DAW(Digital Audio Workstation)ソフトは音楽制作のための統合環境であり、非常に多機能なソフトが多く、価格的には高価なものが少なくない。そのためこれから始める人には敷居が高いものだが、最近はエントリーユーザー層向けの低価格なものも増えてきた。今回はそのひとつ、AHSが販売する独MAGIXの「Music Maker Producer Edition」をチェックしてみよう。

エントリーユーザーにも手を出しやすい低価格

オーディオ/MIDIレコーディングにプラグイン形式のソフトシンセ/エフェクトの活用、ミキシングやマスタリングと、音楽制作に必要な機能がすべて詰まったソフト。それがDAWソフトである。最近はループ素材を使うことで誰でも曲作りができるループシーケンス機能を備えたものも多く、この機能も統合環境であるDAWソフトの構成要素といえるかもしれない。

DAWソフトはさまざまなメーカーからリリースされているが、Windows環境ではCakewalkの「SONAR」シリーズとSteinbergの「Cubase」シリーズがよく知られているものだろう。どちらもバージョンアップを繰り返し、基本機能はもちろんだが付属するプラグイン類もかなり強力である。

これらのDAWソフトはプロユーザーも使うほど多機能で、価格的には決して安価ではない。プラグインが充実した上位版である「SONAR 7 Producer Edition」、「Cubase 4」は、ともに実売価格で8~10万円近い高価なソフトだ。基本機能は共通で一部プラグインが省略された通常版的な存在の「SONAR 7 Studio Edition」や「Cubase Studio 4」は5万円前後。DAWの機能をフルに活かすにはASIOドライバ対応のオーディオインタフェースも欲しい。それらを考えると、これから音楽制作にチャレンジする人にとっては、やや高価なソフトといえるだろう。

プロが使用するクラスのDAWソフトは付属プラグインも含め非常に多機能だが価格も高価。画像はCakewalkの「SONAR 7 Producer Edition」

もっとも最近はDAWソフトとはいえ高価な製品だけではなく、主に付属プラグインをシンプルにして価格を抑えたエントリーユーザー層向け製品も多く発売されている。SONARシリーズならば「SONAR Home Studio 6」、Cubaseシリーズならば「Cubase Essential 4」がそれにあたり、実売価格も1~2万円前後とかなり手頃だ。今回はそんな低価格DAWソフトのひとつ、AHSが販売する独MAGIXの「Music Maker Producer Edition」をチェックしてみよう。

Cubaseシリーズのエントリーバージョンである「Cubase Essential 4」

プロ向けDAW「Samplitude」シリーズのエンジンをベースに

MAGIXは「Samplitude」シリーズや「Sequoia」といった高機能DAWソフトをリリースしているメーカー。Samplitudeの中でも最上位バージョンの「Samplitude 10 Pro」は10万円オーバー、Sequioiaはそれ以上の価格帯ということもあり日本の一般向け市場ではそれほど広く普及しているソフトではないが、長い伝統もあり世界のプロ市場では定番的な人気を誇っている。

低価格ながらも「Samplitude」シリーズと同じエンジンをベースにしているMAGIXのDAWソフト「Music Maker Producer Edition」

Music Maker Producer EditionはそのMAGIXがリリースした低価格DAWソフトだ。標準価格は1万4,800円、実売価格で1万円弱という価格でありながら、エンジン部分はSamplitudeをベースとしている。機能的にはDAWソフトの基本であるオーディオ/MIDIレコーディングに当然対応。ループシーケンス機能にも対応しており、あらかじめ3500種類以上もの豊富なループ素材が付属し、各トラックへドラッグ&ドロップすることで簡単に曲作りができる。

トラックはオーディオ/MIDIの区別はなく、RECボタンをクリックすることで種別を切り替え、または貼り付ける素材によって自動設定される。なお同時に複数のトラックへ録音するマルチトラックレコーディングには非対応

「サウンドプール」タブで収録されているループ素材をジャンルや楽器別に分類表示し、クリックして試聴。各トラックへドラッグ&ドロップすることで素材を貼り付ける。収録素材はオーディオ/MIDIが混在しているが、ドラッグ&ドロップすることによってトラックが自動設定されるため、その違いはあまり意識する必要はない

ソフトシンセはソフトウェアサンプラーである「VITA」とアナログシンセをモデリングした「Revolta2」などが付属する。MIDI編集はMIDIキーボードを使ったリアルタイムレコーディングとピアノロールを使うMIDIエディタを用意。ドラムトラックの打ち込みにはドラムエディタも利用できる。鍵盤が苦手な人でも使いやすいステップレコーディングが用意されていないのは残念だが、一通りの機能は備えているといえるだろう。

独YELLOW TOOLSと共同開発したサンプラータイプのソフトシンセ「VITA」。ピアノ、ベース、エレピ、ギター、ストリングスなど多くのライブラリを収録している

アナログシンセをモデリングした「Revolta2」。2基のオシレータとLFO、そしてディレイやリバーブといったマルチエフェクトも2系統内蔵している

MIDIエディタは一般的なピアノロール画面に加え、ドラムトラックを効率よく作成できるドラムエディタでの編集にも対応している

そしてエフェクトについては次回に触れるが、かなり豊富に付属しており、この価格帯としては驚きの充実度を誇る。またVST/DirectXプラグインに対応しているため、好みのエフェクトを追加することも可能だ。なおソフトシンセはVSTiに対応しており、こちらももちろん追加できる。ただしDXi形式には未対応だ。次回は付属する強力なエフェクト群、そしてちょっと珍しい機能についても紹介していこう。