連載「ワーママのモヤモヤ整理します」は、託児付きランチサービス「ここるく」の経営者で、育休復帰・働き方改革のコンサルティングも手掛ける山下真実さんが、ワーママが抱えるモヤモヤを整理・解消に導いていく企画です。
11回目となるモヤモヤ整理の相談者は、去年復職し、大手企業でマネージャーとして活躍しながら、副業にもチャレンジしているひろみさんです。産休前は朝から晩まで働き、仕事の最前線を全速力で走り続けてきたひろみさんですが、出産後、キャリア観に変化が生まれ、転職すべきかどうか悩んでいるといいます。
【今回の相談者】
ひろみさん(34歳) 3歳の男の子、夫との3人暮らし。数十名の部下を率いるマネージャーとして日々忙しい日々を送る中で、副業にもチャレンジしている。現在の会社の経営方針や働き方に関して、違和感を感じてモヤモヤを抱える日々。
育休中に感じた「働くこと」への違和感がしこりに
ひろみさん: 「これまで私は、仕事の最先端で全速力で走り続ける、働き続けることにやりがいを見出していました。でも子どもが生まれてから、天気や子どもの体調といった要因の中で、臨機応変にお出掛け先や家での過ごし方を変えていく生活が、動物としてすごく自然だなぁと感じて。会社の中の時間軸に振り回される仕事の仕方はもうできない、でも復職後、周りがそういう働き方をしている中で自分だけが全速力で走れないのは申し訳ない、という気持ちがありました。コロナ後、テレワークも浸透し、十分働きやすくはなったと思います。それでも、今の働き方のままでいいのか、疑問を感じて日々暮らしているような状態です」
山下さん: 「頭にぱっと浮かぶ、"こういう働き方だったらいいな"というのを、言葉にできたりしますか?」
ひろみさん: 「仕事がしたくないわけではなくて、ちゃんと走っていたいし、日々成長もしたいと思っています。ただ、そういう日もあれば、仕事のアクセルをゆるめて自分や家族と向き合う日もある、そんな暮らしができたらいいなと思いますね」
山下さん: 「私も産後2年ほどコンサルティング会社で働いていて、ひろみさんと同じようなモヤモヤを抱えていたので、当時のことを思い出しながらお話を聞いていました。子どもの病気や大切な節目のタイミングに立ち会えない場面が続いて"何のために仕事をしているんだっけ"と働き方に疑問を持つようになって……それが起業するきっかけの一つでもあるんですよね」「ひろみさんの中では、子どもが生まれたことをきっかけに仕事観が変化している。でも、上司・同僚や会社が考えているひろみさんの社会人としての姿は産前から変化していない、そこにギャップが生まれているように思います」
副業先へ転職も? 決断は"結婚"と同じように考えて
ひろみさん: 「正直なところ、会社の働き方だけでなく、事業についての考え方や、経営方針にも疑問が生まれています。もちろん担っている業務の役割に意味づけをして働き続けることも可能だと思うのですが、そうやって気持ちをどうにかこねくり回して働くことに意味があるのかと考えてしまいます。一方で、副業先の企業では会社の考える価値がはっきりしているし、共感できる。働く時間も場所もスタイルも本当に自由です。今は自由な働き方の中で、感覚的に"良い"と思うもの、価値がはっきりわかっているものに対して、コミットしていきたいという気持ちが生まれています」。
山下さん: 「育休や出産、妊娠ってパラダイムシフトが起こりやすいライフイベントだと思うし、私もガラガラと音を立てて職業観や人生観が変わったから、大きな変化があったんだろうなと思います。ひろみさんに関しては、自分が納得して働けるということに、今まで以上にウエイトが置かれるようになったのかもしれませんね。納得した働き方を突き詰めると、転職しかないんじゃないか、キャリアダウンになるんじゃないかという予感があるから、怖くて億劫かもしれないけれど、ぜひ向き合ってほしいです」
ひろみさん: 「そうですよね……実際、納得感を優先すると、転職しかないと思っているんです。一方で、やっぱり一番怖いのが、転職先で自分が本当にやりたい方向で価値を提供できるのかどうか。そこに自信が持てません」
山下さん: 「なるほど。そのように不安に思う気持ちはわかります。ただ私だって、今まで100%やり切れると思って受けた仕事は一つもありません。"絶対無理"と感じないのであれば、やってみようかなと思えることは、やってみる中で上手に乗り切っていけるものではないでしょうか」「キャリアや転職の決断って結婚と同じで、"そう決めた自分の意志をどこまで尊重して守っていけるか"が大切だと思うんですよね。その時点で決断が正しいかどうかは分からなくても、"これから長くお付き合いできるだろう"と納得できる決断であることの方が、大事だと私は思います」
ひろみさん: 「条件面とかそういうことではなくて、決断や納得感みたいなものと、どれだけ長くお付き合いできるかというのは、大切な視点ですね。付き合う男と結婚する男は違うじゃないですけど(笑)。でも、結婚だってやめてもいいわけだから、違ったらやめてもいいというのも含めて、前向きに意思決定できるといいなと思いました」
会社に対して感じた違和感はため込まず上司に伝えよう
山下さん: 「それから、転職するか否かは別として、会社の事業についての考え方や、経営の仕方に疑問や違和感を抱えているなら、ぜひ組織や上司に伝えてあげてください。きっと喜ばれると思いますよ。経営者の視点に立って考えられる社員というは、会社にとって宝です。もしかしたらその視点が事業の改善につながるかもしれないし、意見をぶつけることで、ひろみさんが見えていなかった会社や上司の視点を知るきっかけになるかもしれません」
ひろみさん: 「確かに、そうですね。お話を聞いて、違和感のまま捨てちゃうのはもったいないし、自分の中でため込まず、組織にお届けしたいなと思いました」
山下さん: 「俯瞰的に物事を見ることができるのは、ひろみさんの強みだと思います。そして、お仕事が出来る方だと思うし、きっとどの組織に行かれても出世すると思います。どういう結論が出ても、納得して歩んでいかれそうという予感はあるので、そこは自信を持って進んでいってくださいね」
山下真実
株式会社ここるく 代表取締役・社会起業家・2児の母
米国留学によるMBA取得、米系投資銀行・金融コンサルを経て、ママになったことをきっかけに子育て支援という全くの新領域へ。人気レストランから選べる託児付きランチサービス「ここるく」を2013年にスタート。サービスを通じて集まる働くママのインサイトと、MBA・コンサルで得た専門知識の両面から、ママ向けサービス開発や育休復帰・働き方改革コンサルティングなども手掛ける。
『第14回女性起業家大賞』、三菱UFJ銀行主催『Rise Up Festa』最優秀賞受賞。