パソコンにスピーカーを接続して音楽を鳴らす、ギターを接続してDAWソフトでレコーディングする、パソコンで「音」を扱うにはサウンド機能が必須である。今回はパソコンにおけるサウンド機能の位置づけから、音楽制作に適したオーディオインタフェース選びまで、その基本を確認してみよう。

Windowsパソコンにサウンド環境は非標準?

現在のパソコンはデスクトップとノート、またメーカー完成品と自作パソコンを問わず、何らかのサウンド機能が内蔵されているといってよい。またOSであるWindowsそのものにもマルチメディアプレイヤーソフトとしてWindows Media Playerが用意されているため、音楽CDやMP3/WMAファイルをすぐに聞くことが可能だ。

Windows Vistaに用意されているプレイヤーソフトWindows Media Player11。音楽CDや各種オーディオファイルはもちろん、動画などさまざまなファイルを再生することができるが、使うにはパソコンにサウンド機能が用意されていることが前提となる

このことからWindowsパソコンでは「音」を扱うサウンド機能が標準的にサポートされていると捕らえがちだが、実はそうではない。Windowsが稼動するハードウェアはPC/ATという規格をベースとしているが、PC/ATではサウンド機能は明確に定義されていない。つまりPC/ATに準拠したハードウェアでも、サウンド機能を搭載していないということもありえる。実際に最新版のWindowsであるWindows Vistaであっても、サウンド機能は推奨環境ではあるが最小環境ではないのだ。

ただし現状では、メーカー製パソコンはもちろんだが、マザーボードやCPUを自分で選んで作り上げる自作パソコンであっても、マザーボードにサウンド機能が搭載されている。これは一般的にオンボードサウンドと呼ぶが、市場の要求に従って搭載されるようになったといえるだろう。パソコンショップには内蔵型のサウンドカード、またはUSBやIEEE1394で接続する外付け型のオーディオインタフェースが並んでいるが、そういったものを別途購入しなくても、パソコンで「音」を扱うことはできるのが現状だ。

音楽制作におけるオンボードサウンドの問題点

先に述べたようにパソコンのサウンド機能はPC/ATでは明確に規定されていないが、少し前のオンボードサウンドは「AC97」、現在は「Intel HD Audio」という規格に対応しているものが過半数である。Intel HD Audioはサンプリングビット数およびサンプリングレートが最高32bit/192kHzまで対応、8chまでのサラウンド出力にも対応するなど、なかなかハイスペックである。これは16bit/44.1kHzの音楽CDを聴くだけでなく、最近の高性能なDAWソフトであっても十分なスペックだ。

Shuttleのキューブ型ベアボーン「SD32G2」はRealtek AKC882をオンボードに搭載してIntel HD Audio準拠、5.1chや7.1chといったサラウンド環境にも対応している

ただし実際には、主に二つの理由から、DAWソフトを使って音楽制作を行うにはオンボードサウンドは向いているとはいえない。

まずひとつ目は、ドライバの問題だ。Windowsでは多少の進化はあるものの、これまではMMEドライバと呼ばれるものをベースにしてきた。このMMEドライバはWindowsが内蔵する仮想的なミキサーを通しており、そこで音質が劣化すると共に、ソフトウェア的な処理に起因するレイテンシ(遅れ)が発生する。具体的にはDAWソフト上でソフトシンセを立ち上げ、MIDIキーボードから演奏しようとした場合、鍵盤を弾いてから実際に音が出るまでタイムラグが発生してしまう。これは実際に試すとすぐにわかるが、かなり使いづらい。

音楽制作においてこのレイテンシは致命的なため、Steinberg社が提唱し、現在のDTM関連ソフトではスタンダードな存在となっているのがASIOドライバと呼ばれるものだ。これは実用上、問題ないレベルまでレイテンシを小さくすることができる。

つまり、パソコンを音楽制作に使うにはこのASIOドライバに対応したサウンド機能が必須といえるのだが、残念ながらオンボードサウンド用のASIOドライバは一般的には用意されていない。逆に音楽制作を視野に入れて開発されたオーディオインタフェースでは、ほとんどがASIOドライバが用意されている。

Steinbergの「Cubase 4」を始めとして、本格的なDAWソフトでは必ずといってよいほどASIOドライバが利用できる

ふたつ目は音質や入出力ポートの問題だ。Intel HD Audioでは最大32bit/192kHzに対応するとはいえ、それはあくまでもデジタルオーディオの話であり、音楽制作ではアナログオーディオ信号も当然扱うことになる。アナログオーディオは部品選択やノイズ対策も含めた回路設計が重要であり、オンボードサウンドはコスト面の制約などから優れているとはいえない。また使い勝手の面でも、オンボードサウンドは入出力ポートがステレオミニプラグとなっており、たとえば外部ミキサーやエフェクトを繋ぐには適しているとはいえないのだ。またボーカルやドラムを録音するにはマイクが必須、オンボードサウンドであってもマイク入力端子は用意されているが、さすがにファンタム電源供給などには対応していないため、コンデンサマイクを使うといったことはできない。

Shuttleの「SD32G2」はフロントパネルにヘッドフォン出力とマイク入力端子を装備するが、端子形状はミニプラグ、またファンタム電源などにも対応していない

「SD32G2」はリアパネルに1系統のライン入力、そして4系統のスピーカー出力端子を備え、サラウンド環境にも対応する。端子形状はすべてステレオミニプラグだ

こういったことから、オンボードサウンドでDAWソフトなどを使って音楽制作ができないわけではないが、決して環境としてベターではないことがわかっていただけただろう。次回以降は、音楽制作向けのオーディオインタフェース選びについて触れていこう。