スポーティーなクルマに乗っているなら、自分のクルマのパフォーマンスを発揮して、全開で走ってみたいと思うだろう。しかし高速道路は100km/h制限があるし、峠道だって公道だから無理はできない。クルマの性能を引きだすのなら、やはりサーキットしかない。サーキットなら思う存分走ることができる。今回は初心者向けにサーキット走行について紹介しよう。

走行会ならライセンスは不要

サーキットというとライセンスが必要だと思われている場合が多いようだが、それはレースに出たり、サーキットの一般開放日に走行したりする場合の話。メーカーやショップがコースを借り切って開催する「走行会」では、特別なライセンスは不要だ。初めてサーキットを走るなら、この走行会がオススメ。ちなみにライセンスが必要な走行は、一般的に「スポーツ走行」と呼ばれ、自分で走行時間枠を決めて走行する。サーキットが主催するものだと考えればいいだろう。

まずは、参加する走行会を探そう。ショップ主催のものからパーツメーカーや用品メーカー主催のものまでたくさんある。クルマのチューニング系雑誌などでは、各走行会が一覧表になって掲載されていることも多い。自分のクルマで参加できるかどうかを確認して、主催者に連絡をとってみよう。また、サーキットのホームページなどでどんな走行会が行なわれているか、案内されていることもある。

ショップ主催の走行会は平日に開催される場合が多い。走行会はコースを貸し切って行われるが、貸し切り料金が休日より平日のほうが安いことと、週末にはサーキットを使ってレースなどが開催されるというのがその理由だ。走行会が決まったら申し込みを行なう。現在はインターネットで仮申し込みを行ない、その後、走行料金を銀行で振り込んで本申し込み、というパターンが増えている。

必要なアイテム

サーキットを走るにはもちろんクルマがなければ話にならないが、ほかにも必要なものがいくつかある。まず絶対に必要なのがヘルメット。大型のカー用品店などに行けば4輪用のヘルメットも売られているが、走行会なら2輪用のヘルメットで問題ない。ただし半キャップタイプは使えず、ジェットタイプかフルフェイスでないといけない。次はグローブ(手袋)。これも2輪用のもので大丈夫。むしろドライビンググローブとして売られていても、指先の部分がなかったり、手の甲の部分に穴の開いたものは使えないので注意。レーシンググローブでも安価なものは5,000円程度から用意されているので、サーキット走行を機に買ってしまってもいいだろう。服装は長袖長ズボン、靴はスニーカーならOKだ。

走行会に、4輪用ヘルメット、レーシンググローブにレーシングシューズと、完全装備で挑む人もいるが、どちらかといえば少数派だ。ほとんどの人はジーンズにシャツなどの格好で走っているので、気後れする必要はない。ただ、レベルの高い走行会ではレーシングスーツが必須の場合もある。事前に参加条件を確認しておこう。

当たり前だが、クルマの整備はきちんとしておく。サーキットでの全開走行はクルマに大きな負担をかける。オイル交換はもちろん、冷却液の量をチェックしたり、タイヤの残り溝やブレーキパッドの残量などはしっかり確認しておきたい。もし自分のクルマがトラブルを起こして走行会が中断すると、ほかの参加者の迷惑になってしまう。また、サーキットだからといって妙なエンジンのチューニングは不要だ。走行会によっては、過度な改造車は参加できないこともある。

4点ベルトやけん引フックはあったほうがいい

改造は要らないといっても、4点式シートベルトは装着しておきたいところ。シートをスポーツ走行用のバケットタイプにするよりも、シートベルトのほうが重要だ。走行会レベルだと4点式シートベルトは必須ではない場合が多いようだが、体がしっかり固定されるため余裕を持ったドライビングができるし、いざというとき安全だ。安価なものなら15,000円程度で購入できる。装着するとリヤシートが使えなくなるが、簡単に取り外しできるモノを選べば、普段の使用でも支障がない。ただし純正シートベルトのボルトを脱着可能なものに交換するといった作業は必要になる。

いざという時のために、けん引フックの場所を確認しておこう。クルマが故障したり、事故で自走できなくなった場合はもちろんだが、コースアウトしてグラベル(サンドバリア)に突っ込んだ場合もけん引してもらうことになる。バンパーなどの入り組んだ場所にけん引フックがあると、けん引時にバンパーを破損してしまうこともある。そのためにサーキット走行車の多くは後づけのけん引フックを装着しているし、走行会によっては推奨されている場合もある。ただ、車体の全長より飛び出したけん引フックは車検には通らないので注意が必要だ。

また、オープンカーでサーキットを走る場合には、ロールバーが必要になることも多い。クルマがひっくり返っても乗員を守ってくれる頑丈なバーだ。一見ロールバーに見えても、乗員を保護する剛性のないファンションバーと呼ばれるものもあるので注意したい。フレームに接合されておらず、シート後部のボードなどに固定してあるものがそれ。中古でクルマを購入する場合などチェックしておきたい。

バケットタイプのシートに4点式のベルトをつけておけば完璧。ノーマルシートでも4点ベルトがあればかなり体が安定する

タイヤのバランス調整用ウェイトも万が一の脱落に備え、テープなどで覆っておこう

赤い円状のものがけん引フック。後づけのけん引フックは、純正のフックに取り付けるものが多い

けん引フックは通常は奥まった部分にあるが、こうして外側に延長することでボディにダメージを与えずけん引できる

オープンカーでサーキットを走るならロールバーの装着が必須だ

いざサーキットへ

走行会は早い時間から始まることが多い。また郊外にあるサーキットへ行くのだから前日は早く寝るようにこころがけよう。サーキットへ着いたら受付を済ませ、その後で簡単なブリーフィングが行なわれる。この前後にゼッケンが配布されるので、ガムテープなどで車体に貼り付けておく。サーキット走行は速度が高く、風の抵抗も大きいので、ゼッケンが飛ばされないようにしっかり貼り付けておこう。普通のガムテープでもかまわないが、見栄えが悪いためか、ほとんどの参加者がカラーガムテープを使用している。ボディ同色のガムテープなどを使用している人も多いが、筆者は入手しやすい黒いテープを用意した。

ブリーフィングでは、コース走行中に振られる旗や注意点などが解説される。黄旗・赤旗の意味や走行の決まりなど、内容は簡単だ。問題は、走行中に緊張したり熱くなったりして、旗を見過ごしたり決まりを忘れてしまうこと。冷静に走りたいものだ。また、ブリーフィングで解説されない場合でも、コースイン直後はインベタで周り、トラブルなどで減速する場合にはコース内側でハザードランプを点滅させながら走行するのが原則。チェッカーフラッグ後はハザードランプを点滅させるなど、どこのサーキットでも共通のルールになっているようだ。

以前参加した走行会のブリーフィングでは、オーバースピードなどでやむなくグラベルに突入する場合には、ハンドルをまっすぐにするよう注意された。コースアウトを回避しようとハンドルを切ったままグラベルに突入すると、急激にハンドルをとられて横転することがあるためだ。ちなみに、サーキット内での事故などによるクルマの修理は、相手がいたとしてもすべて各自の負担となる。"ケガと弁当は自分持ち"とも言われるサーキットの基本ルールだ。公道上ではないので自動車保険も適用できない。

走行パターンは、参加者を何グループかに分け、20~30分程度ずつ区切ってグループごとに走行することが多い。そのため1日の走行時間を合計しても1時間にも満たないこともある。短いように思うかもしれないが、クルマを1時間も全開で走らせると、まず普通の人はへとへとに疲れてしまうものだ。

受付を終えるとゼッケンが配布されるので車体に貼っておく。きれいに貼っておくと写真を撮ったときにも見栄えがいい

タイム計測は、車両に専用のトランスポンダーを積み込むことが多い。写真はリヤのナンバープレートにテープで固定しているが、車内のドアポケットに入れておいても問題ないようだ

ブリーフィングではコースの走り方や、走行中に使用されるフラッグの意味などが解説される

走行グループごとに走行開始を待つ。アナウンスなどを聞いて出走時間に間に合うように待機しよう

プロドライバーの同乗走行にはぜひ参加したい

走行会では自分が走るだけでなく、プロドライバーによる同乗走行などが行われる場合もある。主催者側が用意したデモカーの助手席に乗せてもらうこともあるが、プロドライバーが参加者のクルマをドライブしてくれる場合もある。筆者もこれを体験したが、ものすごく勉強になった。

プロドライバーが運転するとはいっても、レースでタイムを出すような運転とはほど遠い安全運転レベルなのだろう。しかし、クルマの性能に任せた加速はともかく、コーナーのぎりぎり直前まで加速し続けたり、そこからのブレーキングや、タイヤの限界を探りながらのコーナリングなど、まるで次元が違うことを思い知らされた。それでいて非常に安定感があり、同乗していても怖くはなかった。チャンスがあればぜひ体験してほしいと思う。

ただ、プロの運転を体験しても、すぐに自分のウデが上がるわけではないので注意してほしい。筆者は初めてプロドライバーの同乗走行を体験したあと、その感覚が体に残っている間に次の走行をしたために、自分の限界を超えてスピンしてしまった(笑)。

同乗走行が可能な走行会も多いのでぜひ体験してみよう。別料金になっている場合もある

ペースカーについて走行。最初はこのように先導してもらい、途中でペースカーが抜けて自由走行になるという場合も多い

スピード違反を気にせず走るのは楽しい

初めてのサーキットとなると、コーナーのずいぶん手前からブレーキして、コーナーも絶対に安全な速度でクリアするような運転になる。それでもスピード違反を気にせずにアクセルを踏めるのは非常に楽しい。仮にスピンしてもセーフティゾーンの設けられたサーキットは安全性が高い。そうした安全面だけでもお金を払ってサーキットを走るかいがあるというものだ。タイム計測をしてくれる走行会なら、レースに出ないにしても自分のレベルがわかるし、次回の走行時にはどのぐらい上達したかもわかるから励みになる。

サーキットに行くと鬼のように速いヤツばかりいると思うかもしれないが、走行会レベルならそんなことはないし、速いクルマはちゃんと避けてくれる。誰だって最初は遅いのだ。最初からひとりで参加してもまったく問題ないが、気おくれするならクルマ仲間や同僚などと参加するのがいい。慣れてくればサーキットで仲間もできる。それも楽しいものだ。

走行会は一度参加するのに2万円前後かかるなど、決して安いものではないが、一度走ってみれば病みつきになること請け合いだ。モータースポーツが好きなら、ぜひ一度体験してみてほしい。