「第四の産業革命」とは!?

これから正社員が消えていく。その理由は、人件費を節約しようとする企業側の要請だけではありません。技術面でも正社員を激減させる動きが始まっているのです。

いまアメリカやドイツで、「第四の産業革命」という言葉がさかんに使われるようになっています。第一の産業革命は蒸気機関の導入、第二の産業革命は電気、第三の産業革命はマイクロエレクトロニクス、そして第四の産業革命がロボットと人工知能です。この第四の産業革命を制する国が、これからの世界経済を制するとも言われています。

1980年代からいまに至るまで続いてきた第三の産業革命は、ME(マイクロエレクトロニクス)革命とも呼ばれ、NC工作機械やマシニングセンタなどのFA(ファクトリーオートメーション)機器、ワープロ、パソコン、コピー機などのOA(オフィスオートメーション)機器が、生産性の向上に大きな役割を果たしました。ただ、これまでの第三の産業革命では、機器の操作やメンテナンスを行うために、人間は不可欠だったのです。

ところが、第四の産業革命では、それが変わります。人工知能を備えたロボットが、工場全体を管理し、指示を出すことによって、工場から人がいなくなるというのです。これは、夢物語ではありません。実際に、キヤノンが2018年をめどに、デジカメなどの完全自動生産に踏み切ることを明らかにしました。人手を5分の1に減らし、生産コストを最大2割削減するとのことです。こうしたことは、工場以外でも、あらゆる場所で起きます。例えば、自動車の自動運転が可能になれば、ドライバーの仕事はなくなりますし、自動翻訳機が性能を上げれば、通訳の仕事はいらなくなります。

人間は"ロボットや人工知能が絶対にできないこと"に特化するしかない!?

つまり、第四の産業革命では、人間の知的労働さえも、ロボットと人工知能が代替してしまうことになるのです。そうした時代に、人間は何をやればよいのでしょうか。それは、ロボットや人工知能が絶対にできないこと、すなわち「創作活動」に専念することになるのだと思います。国民全員が"アーティスト"になる必要が出てくるのです。

ここで言う"アーティスト"は、音楽家とか画家とか小説家といった仕事に限りません。人工知能にはできない創造的な活動をするすべての仕事を含みます。研究開発や、営業の仕事もここに含まれるでしょう。いずれにせよ、アーティスト以外の単純労働は、人工知能を備えたロボットとの価格競争を繰り広げることになります。となれば、単純労働者の年収は、100万円を切っていく可能性も十分出てくるでしょう。

現在の"アーティスト"の処遇は?

それでは、"アーティスト"の処遇は、どうなるのでしょうか。それは、すでに存在しているアーティストの処遇をみれば明らかです。とてつもない所得格差がつくようになるのです。

例えば、お笑い芸人です。吉本興業には1000人近い所属タレントがいます。そのなかで10人程度は年収1億円を超えているそうです。一方で、大部分、9割以上のタレントが、年収100万円にも届いていないのです。なかには年収1万円というタレントさえいると言われています。

その所得格差はどこからくるのでしょうか。私も、たくさんのお笑い芸人さんを見てきました。そして感じるのは、売れている人は能力が高くて、かつ努力をしている人だということです。ただ、能力が高くて努力をしているのにもかかわらず、売れていない人もたくさんいます。私は、売れるために必要なことは、能力プラス努力に加えて、運だと思っています。

例えば、画家のゴッホは、生存中に売れた絵は、友人が買ってくれたたった1枚だけだったそうです。歌手の天童よしみさんは、歌が売れなくて、一度ふるさとの大阪に帰っています。

結局、アーティストとして成功しようと思ったら、自分の才能のある分野で、努力を積み重ねながら、時代の風が吹くのをじっと待つしかないのです。

しかし、そうした人生は決して不幸なものではないと思います。売れない芸人、売れない歌手、売れない役者といった人たちは、実に生き生きと暮らしています。それは、自ら表現者となることを心の底から楽しんでいるからです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 森永 卓郎(もりなが たくろう)

昭和32年生まれ、58歳。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所等を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。
専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
主な著書に『<非婚>のすすめ』(講談社現代新書、1997年)、『バブルとデフレ』(講談社現代新書、1998年)、『リストラと能力主義』(講談社現代新書、2000年)、『日本経済「暗黙」の共謀者』(講談社+α新書、2001年)、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社、2003年)、『庶民は知らないアベノリスクの真実』(角川SSC新書、2013年)など多数。