンプルで、まず最初に曲のスタイルを選び、次に構成する楽器パートと曲の長さを指定するだけ。すべてのパートを自動作成してエフェクトで遊ぶのもいいし、特定のパートは含めず伴奏として曲を作成することもできる。また自分で素材を選んだり、レコーディングしてもよいだろう。コードを指定するといった機能は用意されていないが、曲作りのヒントにはなるはずだ。

ソングメーカーはまず「HipHop」や「RockPop」、「Ambient」といった曲のスタイルを選択する

楽器パートはスタイルに合わせて自動選択されるが、変更も可能。チェックを外しておき、自動作成された伴奏に自分でパートを加えていく、といった使い方ができる

ソングメーカーで作成した曲の一例。これをベースにループ素材を加えたり、エフェクトを使ってみたりといったことができる

Music Maker Producer Editionは低価格なDAWでありながら、豊富なエフェクトにループ素材が付属し、なかなか遊べるソフトとなっている。自動作曲機能のソングメーカーも、まずなにから始めてよいのかわからないといったエントリーユーザーにはありがたいだろう。他のDAWソフトに比べるとオーディオのマルチトラックレコーディングに非対応などの弱点はあるが、価格を考えれば及第点。とりあえずはいろいろな機能を手頃な価格で使ってみたい、という人には最適だろう。