連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。
公的年金の受給資格の緩和とは?
今回の参議院選挙後の経済対策のひとつに「公的年金の受給資格要件の緩和」が挙げられています。元々、消費税率10%への引き上げと同時に導入される予定でしたが、それを待たず、来年度(2017年度)から前倒しで実施されそうです。
「老後なったら国から年金が支給される」ことを知っている方は多いものの、「支給されるための具体的な条件」を知っている方は多くないのではないでしょうか。 公的年金は老後の大切な安定収入です。あるかないかで老後の生活水準は大きく変わります。無年金や年金額が少ないと生活費を補うために働き続けなければなりません。
新卒で入社して定年までひとつの会社にずっと勤務する人はあまり意識しなくてもよいかもしれませんが、就職が遅かった人や、今後転職、退職、独立をするかもしれない方は、支給要件を知っておくことで、将来困らないようにしてほしいと思います。
現在の国の年金(老齢年金)のおもな支給要件は、次の通りとなっています。
サラリーマンとその配偶者(専業主婦など)は、入社時に会社が厚生年金の加入手続きをしてくれ、厚生年金保険料を給与天引きで支払います。厚生年金に加入するサラリーマンとその妻は、20歳から60歳までは国民年金にも加入しているともみなされ、原則65歳からサラリーマンには国民年金(老齢基礎年金)と老齢厚生年金が、配偶者には国民年金(老齢基礎年金)が支給されます。一方、自営業者や学生、収入の低いパート社員・アルバイト等は、加入手続きを自分で行い、自分で保険料を納付する必要があり、原則65歳から国民年金(老齢基礎年金)が支給されます。
ただし、具体的な支給要件には、次のような文言があります。
・国民年金(老齢基礎年金)は、保険料納付期間と保険料免除等期間の合計が「20歳以上60歳未満の間で25年以上」必要。
・老齢厚生年金は、「国民年金(老齢基礎年金)の支給要件を満たしている」こと。
つまり、20歳から60歳までの間に25年以上国民年金又は厚生年金に加入していない限り、原則65歳からの国の年金は無年金となります。24年11カ月の間保険料を払っていても年金は0円になるのです。
今回話題にしている「受給資格要件の緩和」のポイントは、現在の要件の「25年以上」を「10年以上」にすることです。
このことによって、現在受給資格要件を満たしていないために無年金となっているお年寄りや、今後60歳まで加入して保険料を払っても要件を満たさない可能性のある人を救済することができます。
「10年以上」で満足せず、できるだけ長く加入することが大切!
将来の国の年金が不透明なことから、20代、30代の方の中には年金に対する信頼をなくしている方も増えていると言われています。しかし、私たちには「20歳から60歳までの40年間は国民年金(厚生年金を含む)に加入して保険料を支払う」義務があります。また、加入期間が長ければ長いほど老後の年金額は多くなる仕組みになっています。
例えば、国民年金(老齢基礎年金)の場合、20歳から60歳まで加入して保険料を納付した場合、年間で78万0,100円(平成28年度の満額)の年金額を受け取ることができます。加入期間が10年の場合、年金額は4分の1の19万5,000円にしかなりません。老齢厚生年金も加入期間が多いほど、給料が多いほど(上限あり)年金額が多くなります。
少子高齢化の影響で、将来支給される年金水準は、現在お年寄りが受け取っている額よりも少なくなる可能性が高いでしょう。しかし、一生涯受け取れる国の年金は、高齢期の安定収入の基盤です。
何らかの事情で会社を退職し、転職するまでに期間があく場合、また退職して自営業をする場合、あるいはパートなどの非正規社員となって厚生年金に加入しない場合などは、自分で国民年金への加入手続きと保険料の支払いをする必要があります。収入が減る上、給与天引きではないため、保険料の支払いに抵抗を覚えるかもしれません。
しかし、老後を少しでも豊かに送るためにも、少し無理をしてでも加入手続きと保険料の支払いをした方が、将来後悔しないですみます。
ファイナンシャルプランナーとしてご相談を受ける方の中には、親が無年金、あるいは年金額が少ないために経済的支援をしている方もいらっしゃいます。大学時代に受けた奨学金の返済をしながら、また、子供を育てながら、住宅ローンの返済をしながら、その上で親へ毎月定額の仕送りをしている方などです。
一生涯経済的に自立をして暮らすためにも、国の年金にはしっかり加入するようにしましょう。
執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。
「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)
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