連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。
新入社員は「給与明細」を確認し、意味を理解しよう!
4月に入社した新入社員にはそろそろ初めての給与が支払われます。最近は銀行振込で支払われるうえに、紙の給与明細も配布されず、会社のイントラネットを自分で照会しないと明細が確認できない仕組みになっているところもあり、初任給の実感を味わいにくくなっています。
給与は、銀行に振り込まれた金額だけを確認するのではなく、明細を見て、基本給の他にどんな手当が支払われているのか、また、どんなお金がいくら差し引かれているのかをしっかり確認したいものです。特に給与天引きで差し引かれる項目の意味や役割を理解することで、自分が社会人の一員になったことを実感してほしいと思います。
給与明細の各項目の意味や役割
給与明細の様式や内容は会社によって異なります。概ね以下のサンプルの項目で構成されています。
まずは、「支給額」の部分を見てみましょう。
「基本給」が新入社員にとっての"初任給"です。「ボーナスは●カ月分」などと言われるのは、一般的にこの「基本給」が基準になっています。また、「基本給」は残業代である「時間外手当」を計算する基準にもなっています。
「役職手当」は主に管理職に支給される手当で、責務や役割などに対して払われます。「資格手当」は、社員が資格を取得したり、取得しようとしたりする場合に支払われる手当のことです。
「家族手当」は結婚して扶養家族ができたときに受け取る手当。なお、扶養家族が専業主婦の場合に払われる家族手当は、近年女性の社会進出を阻む要因になっているという声もあり、将来的には縮小、廃止に向かう可能性があります。家族手当は今後、子育て支援の機能に絞り込まれそうです。
「住宅手当」は賃貸住宅の家賃やマイホームの住宅ローンを補助する福利厚生制度です。昔は社員寮や社宅などの"現物"で従業員の住生活を支援する会社が多かったのですが、バブル崩壊後の1990年代から本業以外の資産を整理する流れが強まり、住宅手当という"お金"で支援する動きが強まりました。ただ、従業員個人のライフプランを制約する可能性などもあることから支給しない会社もたくさんあります。
「通勤手当」は通勤時の交通費です。これらを合計した金額が「支給額合計」です。なお、会社によって「手当」の有無や金額はマチマチです。
次に「控除額」の意味や役割を確認しましょう。給与天引きで差し引かれるお金は大きく分けて「社会保険料」と「税金」があります。
社会保険料の中の「健康保険」は公的医療制度の保険料です。健康保険料に加入すると、病院で払う治療費や薬代の自己負担が3割ですみます。また、万が一病気やケガで会社を長期間休まざるを得なくなった場合、生活保障の目的で給料の3分の2にあたる額が約1年半支給される”傷病手当金”も健康保険に加入しているおかげです。その他出産したときの手当金や育児一時金も健康保険から支給されます。
「介護保険」は40歳以上の人が負担する保険料で、一定の条件を満たす要介護状態になったときに公的介護サービスを低い自己負担で受けることができるものです。
「厚生年金」は、原則65歳から受け取る老後の公的年金、障害状態になった場合の公的障害年金など生活保障のための国の仕組みです。少子高齢化の影響で、将来は国の年金の支給水準は今より下がると言われています。「厚生年金保険料を支払っているから自分の老後は大丈夫」と考えるのではなく、自助努力でも老後に向けて財産形成をすることが求められています。
「雇用保険」の役割の代表的なものは、失業した場合に受け取ることができる"失業手当"です。その他雇用保険料は、子供が生まれて育児をするための育児休業給付金、家族の介護のための介護休業給付金などの財源になります。
なお、「健康保険」や「介護保険」、「厚生年金」、「雇用保険」の保険料は、従業員だけでなく会社も従業員の給与額に応じて負担しています。
次に税金を見てみましょう。
「住民税」について、新入社員の場合は空欄になっていると思います。なぜなら、「住民税」は前年の所得にかかるものだからです。
住民税は今年の12月までの所得をもとに計算され、来年の6月から再来年の5月の給与から天引きされることになります。徴収された住民税は、住んでいる都道府県や市区町村の行政サービスの経費として使われます。
「所得税」は初任給から天引きされています。なぜなら、「所得税」は「住民税」と違って、所得を得た年に支払う仕組みになっているからです。「所得税」は国税ですので、徴収された金額は国の予算に反映されることになります。
私たちが働いて得た給与から差し引かれる税金や社会保険料は、国や地方自治体のさまざまな施策の財源になります。これらの使われ方を考えることは、社会や政治のあり方を考えることでもあります。
たまには「給与明細」をじっくり眺めて、社会や政治のことを考えるキッカケにしてみてはいかがでしょうか。
※写真と本文は関係ありません
執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。(株)ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)
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