世界中にさまざまなメーカーが存在する中、フランスのArturiaはヴィンテージシンセサイザーを再現したソフトウェアシンセサイザーを豊富にリリースしていることで知られている。そのArturiaが初めてハードウェアシンセサイザーを発売するという。
ヴィンテージシンセを再現したソフトシンセを豊富にリリースしてきたArturia
パソコンを楽器に変えることができるソフトウェア、それがソフトウェアシンセサイザーだ。現在はソフトで再現する音源にもいろいろあり、巨大なサウンドライブラリを収録したサンプラー音源も少なくない。これらは総称としてソフトシンセと呼ばれている。
ソフトシンセにはハードウェアにはないメリットがおおきく二つある。まずは製品そのものの価格がハードウェアシンセサイザーと比較して安価であること。次にすべてがパソコンの中に入ってしまうため、保管や持ち運びの手間がないことだ。逆にデメリットとしてはキーボードやマウスでの操作が中心となるため、専用設計のハードウェアに比べ操作性に劣る面がある。単純に弾くだけならばMIDIキーボードを使えばよいが、演奏しながら複数のパラメータを動かすときなど、やはりハードウェアシンセサイザーのほうがわかりやすいといえる。
伝説のアナログシンセ、Moog Modular Systemを再現したArturiaのソフトシンセ「moog modular V」。ソフトでも実機と同じくバーチャルケーブルをパッチングして同様に楽しめる |
Arturiaが最初に作り出した製品がDAWソフトである「Storm」シリーズ、これは現在の最新版となる「Storm 3」 |
ソフトシンセを開発しているメーカーはそれこそ世界中にたくさん存在している。そのなかでも仏Arturia(アートリア)は黎明期のアナログシンセシンセサイザーとして知られるMoog Modular Systemを再現した「moog moular V」を始めとして、「ARP 2600 V」や「Prophet V」など、ヴィンテージシンセのサウンドや機能を再現したソフトシンセを精力的に送り出してきたメーカーである。
同社が最初に送り出した製品はDAWソフトである「Storm」で、最初のバージョンは2000年にリリースされた。比較的新しく、ソフトシンセの全盛時代に誕生したメーカーである。事実、これまでにリリースしたシンセはすべてがソフトシンセなのだが、そのArturiaが発売に向けて開発を続けているハードウェアシンセが「Origin」だ。来日したArturiaの代表取締役社長、Frederic Brun(フレデリック・ブルン)氏に話を伺う機会があったので、Originについてインタビューを行った。
これまでにない形のハードウェアシンセを目指した
――これまでソフトシンセ専業だったArturiaが、ハードウェアシンセであるOriginを開発することとなった経緯を教えてください。
Brun「これまでに数多くのソフトシンセをリリースしてきましたが、ユーザやアーティストから『ハードウェアシンセは作らないのか? 』というリクエストが寄せられていました。確かにハードウェアシンセはライブでも操作しやすく、また動作が安定しているので我々としても興味はありました。そこで構想を固め、いろいろなアーティストにも意見をもらって、コンセプトを決めていきました」
――そのOriginのコンセプトとはどんなものでしょうか?
Frederic Brun氏(以下Brun) 「サウンドがよいこと、アナログシンセ的なハードウェアコントローラで操作できること、そしてこれまでにはなかったような新しい形のハードウェアシンセを目指しました。この新しい形とは、さまざまなシンセをモジュラーとして組み合わせて音作りを行う、モジュラーシンセということを指しています。OriginにはMoog ModularやARP 2600など、さまざまなシンセがモジュールとして分解され収録されているのですが、これを自由に組み合わせてサウンドを作ることが出来ます。パッチングも自由で、またエフェクトを追加してパッチを作ることも可能です。ステップシーケンサ機能も搭載され、これはTB-303のように3つのシーケンスを同時に走らせることが可能です」
さまざまなモジュールを自由に組み合わせ、音作りを行う。ディスプレイ周りの8つのエンコーダは自由にパラメータにアサインしてコントロールできるという |
ステップシーケンサやジョイスティックも搭載、ジョイスティックを使えばProphetのようにサウンドを変調させることも可能だという |
――Moog ModularやARP 2600などは既にパソコンのソフトシンセとしてもリリースされているものですね。これはソフトシンセと同じものがOriginに収録されているのですか?
Brun「いえ、違います。まずこのOriginにはIntelのCPUは搭載せず、TigerSHARCという音楽用途のDSPを2つ搭載しています。そのためソフトシンセをそのまま走らせることは出来ません。ですからパラメータの設定を同じにしても、ソフトシンセとOriginとはサウンドが違うこともあるのです」
――Originは初のハードウェアですが、これはすべてArturia社内で開発されたのでしょうか?
Brun「外部のさまざまな企業と協力して開発しています。たとえばメカニズム面ではドイツのある企業と協力しています。生産はフランス国内で行い、ファームウェアはArturia内で開発しています。本来は1年半前に出荷できる予定だったのですが、遅れているのはファームウェア開発にこだわったためです。安定、かつ高速な動作を実現させるため、ここは妥協できませんでした。やはり初のハードウェア製品なので、不具合がない状態で出荷したいですから」
――デモ機を見る限りではかなり製品に近いように見えますが、いつごろ出荷されるのでしょうか?
Brun「これはもう最終製品に近く、現在βテストを行っているものです。今年に夏の終わりごろには出荷予定ですが、出来れば全世界で同時発売したいと考えています。日本での価格は出来れば39万円以下にしたいと思っています」
――Origin以降の予定についても教えてください。
Brun「まずはOriginのテンプレートを充実させる予定です。次の製品としてはOriginにキーボードを搭載した「Origin Keyboard」が控えています、これはキーボードだけでなくリボンコントローラも搭載したことが特徴で、2008年末か、年明けのNAMM Showで発表できる予定です」
デモ演奏を見ると、Originはモジュラーシンセとしてかなり自由な音作りができるハードウェアシンセで、サウンドも太く、迫力がある。価格的には誰もが気軽に手を出せるというものではないが、新世代のハードウェアシンセを作り出す、というコンセプトは十分に反映されており発売が楽しみだ。