春、バイクのシーズンが始まる。普段から通勤などでバイクに乗っているなら別として、冬の間はバイクをしまいこんでいて乗らなかったなんて人も少なくないだろう。さて、エンジンは掛かるだろうか? 1~2カ月でもバイクを動かしていなかったら、バイクの状態も以前とは変わっているかもしれない。本格的に乗り始める前に、まずはバイクを"解凍"して、しっかりとチェックしておこう。
この記事に書かれた内容は多少なりとも危険が付きまといます。もし故障やケガなどの事態が発生しても著者や編集部は責任が取れません。自信がない場合は詳しい人に立ち会ってもらうなど、自己責任で作業してください。
バッテリーが上がっていたら動かない
バイクに限らずクルマでもそうだが、長期間乗らないでいるとまず一番心配なのがバッテリーだ。バッテリーはエンジンが動いていると充電されるが、長期間エンジンをかけないでいると、少しずつ自然放電してしまい、エンジンを掛けるのに必要な電力がなくなってしまう。いわゆる"バッテリー上がり"だ。
バッテリーを復活させるには、バイクからバッテリーを取り外し、充電器を使って充電するのが確実だが、バッテリーの種類によって充電方法が異なるので、よく分からない場合はバイク屋に持ち込もう。たとえばシール型バッテリー (いわゆるメンテナンスフリーバッテリー) の場合は、それに対応した充電器が必要なので注意が必要だ。
また、バッテリー(鉛蓄電池)は何度もバッテリー上がり(完全放電)させてしまうと、明らかに劣化し、充電容量が減ってしまう。それによってエンジンが掛かりづらくなることもある。1~2度なら充電して再度使えなくもないが、何度もバッテリー上がりさせたのなら、新品のバッテリーに交換すべきだ。
ホンダ CBR600RRのバッテリーはシート下。シートはボルトで固定されている |
ヤマハ セローのバッテリーも場所はシート下で、サイドカバー内に収納されている。オイルフィラーキャップがないのはオイル交換中に撮影したため |
旧タイプのバイクで可能なバッテリージャンプ
充電器を使う以外に、ほかのクルマやバイクなどから電気をもらってエンジンを掛ける方法もある。ブースターケーブルを使い、互いのバッテリーの「+」(プラス)と「+」、「-」(マイナス)と「-」を接続し、エンジンをスタートすればいい。電気を供給する側のバッテリー容量によって、必要に応じてエンジンを掛けておけばよいだろう。
注意したいのは「+」極の接触だ。一般に車体はアースとして使われ、「-」極になっている。その車体に「+」側を接触させると簡単に火花が飛ぶ。近くにガソリンでもあれば引火、爆発ということにもなりかねない。バッテリーを見ればわかるが、赤い「+」側にはゴムカバーが付けられていて、他と接触しづらいようになっている。それだけバッテリーは危険なのだ。
もうひとつ重要な点は、電気をジャンプさせる手法はインジェクションやコンピューターを搭載した現代のバイクでは止めたほうがいい。特にクルマとバイクの組合わせではバッテリーや発電機の容量が大きく異なることもあり、コンピュータなどの電装品を壊してしまうことがあるためだ。バイクショップでも、こうしたトラブルでサービスに持ち込まれるケースがけっこう多いという。ほかに方法がなく、どうしてもいクルマのバッテリーをつなぐ場合は、クルマ側のエンジンは止めてジャンプさせ、バイクのエンジンが掛かりしだい速やかにケーブルを外したほうがいい。しかしこの方法も推奨はしていないとのこと(ホンダ お客様相談センター談)。
もしコンピュータを壊してしまうと交換するしか手はなく、数万円の出費は確実だ。もし自分のバイクがインジェクションを使っている新しいモデルなら、ジャンプさせて大丈夫かどうか、ショップなどに確認しておこう。
キックスターターがあればキックで始動
キックスターターを備えたバイクなら、バッテリーが切れてもキックすればエンジンをかけることができる。キックペダルを引き出したら、軽く踏み込んでペダルが重くなるポイントを探す。これが上死点で、もっとも圧縮が高くなる位置だ。この状態でペダルを一番上にし、一気に踏み下ろせばいい。冬眠明けのバイクは一発で掛かることはまずないので、何度も繰り返そう。
キックスタートは、中途半端に行なうとケッチンを喰らうことがある。踏み込む力が圧縮(爆発)に負けてペダルが跳ね返る現象で、とても痛いし、よくケガもする。キックスターターが付いているのなら、たまにはキックで始動して、どの程度の力でエンジンがかかるのか経験しておきたい。
また、キックでエンジンが始動しても、きちんと充電されていない状態ではヘッドライトが暗くなったり、ウインカーが点滅しづらくなることもある。十分に暖気し、しばらくは安全な場所を走ってしっかり充電しよう。
始動にはアクセル開度も重要だ。始動時のアクセルは全閉が基本だが、これはバイクによってクセがある。わずかに開けたほうが掛かりやすいバイクも多い。また、加速ポンプ付きのキャブレターは、アクセルを開け閉めすると空気が流れてなくてもガソリンを供給する。すると燃焼室内にガソリンが溜って、プラグの火花が飛ばなくなることもあるので注意したい。
結局のところガソリンエンジンは、適切な「混合気」「圧縮」「火花」の3つが揃っていれば始動するもの。一冬で圧縮がなくなるという可能性は少ないから、エンジンがかからない場合は燃料系、点火系をチェックしてみよう。
キックスターターを備えたバイクは、バッテリーが上がってもキックで始動できる |
まずメインスイッチを入れ、ギヤがニュートラルに入っていることを確認。ランプも点灯しない場合はバイクを押し歩いてニュートラルをチェック |
押しがけはできますか?
バッテリーが弱っている場合は、車体そのものを押して走り、エンジンをかける「押し掛け」という方法もある。大変だし、完全にバッテリーが上がっているときは掛からないことも多いので勧めないが、いちおう紹介しておこう。
原理としてはセルスターターやキックスターターと同じで、外部の力(この場合タイヤを回す力)で強制的にクランクを回し、始動するというもの。ギヤは排気量やギアレシオによるが、おおむね2~3速だろう。クラッチを切ってバイクを押して走り、十分にスピードが乗ったところで飛び乗り、シートに体重をかけると同時にクラッチをつなぐ。うまくすればこれでエンジンがかかる。下り坂なら走る手間が省ける。
ただ、現代のバイクのはさまざまな制御にコンピューターが使われていて、インジェクション車では燃料噴射にも電力が必要なため、バッテリーが完全に放電しきっているような場合は押しがけでは電力が足りずかからない場合がある。
タイヤの空気圧に注意
その他、バイクを冬眠から起こす場合のポイントを考えてみよう。長期間の保存で心配なのはタイヤだ。放置しておくことによるエア(空気)抜けはもちろん、日の当たる場所に保管していた場合は紫外線による劣化でゴムにヒビが入ることもある。そうなるとタイヤの性能は著しく悪化し、グリップ性能に影響があるのはもちろん、走行中にタイヤがパンクする可能性だってある。
空気圧が低いとハンドリングが重くなったり、コーナリング中にハンドルが切れ込んでいくなどの現象が出る。また、エアが抜けたまま高速走行をするとタイヤが発熱し、タイヤがパンクする可能性もある。長期保管したら必ず指定圧にもどし、タイヤ全周をチェックして、ヒビなどが入っていないか確認しよう。
エアゲージはさほど高価なツールではないが、購入するなら精度や耐久性に問題がないレベルのものを選ぼう。空気入れも安いものなので、バイク乗りなら用意しておきたい。タイヤの適性空気圧は、バイクの車体やスイングアームなどに必ずステッカーなどで貼られている。もしどうしてもわからなければ、バイク屋に聞いておこう。
ブレーキやチェーンの錆び
長期間乗らないでいると、ブレーキディスクやピストンが錆びることもある。ブレーキディスクの錆びは梅雨時など、半日乗らないだけでも錆びることもあり、それほど心配する必要はない。また、ブレーキをかけるという動作はディスクを磨いているのと同じことなのですこし乗ればすぐに錆びは消える。ただし、ブレーキの動作に重要なキャリパーのピストンが錆びていると問題だ。固着したらブレーキが効かなくなる。走り出す前にブレーキを握って車体を軽く押して、確実にブレーキが効いているか確認しよう。
錆びやすいパーツといえばチェーンだろう。重要な駆動パーツだけに錆びも気になるもの。しかし、チェーンは細かな凹凸がある上にチェーン内にオイルを封入しているシールリングなどがあるため、うかつにワイヤーブラシなどでこするとシールを傷つけてしまう可能性がある。チェーンはチェーンクリーナーで掃除し、汚れをウエスなどで拭き取ってからチェーンルーブ(チェーンオイル)を吹き付ける。このときに無理に錆びを落とそうとはせずに、少し走ったら錆びを汚れと一緒に拭き取ってまたチェーンルーブを吹くという作業をくり返すのがいい。チェーンは1つでも固着して動かなくなると、そこから切れてしまう可能性がある。チェーンを手入れする際に、ちゃんと動くかどうかもチェックしておこう。
そのほか、オイルは交換しなければバイクに乗れないというものではないが、冬を越してきたオイルは新品に交換しておきたい。オイルは使用していなくても劣化するため、一冬乗らなかったという場合は交換が望ましい。また、乗らない間、ときどき暖気運転だけしたような場合は、エンジン内で発生した水蒸気が熱で完全に気化する前にエンジンを止めてしまうことが多く、水分がエンジンオイルに混ざったままになっている可能性がある。定期的な暖気運転はエンジン内の油膜を切らさないためにはいいが、水分がオイルの劣化を早めているかもしれない。春なのだから、エンジンオイルも新しくして、気分よく走り出そう。
写真・レポート:平 雅彦(WINDY Co.)