連載「ワーママのモヤモヤ整理します」は、託児付きランチサービス「ここるく」の経営者で、育休復帰・働き方改革のコンサルティングも手掛ける山下真実さんが、ワーママが抱えるモヤモヤを整理・解消に導いていく企画です。
6回目となるモヤモヤ整理は、フリーランスのライターとして働くはるかさんが主人公。結婚を機に専業主婦となった後、子育てをしながら少しずつ仕事を増やしてきたというはるかさんですが、夫の扶養内で働いていることにモヤモヤしているといいます。
現状の働き方でキャリアを積むことは可能なのか、そもそもキャリアって何なのか? 突き詰めていくと、実は多くのママたちが抱えがちな課題が見えてきました。
【今回の相談者】
はるかさん(32歳) フリーランスのライター。結婚を機に専業主婦となったが、男の子2人の子育ての傍ら、少しずつ仕事を増やしてきた。現在は扶養内で働いていて、今後どのようにキャリアを積んでいけばいいのか、そもそも自分はどのように働いていきたいのか、モヤモヤを抱えている。
「キャリアを積む」と「キャリアアップする」は同義ではない
はるかさん: 「フリーランスのライターとして働いています。年収も多くはないし、『いい会社に入ってこんな大きな仕事をしました』みたいな実績もないし、現状の働き方でちゃんとキャリアを積めているのか不安です。現在は子育てが大変なのもあって、扶養内で働いているのですが、扶養内で働いていたらキャリアとは言えないのかなとか、そもそも扶養から抜けるべきなのか否かについても、悩んでいて……」
山下さん:
「日本ではどうしても、キャリアを積む=キャリアアップするというイメージを持っている方が多いと思います。でも私は、キャリアとは『どんな経験をしてきたか』『何ができるか』だと思うんです。対価が伴わなくても、社会人としての能力・スキルが高められていれば、それは『キャリアを積んでいる』ということになります」
「例えば私の身近には、自分の領域を広げるためにボランティアをしたり、お給料は下がってもあえて異業種に飛び込んで、不足しているスキルを身に付けたりして、最終的に自分の市場価値を高めた人もいますよ」
はるかさん: 「どこかで仕事をしようと思ったときに、自分の経歴書に書けるような実績がキャリアだと思っていました。現在の働き方だと、自分の仕事に対して点数が付けられるわけでもないし、組織の中で昇進していくわけでもないので、キャリアを積めていると言えるのが分かりません……」
山下さん: 「この先なりたい姿はありますか? そしてその姿に向かって、能力・スキルを積み上げていくような時間を過ごせているかしら?」
はるかさん: 「そう言われてみると、例えば、10年後になりたい姿が想像できないんですよね……ライターとして仕事を続けていきたいという思いはあるんですが、名声を得たいわけでもないんです。いじめや不登校の問題に興味があるので、そういう領域の取材をしたいという思いはほんわかとあるんですけど……」
まずは『自分がなりたい姿』を掘り下げることから始めよう
山下さん:
「先が見えない感覚をお持ちなのだと思いますが、多分はるかさんの場合は、『なんとなく方向感はあるのだけれど、その先をじっと見つめるのが不安』なのでは?』」
「誰にも言わなくていい、家族にも言わなくていいから、自分のやりたいことを一度書き起こしてみてはいかがですか? 自分で自分を取材するようなイメージです。いじめとか不登校といったテーマにどうして自分は興味がわくのか、過去見たり体験したりしたことが影響しているんじゃないかとか、掘り下げていくとクリアになるかもしれません」
「周囲からどう思われるか気にしだすと、自分を突き詰められなくなってしまいます。生きる目的や働く目的、こういうのが好き、こうありたいと思っていることを、自分にだけは包み隠さず見せてあげられる時間が持てるといいですね」
はるかさん: 「そう言われてみると、ママになってから自分が薄れてたっていうのはすごく最近感じます。子どもが生まれてから7年間くらい、自分のやりたいことを突き詰めて考えることがありませんでした。自分にとっての第一優先事項として、子どもの存在があったので。最近上の子が小学生になったり、下の子が保育園に入ったりして、手が離れてきたんですよね。そこでふと『今やりたいことって何だろう?』と思いだしているところなのかもしれません」
山下さん: 「そうやって自覚できたことが大きな一歩! そこに向き合いきれていないママの方が多いかもしれませんよ」
『ママ』ではない、『私』を主語にした行動を
はるかさん: 「子育ても家事もしながら、やりたいことができるのか、やりたいことを仕事でできたら最高だけど、可能なのかという思いもあります」
山下さん:
「う~ん……やりたいことは、やっちゃうしかないよね(笑)、いや、本当に! 私も自分の会社を始めてから7年目に入るのですが、これからはとにかく『仕事を通して真剣に遊ぼう!』と思っています。これまで6年間事業をやってきて、本当にしんどくて(笑)、でもしんどいのはこれからもきっと変わらない。その過程をただただしんどいと思うんじゃなくて、仕事という自分に与えられた人生のミッションを真剣に遊ぶ中で、高みに持っていきたいなと思っているんです」
「はるかさんもきっとやりたいことをやっていく過程で、子どもの関係で仕事が進まなかったり、周囲の理解や協力が得られず後退したりすることがあるかもしれない。でも、そういうのも含めて『やりたいことをやっている』ことになるのよ。まずやってみて、やっている最中のドタバタ劇を楽しむ、なにこれって笑っちゃうくらいの感覚で向き合えたらいいんじゃないかな」
はるかさん: 「子育て中、『やりたいことができていない』という思いがずっとありました。家事や育児など必要なことだけを1日中やっていて、自分のやりたいことを全部我慢し続けてきたから、『そもそも私は、どういう人間なんだっけ』というところからのスタートなんですけど……」
山下さん:
「子どもを中心に生活が回ると、自分ってどんどん後ろに回っていってしまうと思うんですよね。そしてその期間が長ければ長いほど、自分っていう感覚を取り戻すのが難しくなっちゃうのは確かだと思うんですよ」
「でも、自分を取り戻すのに遅すぎることはないから、大丈夫。まずは『スタバで1杯のコーヒーが飲みたい』といった些細な希望からでいい。小さなやりたいことを実現していけば、次のもっと本当にやりたいことに気づくかもしれませんよ」
はるかさん: 「そうですね! 例えば洋服も、子どもに汚されてもいいもの、楽なものばかり着ているけれど、そういうのを一切取り払って『私が好きな洋服』を買ってみるのもいいかも」
山下さん: 「そう! そんな感じです!! 子育てをしていると、『子ども』や『ママ』が主語の会話がすごく多くなると思うけど、ママではない、純粋な『私』を主語にした行動や発言を増やしていくのも、トレーニングになるかもしれませんね。子どもが『今砂場で遊びたいから砂場に行く』というように、気軽にやりたいと思ったことを、周りの目を気にせずにやっていくことから始めていけば、自分のなりたい姿が少しずつ見えてくると思いますよ」
山下真実
株式会社ここるく 代表取締役・社会起業家・2児の母
米国留学によるMBA取得、米系投資銀行・金融コンサルを経て、ママになったことをきっかけに子育て支援という全くの新領域へ。人気レストランから選べる託児付きランチサービス「ここるく」を2013年にスタート。サービスを通じて集まる働くママのインサイトと、MBA・コンサルで得た専門知識の両面から、ママ向けサービス開発や育休復帰・働き方改革コンサルティングなども手掛ける。
『第14回女性起業家大賞』、三菱UFJ銀行主催『Rise Up Festa』最優秀賞受賞。