先日、意外なニュースが報じられた。「空飛ぶクルマ」の実現をめざす有志団体「CARTIVATOR」に、トヨタグループ15社から総額4,250万円の支援が決定したというのだ。報道が4月1日だったらジョークかと思ってしまう話だが、このニュースは5月半ばに報じられた。この件に限らず、「空飛ぶ自動車」のニュースが相次いでいることに気づいた人も多いだろう。そこで今回は、世界のおもな「空飛ぶ自動車」をチェックしてみよう。

「CARTIVATOR」による「空飛ぶクルマ」イメージ図。「CARTIVATOR」は現在、2020年東京オリンピック・パラリンピックでの発表、2025年の第1モデル発売を目標に活動を行っている

予約受付を開始したエアロモービル社と、垂直離着陸機「Lilium Jet」

トヨタのニュースの数週間前、スロバキアのエアロモービル社が「空飛ぶ自動車」の予約受付を開始したと報じられた。展示会で市販仕様車を公開し、間もなく量産を開始して、2020年までにデリバリーを開始するという。

エアロモービル社の「空飛ぶ自動車」は、数年前にも動画が公開されている。主翼は可変後退翼のように後方に折りたためる構造で、飛行時のシルエットは常識的な飛行機の形にかなり近い。それゆえに現実性が高そうな印象だが、逆に道路を走る姿はかなり奇妙で、巨大なボディサイズの割に車内はかなり狭そうだ。

エアロモービル社のニュースとほぼ同じ時期に報じられたもうひとつの「空飛ぶ自動車」が、ドイツのリリウム社によって開発された垂直離着陸機「Lilium Jet」だ。垂直離着陸は航空機にとって非常に難易度が高いものだが、同モデルは電動でそれを実現したという。もちろん、これは世界初となる。

ただ、「Lilium Jet」はどうも自動車のように道路を走行することはできない、というより想定していないらしい。滑走路を必要としないことから、「自動車のような感覚で利用できる飛行機」という意味で「空飛ぶ自動車」と銘打っているようだ。じつは「空飛ぶ自動車」という言葉は、道路を走行して空港へ行き、離陸する「空陸両用車」と、道路を走行する代わりに飛行する「自動車っぽい飛行機」の2つの意味で使われている。

予約受付を開始し、さらに次世代機も発表したテレフギア社

米国のテレフギア社は、MITの卒業生5人が設立したベンチャー企業。すでに「トランジション」という「空飛ぶ自動車」の予約受付を開始している。「トランジション」は主翼を折り曲げてたたみ、道路を走行できる空陸両用車。米国ですでに承認を受けており、ウェブサイトから予約を行うこともできる。

この「トランジション」がまだデリバリーされていないにもかかわらず、同社は次世代モデル「TF-X」を発表した。こちらは「自動車っぽい飛行機」タイプで、自動車のようなボディの両側にヘリコプターのようなローターを備え、垂直離着陸ができる。このモデルも電動で、開発にはまだ時間がかかるようだ。

突如として現れ、話題をさらったロシアの「空飛ぶバイク」

今年2月、突如として動画が公開され、話題をさらったのがロシアの企業「HOVERSURF」だ。動画では、1人乗りの「ホバーバイク」が信じられないほど滑らかに飛行する様子が鮮明に収録されている。

「ホバーバイク」はドローンに人間が乗っているような乗り物で、当初はスポーツ用としての用途を想定しているという。スポーツ用なら、航続距離が非常に短くても商品として成立する。意外に早く市販される可能性がありそうだ。

大企業や大物が出資する「空飛ぶ自動車」

「空飛ぶ自動車」はかなり以前からさまざまな企業が開発しているが、技術的な難易度が高く、なかなか実現しない。技術的に可能になったとしても、はたして実用的な乗り物になるのか、といった批判的な意見も根強くある。よくいわれることだが、自動車を飛ばすことはできても、道路を飛ばすことはできない。つまり、交通の秩序を空中に構築することは難しいということだ。したがって、誰もが「空飛ぶ自動車」を所有し、買い物や通勤に利用するような未来像は考えにくい。

ここまで挙げた「空飛ぶ自動車」も、「結局は市販されないのでは?」あるいは「市販されても誰も買わないのでは?」と否定的に考える人が多いかもしれない。しかし、そうやって否定ばかりしているわけにもいかないようだ……と思わせるニュースもある。

たとえば、米国のウーバー社が開発しているという「空飛ぶタクシー」。ウーバーはタクシーの配車システムで有名な企業だが、いまや世界70カ国でビジネスを展開し、その売上は年間2兆円を超える。ベンチャー企業なのだが、すでにベンチャーとはいえない「超」が付くほどの巨大企業になっているのだ。そのウーバーが「空飛ぶタクシー」を開発中というのだから、一笑に付すことはできない。

また、米国の「Kitty Hawk」という企業も「空飛ぶ自動車」の開発に名乗りをあげているのだが、この企業にグーグルの共同創業者の1人、ラリー・ペイジ氏が出資しているという。ちなみに、「Kitty Hawk」が開発している乗り物は「HOVERSURF」の「ホバーバイク」に近いもので、ドローンに人間が搭乗すると考えて良さそうだ。

そして今回のトヨタグループによる出資の報道。こうなると、「空飛ぶ自動車」は意外と"アリ"かも……と思えてくる。水陸両用車は広く一般化することこそなかったが、軍事用や観光用、レジャー用として確実に需要があり、ひとつのジャンルとして定着した。「空飛ぶ自動車」も、ひとつの市場を形成できる程度には需要があるかもしれない。

自動車においても、きわめて高価で、しかも実用性など無視しながらも人気を獲得している「スーパーカー」「ハイパーカー」といったジャンルがある。「空飛ぶ自動車」が同様の価値観にもとづくジャンルとして、人気を獲得する可能性は意外と高いのではないだろうか。モーターショーに「空飛ぶ自動車」が並ぶ日も、意外に近いかもしれない。