8月は米国で注目に値するニューモデルやコンセプトカーがいくつも発表された。キャデラック「エスカーラ コンセプト」、メルセデス・ベンツ「ビジョン メルセデス・マイバッハ 6」、ランボルギーニの新型モデル「チェンテナリオ ロードスター」、日本のKEN OKUYAMA CARSの新型モデル「kode57」などなど。
これらのモデルが発表されたイベントが「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」。しかし、そういわれてもよくわからない人が大半だろう。ペブルビーチとはいったいどこにあるのか? それに「コンクール・デレガンス」とはクラシックカーの品評会であって、ニューモデルは関係ないのでは? と思う人も多いはずだ。
まず、ペブルビーチは米国の西海岸、サンフランシスコの南200kmほどのところにある美しい海岸だ。そして、ゴルフファンならご存知だろうが、ここは世界的に有名なゴルフリゾートで、ゴルフコースが4つもある。
この風光明媚なペブルビーチは、世界中の富裕層が集まる場所であり、また、米国西海岸は乾燥した気候のため、程度の良いクラシックカーが数多く現存する場所でもある。となれば、当然のように、この場所ではクラシックカーの美しさを競うコンクール・デレガンスが開催されるようになった。
その歴史は古く、1950年から毎年開催されている。世界中から集まった極上のクラシックカーが並ぶのは、世界中のゴルファーのあこがれであり、全米オープンの開催実績もある名門ゴルフコース「ペブルビーチゴルフリンクス」の18番ホールの芝の上なのだから、贅沢なことこの上ない。
ただし、いかにぜいたくなクラシックカーの祭典であろうとも、本来ならニューモデルの発表とは無関係のはず。なぜ、多くの自動車メーカーがこのイベントで新型モデルやコンセプトモデルを発表するのか。
モーターショーより注目される発表の場に
従来、新型モデルやコンセプトカーの発表といえば、モーターショーで行うのが当然だった。世界の主要なモーターショーは数十万人の観客が押し寄せ、メディアもその模様をこぞって報道する。そこで新型モデルを発表すれば、最高の注目を集めることができ、宣伝効果は抜群……のはずだ。
しかし、最近ではそう考えない自動車メーカーが少しずつ増えている。モーターショーではあまりに多くの新型モデルやコンセプトカーが発表されるため、1台ずつのインパクトは逆に薄くなってしまう恐れがあるのだ。とくにスーパーカーなどの少量生産モデルは、その危険が高い。メディアは多くの人々が関心を持つモデルを優先的に報道するから、少量生産モデルは後回しにされたり扱いが小さくなったりするのだ。
富裕層向けの高額な少量生産モデルを発表するなら、絶対的な規模は小さくても富裕層が集まり、注目するイベントを選ぶべき。そう考えるのは当然のことだろう。そして、そのイベントこそが「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」というわけだ。クラシックカーのイベントだからといって、新型モデルやコンセプトカーの発表をしてはいけないわけではない。むしろ、イベントを盛り上げるから主催者や来場者にも歓迎されている。
ちなみに「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」の入場料は、一般向けのゼネラル・アドミッション・チケットが325ドル(約3万3,000円)。ガイドツアーなどの特典があるクラブ・デレガンス・チケットが750ドル(約7万7,000円)、イベントのチアマンと同席できるチアマンズ・ホスピタリティ・パッケージは2,500ドル(約26万円)となっている。
ペビルビーチに並ぶ高級モデル発表の有名イベントといえば…
超高級モデルの発表の場となっているイベントは「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」だけではない。米国にペブルビーチがあるなら、英国にはグッドウッドがある。ここで毎年6月下旬頃に開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」は、ハイパフォーマンスなスーパーカーが多数参加する。
グッドウッドはイギリスの南の端、ドーバー海峡の西にある街で、有名なグッドウッド・サーキットがある。ここで開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」は、その名の通りモータースポーツの祭典だ。つまり、ペブルビーチのようなクラシックカーのイベントではなく、本来なら並べて紹介するようなイベントではない。しかし、世界で最も注目される自動車関連のイベントとして、ペブルビーチとグッドウッドは双璧といっていいだろう。
このグッドウッドでも、スーパーカーなどの超高級モデルの新型モデルの発表が恒例となっている。といっても世界初公開ではなく、発表されたばかりのモデルが「お披露目」として公開されることが多いのだが、それでも注目度はきわめて高い。なぜなら、グッドウッドでお披露目される新型モデルは、名物レースのヒルクライムに出走するのが慣例となっているからだ。
グッドウッドでは、もちろんサーキットを使用したレースが多数行われているが、近年のメインイベントといえるのがサーキット外で行われるヒルクライム。牧草地の細い私道を1台ずつ走行するタイムアタックだが、タイムは計測しても順位をつけて優勝を決めるといったことはしない。ただ順番に走るだけで、競技というより余興に近いものだ。
同様のイベントは世界中で開催されているが、出走するマシンの豪華さはグッドウッドが群を抜いている。発表されたばかりの最新モデルが、ここで始めてその走りを一般公開するのだから、注目度が高いのは当然だ。
今年のグッドウッドでは、世界初公開された直後のマクラーレン「P1 LM」がヒルクライムに登場し、公道仕様車の記録を更新して話題となった。また、ホンダの新型「NSX」や日産「GT-R」2017年モデル、フェラーリ「F12 ベルリネッタ」の限定車「F12 tdf」も出走している。
ペブルビーチやグッドウッドとはまた趣が大きく異なるが、日本のチューニングカーの祭典となっている東京オートサロンも、自動車メーカーが出展し、特別仕様車やコンセプトカーをお披露目することが多くなってきた。このように、国内外において新型モデルやコンセプトカーの発表の場は広がりを見せているようだ。