ボーズが発売した、プレイヤー自身が音作りもコントロールできる新しい発想のコンパクトなPAシステム「L1 model I system」。前回は概略を紹介したが今回はボーズならではの独自機能「ToneMatchプリセット」やオプションとして用意される「T1 ToneMatch audio engine」、そして実際の演奏風景を紹介しよう。
楽器に合わせて最適なサウンドを実現するToneMatchプリセット搭載
今回はユニットの台座の部分である、アンプを内蔵した「パワースタンドPS1」の後方に配置されている接続端子からチェックしていこう。パワースタンドPS1には4系統の入力端子が用意されている。チャンネル1、2はギター/ベースやマイクを接続できるXLR(バランス)/TRSフォン(アンバランス)コンボジャックで、ファンタム電源にも対応する。また、チャンネル1、2には外部エフェクトを接続できるインサート端子やL1 model I systemの音を外部ミキサーへ送るためのラインアウト端子も用意されている。チャンネル3、4はラインイン端子で、たとえばリズムマシンなどを接続できるだろう。向かって右側には電源スイッチやACケーブル、そしてB1ベースモジュールを接続するNL4(スピコン)端子などが用意される。
後方に向かって左側にはチャンネル1~4と入力端子が集まる。Trimノブ左上のSignal/OKインジケータは入力レベル調整に使用する簡易的なレベルメータのようなもの |
向かって右側には電源スイッチやB1ベースモジュール用出力端子、そしてR1リモートコントローラーを接続するRemote端子などが用意されている |
とりあえず音を出すのは非常に簡単で、たとえばチャンネル1にギター、チャンネル2にマイクを接続し、Trimノブでゲインを調整してやればよい。ただし、この端子周辺にはチャンネル1、2のLevelノブ、またL1 model I system全体のボリュームを調整するためのマスターボリュームが用意されていない。
チャンネル1、2のレベル調整、そしてマスターボリュームの調整は同梱される「R1リモートコントローラー」で行う。これはマスターボリューム、そしてチャンネル1、2のレベル、さらにEQを調整するためにHigh/Mid/Lowとノブが用意されている。手元にこのR1リモートコントローラーを置いておけば、演奏中にチャンネル1、2のバランスを調整したり、EQを調整することも可能だ。チャンネル1、2にはもうひとつ、特徴的な機能がある。それが接続した楽器やマイクの特性に合わせ、L1 model I systemのスピーカー特性を補正して理想的なサウンドで鳴らすEQプリセットである「ToneMatchプリセット」だ。
標準で付属するR1リモートコントローラーはパワースタンドPS1のRemote端子とケーブルで接続して使う。マスターボリュームとチャンネル1/2のレベル調整、そしてチャンネル1/2の3バンドEQのコントロールができる |
チャンネル1、2にはToneMatchプリセットを切り替えるためのボタンが用意される。プリセットは番号で選択、下に見えるのはそのプリセット番号の内容を表示しているカードだ |
これは単純に「マイク用」「エレキギター用」といったプリセットだけでなく、もっと具体的にたとえばマイクならば「シュアーのSM57」、ギターならば「ストラトキャスター」など、固有の製品用プリセットまで、合計100種類が用意されている。このプリセットはボーズと各楽器メーカーが協力し、作成されたものだ。
マルチエフェクタを追加できるオプション、T1 ToneMatch audio engine
このようにL1 model I systemは、初期状態でもToneMatchプリセットによる音質補正が可能だが、エフェクトなどは搭載されていない。そこでL1 model I systemにマルチエフェクタを追加し、さらに入力端子を増やすなど機能を拡張できるオプションが「T1 ToneMatch audio engine」(以下T1)だ。
このT1はパワースタンドPS1のチャンネル3、または4に接続して使う、L1 model I system専用のプロセッシングユニット。チャンネル1~3はXLR/TRSフォンコンボジャック、チャンネル4、5はTRSフォンジャックを搭載している。T1はL1スピーカーの真ん中あたりに浮かせて装着できるアタッチメントが付属するほか、別売のブラケットを使えばマイクスタンドに装着することもできる。
T1にはダイナミクス系は、3パターンのコンプレッサやディエッサーなど8種類、モジュレーション系はコーラスやフェイザーなど10種類、ディレイ系は3種類、リバーブ系は5種類のエフェクト機能が用意されており、各チャンネルに独立してエフェクトを設定できる。
またT1ではチャンネル1~5に接続した楽器それぞれに独立してToneMatchプリセットを選択できるほか、ToneMatchプリセットに連動して接続した楽器の音質を3バンドEQで調整できる「zEQ機能」も搭載。細かい音作りを可能としている。
T1ではToneMatchプリセットやエフェクトなど、各チャンネルの設定を「シーン」としてまとめて保存し、たとえば使うプレーヤやステージ環境に合わせてすばやく切り替えることもできる。このシーンはT1に搭載されているUSBポートでパソコンと接続し、ボーズの米Webサイトで無償配布されているソフトウェア「L1 Updater Software」を使うことで入れ替えることができるだけでなく、他のL1 model I systemユーザーと共有することも可能だ。
さて、L1 model I systemの実際のサウンドはどうなのだろうか。今回は都内ライブハウスを中心に、エレガット(エレクトリックアコースティックギター)&ボーカルで精力的にライブを行っているアーティスト、みやじまん氏にご協力いただき、試聴を行った。
まず、演奏者の立ち位置=実際に音が出る位置である、ということ。これは見慣れない光景で、ちょっと不思議な体験だ。正面だけでなく左右に移動して各位置での音をチェックしてみたが、それほど広くないスペースとはいえ音が変わることはなく、一台のスピーカーで会場全体に均一な音を届けるというコンセプトは確かに実現されているようだ。
L1 model I systemで演奏を行うみやじまん氏。L1スピーカーは細長く、かなり高さがあることがわかるだろう。なお氏のライブ予定は Webサイトでチェック、5月12日には 神楽坂ディメンジョンにてソロパフォーマンス予定 |
付属キャリーバックに収めた状態、左手の細長いケースが2分割したL1スピーカー、右手の大きなケースがパワースタンドPS1、地面に置いてあるのがB1ベースモジュール。楽器も考えるとカートなどを併用しなくては1人で電車移動することは難しいが、自動車に積み込む程度なら十分可能だろう |
ToneMatchプリセットによる音質補正、そしてオプションのT1も接続してエフェクト機能などもチェックしたが、演奏者のみやじまん氏には好評で、気持ちよく演奏していたのが印象的。モニタースピーカーとPAスピーカーを1台で兼ねるという特殊な構成も、音は聴き取りやすいというコメントをもらった。今回は1台のL1 model I systemと1人の演奏者といういわばベーシックな構成で試したが、これがたとえば3台のL1 model I System+3人の演奏者といったパターンだと、うたわれている通りにモニターしやすいのかどうか、ちょっと興味があるところだ。
L1 model I systemは個人でも所有でき、また1人ですべてをコントロールできるPAシステムという点で面白い。たとえば、サークルで1台購入し、スケジュールを組んで交代で使うという手もあるだろう。それこそライブハウスに導入されれば、人気が広がっていきそうだ。