このところ、高齢者ドライバーが原因となる交通事故のニュースを耳にすることが多くなった。その中でも多いのが、ペダルの踏み間違いによる暴走や衝突事故だ。なぜこのような事故が起こるのだろうか。

ペダルの踏み間違いを原因とする事故が相次いで報じられた。自動車メーカーも対策に乗り出しているという(写真はイメージ)

じつはつい最近、筆者の身近な場所でも踏み間違いの事故があった。裏路地から国道に左折で入ろうとした乗用車が、ペダルを踏み換えて急発進。片側2車線の広い道路を横切るように暴走した。筆者が見ていたわけではないが、中央分離帯や段差のある歩道も乗り越えて建物に衝突したというから、相当な勢いだったのだろう。

筆者の周りでは、「ペダルを踏み間違えただけでそんなことが起きるのか?」といぶかる人が多い。しかし、これはありうることなのだ。まず、ブレーキと間違えてアクセルを踏んだ場合、一気に大きく踏んでしまうことが多い。これはブレーキを踏むときに、かかとを床に付けない人に顕著だ。当然ながらクルマは猛烈な勢いで走り出し、驚いた運転者はそれを止めようとする。そしてアクセルをさらに踏み込み、フルスロットルにしてしまうのだ。なぜなら、本人はブレーキを踏んでいるつもりなのだから。

前述の事故でも、おそらく運転者はアクセルペダルを床まで踏みつけた状態で道路を横断してしまったのだろう。コンビニなどに突っ込む事故でも、「輪留めがあるのになぜ?」という人がいるが、同じ理由だと思われる。

こういった踏み間違いを防ぐにはどうすればいいか。ひとつポイントになるのが、ブレーキペダルの踏み方だ。ブレーキペダルはかかとを床に付けて踏む人と、付けないで踏む人がいる。自動車学校などでは床に着けないで踏むように指導しているが、床に着けたほうが良いとする意見も多い。

ちなみに筆者は「着ける派」で、なおかつアクセルからブレーキに踏み換えるとき、かかとを床から離さない。かかとを中心にして、つま先を回転させる感じだ。この踏み方だと、ブレーキを踏むときは必ずつま先を内側に向けるので、ブレーキを踏むつもりでアクセルを踏む間違いは起こりにくい。アクセルペダルの右側には、かかとを置くスペースがないからだ。

ただし、これは筆者の個人的な意見にすぎず、ブレーキを踏むときはかかとを付けないほうが踏み間違いが起こりにくいとする意見も多い。アクセルもブレーキもかかとを付ける「同じ踏み方」であれば、混同しやすく間違いやすいというわけだ。また、かかとを付けてブレーキを踏むと強く踏めないという意見もある。

踏み間違い事故を防ぐアフターパーツ

こうした運転方法とは別に、車両側の対策もいろいろと考えられており、踏み間違いを防止、あるいはリカバリーする後付けの商品がいくつか発売されている。自動車用品大手のオートバックスセブンは、新製品として「ペダルの見張り番」を12月5日に発売すると発表した。アクセル開度を電気的に制御して誤発進を防止する「オーバーアクセルキャンセラー(OAC)」機能と、アクセルとブレーキが同時に踏まれた場合にブレーキを優先させる「ブレーキオーバーライドシステム(BOS)」機能が搭載されており、踏み間違いをしてもそれによる急発進を防ぐことができる。

OACがどのように誤発進を検出しているのか不明だが、おそらく停止状態からの急発進に対し、それが運転者の意図したものか、踏み間違いかに関わらずキャンセルするものと思われる。たしかに公道での日常的な運転なら、急発進が必要になることなどまずない。このシステムは比較的に安価で、幅広い車種に取り付けられるのがメリットだ。ただし、アクセルが電子制御されている車種でなければ取り付けられないので、古いモデルは対象外となってしまうかもしれない。

もっと大胆な手法で、踏み間違いそのものを完全に防ごうという製品もある。ナルセ機材の「ワンペダル」(BMW「i3」などが採用するワンペダルドライブとは別のもの)だ。このシステムでは、その名の通りペダルがひとつしかない。そのため踏み間違えようがなく、それを踏めばブレーキが作動する。アクセル操作はペダルに載せた足で右側のレバーを横に押すことで行うが、もしアクセルとブレーキを同時に操作したとしても、アクセル操作はキャンセルされ、ブレーキが優先される。

ちなみに、BMW「i3」に採用されたワンペダルドライブは、アクセルペダルを戻すと駆動力がなくなるだけでなく、ブレーキ(回生ブレーキ)がかかるシステム。市街地での一般的な走行なら、ほとんどブレーキペダルを使わずにアクセルペダルだけで運転ができる。踏み間違いを防止するために開発されたものではないが、ペダルを踏み換える頻度が減るのだから、踏み間違いを防止する効果も期待できるといえるだろう。

自動車メーカーは安全技術のひとつとして対応

もちろん自動車メーカーも対策に乗り出している。たとえば日産の「踏み間違い衝突防止アシスト」は、ミリ波レーダーで進行方向の障害物を検出し、障害物があるのにアクセルを強く踏み込んだ場合に画面表示や警告音で注意を促し、加速を抑える。他メーカーのシステムもそれぞれ名称は違うが、障害物を検出し、必要に応じて急発進を抑制するというシステムの概要は同じだ。

考えてみれば、各自動車メーカーは自動ブレーキなどによる「ぶつからないクルマ」づくりを進めている。踏み間違い事故の防止もこの技術のひとつと考えられるだろう。自動ブレーキではシステムがおもにブレーキを制御するが、踏み間違い事故の防止ではおもにアクセルを制御する。それはシステムとして大きな違いではなく、センサーで障害物を検知し、衝突しそうならシステムが介入するという基本部分は同じだ。

自動車メーカーの技術開発によって、踏み間違い事故をほぼ完全に防止するシステムは間もなく完成する、もしくはすでに完成していると言ってもいいだろう。しかし、それが普及するためには古いモデルが最新モデルに置き換わらなければならず、まだ時間がかかる。それでは遅すぎると感じる人も多いだろう。

「ペダルの見張り番」のようなアフターパーツが安全で効果が高いと実証されれば、助成金を出すとか、あるいは自動車保険の割引をするといった普及促進策が必要かもしれない。また、自動車メーカーがこうした既存モデル向けの防止システムを開発し、既存モデルをメーカー自らアップデートするといった方法も考えられる。既存モデルに新たな機能を追加するアップデートは、スマートフォンなどのデジタル機器では一般的だ。自動車でも米国のステラモーターズが積極的に実施している。安全のためなので、従来の慣例にとらわれず、こうした方法も検討してほしいものだと思う。

※写真は本文とは関係ありません。