『B宝館』はゴミとして捨てられる運命にあったものが中心
「本業は何ですか」と聞かれると、私は困ってしまいます。大学教員、テレビ・ラジオ、講演、執筆、カメラマンなど、いろいろな仕事に手を広げているからです。ただ、突き詰めていくと、私の本業は、「コレクター」なのだと思っています。
私のコレクションは、書画骨董のような富裕層が蒐集しているものではなく、庶民の生活のなかで使われた商品、つまりゴミとして捨てられる運命にあったものが中心になっています。ですから、コレクション自体には、大したお金を必要としません。問題はその置き場所です。私は、およそ50年をかけて、ミニカー、グリコのおまけ、コーラの空き缶、食品のパッケージ、フィギュア、ペットボトルのフタ、貯金箱など、約60種類のアイテムを集めてきており、現在、その総数は11万点に及んでいます。
それだけの点数を集めると、当然、その置き場所が必要になります。最初、本棚ひとつから始まった私のコレクションは、6畳一間に拡大し、その後10畳間、家一軒と広がっていきました。そして、現在はビル一棟にまで広がったのです。そのビルこそが、昨年10月、新所沢にオープンした私設博物館の『B宝館』です。"B宝"とは、「B級で、おバカだけれど、ビューティフル」という意味です。
総額で1億8000万円くらいのお金が必要に
『B宝館』は、述べ床面積200坪という広いスペースですから、当然、それなりのお金がかかりました。中古のビルの購入費が1億2000円、そこに改修工事や電源工事、空調工事、そしてコレクション棚の設置など、さまざまな経費が加わって、総額で1億8000万円くらいのお金が必要になりました。
もちろん、それだけの投資をすると、個人の趣味では済まないので、博物館としてコレクションを公開することにしました。そうすれば、ランニングコストくらいは稼げると踏んでいたのです。
口を出されるのが嫌で「銀行から借金せず」「スポンサーや出資者も募らない」
ただし、博物館建設にあたって、私が決めていたことが2つあります。一つは銀行から借金をしないこと、もう一つはスポンサーや出資者を募らないことです。そもそも銀行が資金を貸してくれるかどうかも微妙なところですが、もし貸してくれたとしても、銀行は色々と口を出してきます。それが嫌だったのです。スポンサーや出資者を募らないことも、理由は同じです。
なぜ口を出されるのが嫌かというと、私は、「コレクションはアート」だと思っているからです。どんなモノを集め、それをどんな基準で整理し、どのように展示するのかというのは、コレクターの感性の表現です。特に私が集めているのは、空き缶やおまけなど、ゴミとの境界線上にあるモノたちです。その美しさや物語を理解しない銀行員やスポンサーが私の展示をみたら、そんなものは処分して、手っ取り早くカネを稼げる物販コーナーを拡充しなさいなどと言うでしょう。また、現在、『B宝館』は、土曜日しか開館していません。他の曜日は、毎日増え続けるコレクションの整理や展示に充てています。しかし、そうした行動も、銀行やスポンサーは許さないでしょう。毎日開館したほうが、売り上げが増えるからです。
結局、お金を出してもらうと、口も出されるというのが世の中の常なのです。だから、思い通りにやろうと思ったら、自分のお金でやるしかないのです。これは、すべてのアーティストに共通することだと思います。
十数年前に博物館建設のための貯金を開始、「24時間操業」で働くことに
いまから十数年前、私は博物館建設のための貯金を始めました。「入るを計って、出るを制する」と言いますが、お金を貯める方法は、収入を増やして、支出を減らすことしかありません。本当のことを言うと、もう一つカネにカネを稼がせるという手法もあります。ただ、博打と詐欺と泥棒を繰り返すようなハゲタカ行為には、私はどうしても、手を染めることができませんでした。
そこで、私がとりあえず始めたのが、「24時間操業」で働くことだったのです。
執筆者プロフィール : 森永 卓郎(もりなが たくろう)
昭和32年生まれ、58歳。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所等を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。
専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
主な著書に『<非婚>のすすめ』(講談社現代新書、1997年)、『バブルとデフレ』(講談社現代新書、1998年)、『リストラと能力主義』(講談社現代新書、2000年)、『日本経済「暗黙」の共謀者』(講談社+α新書、2001年)、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社、2003年)、『庶民は知らないアベノリスクの真実』(角川SSC新書、2013年)など多数。