B宝館の創設を思い立ってから、15年間休まず働き続ける

私設博物館、B宝館の建設には、約1億8000万円かかりました。建物自体は、1億2000万円で中古のビルを買ったのですが、修繕工事や電気工事、展示棚の設置など、さまざまな経費がかかって、総額がそこまで膨らんでしまったのです。ただ、私は1円も借金をしませんでした。B宝館の創設を思い立ってから、15年間休まず働き続けて、お金を貯めてきたからです。

この15年間で、私が休んだのは10日程度だと思います。貯金を始めて最初の10年間は1日も休みませんでした。もちろん、それだけ仕事があったのは、運がめぐってきたからです。15年前、私はニュースステーションのコメンテータになりました。そのころから雑誌や新聞の連載、テレビ・ラジオの出演、講演、レポーター、商工会議所の指導員の仕事まで、とにかく仕事の依頼は、時間が空いている限り何でも受けてきました。

一番、激しく働いていたときは、午前2時半に起きて、24時に就寝するまで、毎日休みなしに働き続けました。そのおかげで2度ほど死にかけましたが、まさに体力の限界まで働いたのです。つらくなかったと言えば嘘になりますが、博物館を作るためだったら、我慢できました。

持つべきものは夢ではなく「タスク(課題)」

私は、大学で教えている学生たちに、いつも「夢を持ってはいけない」と言い続けています。「いつかできたらいいな」なんて夢は、絶対に実現しません。持つべきものは、夢ではなく、タスク(課題)です。やりたいことに向かって、いますぐ取り掛かり、毎日1ミリでよいから前進する。そうすれば、目標はいつか実現するのです。私の場合は、とにかく博物館の建設資金を貯めることが、博物館建設に向けての毎日のステップになったのです。

もちろん、私と同じような種類の仕事が誰にでもできるわけではありません。いまの仕事はかなりの部分、知名度に依存しているからです。ただ、私は知名度がない時代から、本業以外で稼ぐということをしていました。

経済企画庁時代にバブル到来を予測、所沢に中古の一戸建て住宅を購入

きっかけは、1985年のことでした。当時、経済企画庁で働いていた私は、経済モデルを動かしながら、バブルの到来を予測し、そして確信しました。しかし、そのことを誰に伝えても、信じてもらえません。頭に来た私は、年収300万円しかなかったにもかかわらず、所沢に中古の一戸建て住宅を購入しました。しかし、当時の住宅ローン金利は7%で、ローン返済が家計に重くのしかかりました。子供が一人生まれていたにもかかわらず、手取りは7万円程度になってしまいました。それでも、質素な暮らしをしていたので、普段の生活には支障がなかったのですが、例えば同級生や同僚から結婚披露宴に呼ばれると2万円くらいのお祝いを出さなければなりません。そうしたショックがあると、いきなり家計が行き詰ってしまうのです。

ピーク時は40本近い連載、「親が死んでも、締切厳守」

私は、稼ぐことにしました。当時、オーム社の『省力と自動化』という雑誌が発行されていて、そこのニュース解説の記事を書くと、半ページの1コマで5000円の執筆料をもらえました。私は、編集者に頼み込んで、2コマ、3コマと家計の赤字を埋める原稿を書かせてもらったのです。それをきっかけに、いろいろな雑誌に単発や連載の原稿を書かせてもらえるようになり、ピークのときには40本近い連載を持つようになりました。

いまは、だいぶ減りましたが、それでも20本以上の連載を続けています。ときには、1日5つ以上の締切が重なることもありましたが、私はこれまで一度も締切に穴を開けたことはありません。家計破綻のプレッシャーがかかっていたので、穴を開けるなどということは、考えられなかったのです。当時のライター仲間が、執筆で生き残るための格言を教えてくれました、「親が死んでも、締切厳守」。

私は決して名文家ではありませんが、それでも仕事が続いてきた最大の原因は、この格言を守ってきたことだと思います。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 森永 卓郎(もりなが たくろう)

昭和32年生まれ、58歳。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所等を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。
専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
主な著書に『<非婚>のすすめ』(講談社現代新書、1997年)、『バブルとデフレ』(講談社現代新書、1998年)、『リストラと能力主義』(講談社現代新書、2000年)、『日本経済「暗黙」の共謀者』(講談社+α新書、2001年)、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社、2003年)、『庶民は知らないアベノリスクの真実』(角川SSC新書、2013年)など多数。