だれでも運転は上手くなりたいと思っているはず。しかし自己流で練習してもなかなかコツもつかめないし、コーナーを曲がるような練習は公道では危険でもある。そんなときにオススメなのが運転講習会だ。二輪や四輪の運転講習会は、安全かつ運転テクニックを向上させるために数多く開催されている。今回は警視庁交通部が主催する「二輪交通安全教室」に参加したので、その体験レポートをお届けしよう。
講習受付方法
いきなりだが、私は運転が下手である(教習所では普通二輪で20時間オーバー、大型でも8時間オーバーだった)。「私でも訓練についていけるのだろうか?」という不安と、「もしかして上手くなるかも!」という淡い期待をもちながら、「レディース」と「初級クラス」に参加することになった。
この二輪交通安全教室に参加するには、事前に電話予約が必要だ。開催場所は東京・世田谷にある「交通安全教育センター」の練習コースで開催されている。受付は開始時間の30分前から始まる。参加費は無料だが、障害保険料の100円が必要だ。傷害保険は1日有効なので、今回のように午前・午後とふたつの講習を受ける場合でも100円ですんだ。車両は自分のバイクを持ち込むが、もし壊したら自己負担になる。
講習会に参加すると、講習会参加カードと「二輪車安全運転推奨シール(ステップアップライダーシール)」がもらえる。このシールを全て集めるというのも面白そうだ。受付で渡されるゼッケンは、自己申告の運転技量で色が違っているらしい。指導員が初参加者を認識するために、初参加者は運転の技量は関係なく黄色。自己申告で上級者・中級者は赤色、初級者は青色を渡されていた。参加者には常連も多いらしく、自前でプロテクターなどを用意している人もいた。
二輪車安全運転推奨シール。はじめて参加したので、今回は参加シールをいただいた |
点検の呪文 「ネンオシャチエブクトウバシメ」
安全講習は準備体操をして車両点検から始まる。そういえば、教習所でも点検してから教習が始まっていたっけ。しかし免許を取って自分のバイクに乗るようになってからは、暖気もそこそこに走り出してしまうのが当たり前になっていた。点検の仕方なんてすっかり忘れていた。
教習所で習ったのと同じ点検箇所の語呂合わせ「ネンオシャチエブクトウバシメ」の順序で点検していく(語呂合わせの内容は下の写真を見てください)。参加者の周りを他の指導員が回わり、点検の仕方がわからない人には丁寧に教えてくれる。それと、バイクを停車したとき、ヘルメットをミラーにかけてしまう癖がついていたが、ヘルメットは強い衝撃を与えてしまうと安全性能が落ちてしまうので、ヘルメットは必ず地面に置くなど転落防止の措置をとるよう指導を受けた。
乗車姿勢とブレーキの練習
点検が終わると、指導員の周りに参加者が集まり、正しい乗車姿勢の基本を教わる。まず乗車降車の前に右後方確認。右後方確認は、乗車降車のほかに、発進時にも必ず行う。しかし、講習中に私はこの確認を何度もやり忘れてしまった。常連の参加者さんはしっかり癖がついている。このあたりが普段の安全意識に現れてくるのだろう。
基本姿勢のあと、制動距離の説明と実走での制動訓練になった。教習所でも習ったことだが、バイクには「フロントブレーキ、リアブレーキ、エンジンブレーキ」の3つのブレーキがある。全てのブレーキを有効に使うこと一番短く止まれる。「フロントブレーキのみ」「リアブレーキのみ」「フロントブレーキ・リアブレーキ併用」をそれぞれ試し、制動距離の違いを体験する。
「慣性の法則で前に力がかかり、リアが浮いてしまうので、リアブレーキはフロントブレーキに比べ効きが弱くなります。しかしフロントブレーキだけでも十分ではありません。それと、曲がっている最中にフロントブレーキを強くかけると転倒にも繋がります。全てのブレーキを有効に使いましょう」と説明を受けた。急ブレーキの練習を公道でやったら危険だ。公道でできない練習も思う存分できることが講習会の最大のメリットだと思った。
私はエンストが怖くて、早めにクラッチを切ってしまう癖があったが、指導員に「エンストしてものいいからギリギリまでエンジンブレーキを使って」と指導され、自分のマシンのクラッチのタイミングを改めて知った。それから、センサーを使った反応ブレーキ訓練も受けた。ランプが点いたらブレーキをかけるのだが、どんな人でも反応してからブレーキに手がかかるまでに車体は数メートル進んでしまう(この距離を空走距離という)。私は8メートルも進んでしまった。緊急時のブレーキでは、空走距離はもっと伸びるので怖いと思った。
走行訓練で自分の未熟さを確認
制動訓練を終えると交通安全センターの教習コースを使った実走訓練になった。練習プログラムは教習所でやったような、一本橋やS字クランク、パイロンスラローム、波状路などがあり、教習所ではやらなかったが実際にはよく使うUターンや、実践的なS字とクランクを組み合わせたコースを走るという傾斜走行訓練がある。一本橋や波状路は久々走ったが、教習所ではできていたのに、できなくなっていたことがショックだった。
なにより一番ショックだったのは、カーブの多いコースを走る傾斜走行で、自分の運転に酔って気持ち悪くなってしまったこと。よく、峠で酔うことがあったが、目の前が真っ白になって運転不可能な状態になったのは初めてだ。訓練から外れて休憩をさせてもらった。体を支えず頭がぐらぐら揺れて乗っているのが原因らしい。「ときどき運転で酔う人がいるから気にしないでね」と、指導員に励まされてしまった。しかし基本の乗車姿勢が大切だと身をもって実感した。休憩中、参加者が走っているのを見学していたが、やはり常連の参加者は上手い。運転するだけなら誰でもできるが、上手い運転は練習しかないようだ。
一本橋走行。教習所以来の一本橋走行。通常の一本橋のほかにS字一本橋もコース体験。教習所ではできた一本橋だが脱落してしまった |
8の字走行。低速からはじめ徐々に速度を上げていく。調子に乗って速度を上げたら白線からはみ出してしまった |
波状路走行。クラッチとアクセルのタイミングが難しい。こちらも何度も脱線 |
パイロンスラローム。教習所時代から苦手なスラローム走行。未だに車体を傾けるのが怖く、スムーズに走ることができなかった |
千鳥走行。低速でクラッチを使いながらパイロンの間を通過する。実走練習の中では比較的まともにできた(と、思う) |
傾斜走行。運転レベルで班別に分かれてS字、クランクの続くコースを走る。上級レベルの人はかなり速く、見ていてカッコイイ。レベル別に走るのではじめての人でも無理なく練習できる |
公道を3年走って改めてわかること
講習会は和気あいあいとした和やかな雰囲気で、はじめて参加する人でも構えず参加できる。普段なら見かけただけで萎縮してしまう白バイ隊員も、講習中では尊敬と親近感を覚えるので不思議だ。見かけただけで萎縮してしまうのは、安全運転に自信がない証拠なのだと思う(苦笑)。
ほとんど教習所で習ったことなのに、3年も経つと自己流のクセがついていて、何度も「膝が開いているから、ちゃんと締めて」など、基本的な指導を受けた。それと、教習所時代は運転することにいっぱいいっぱいで、ニーグリップも漠然とタンクを挟んでいるだけだったのに、今なら膝を締めるのと締めないのでは明らかにカーブの曲がりやすさが違うとわかる。免許を取って3年も経ってから、教官に言われていた意味がようやくわかったような気がする。それと自分のバイク性能と運転技術の限界を知ることできるのもいい。限界を試すのは危険だけど、講習では「無理をせずギリギリまで」試すことができる。
講習の後に参加した女性ライダーと話したが、「冬は峠が凍って走りに行けないですよね。バイクは長い間動かしていないと良くないし、自分自身も走れなくなっちゃう。だから冬は講習コースでテクニックを磨いています。あと、レディース講習会で女の子のバイク友達が増えましたね。レディース講習は午前中に終わるから、みんなでランチを食べながら反省会をしてますよ(笑)」とのこと。講習会は楽しく、常連になる気持ちはよくわかる。私もまた参加したいと思った。
講習会はバイク以外にも、「四輪車交通安全教室」や、「シルバードライバーズ安全教室」などが用意されている。また、警視庁主催の講習会以外に、各警察署が主催している安全講習会もある。講習内容は警視庁主催の講習会とほぼ同じ。開催日程などは最寄りの警察署に問い合わせてみよう。
加藤真貴子(WINDY Co.)
取材協力/写真提供:警視庁交通部