楽天モバイルが獲得に力を入れている「プラチナバンド」ですが、総務省が議論の末、同社に非常に有利な案を打ち出したことで、他社から再割り当てが受けられる可能性が高まっています。ですが、それは自社のプラチナバンドを奪われる競合の3社にとって非常に不利な内容でもあり、再割り当て回避のため新たなプラチナバンドを発掘する動きも出てきているようです。
再割り当ての議論は楽天モバイル優位の結果に
障害物の裏に回り込みやすく遠くに飛びやすいことから、携帯電話事業者にとって非常に重要な存在となっている、1GHz以下の周波数帯を指すいわゆる「プラチナバンド」。かつて、ソフトバンクの前身の1つであるソフトバンクモバイルがプラチナバンドの免許を保有していなかったころ、その免許がないことが競争上不利だとして声高に訴え続けたことで注目を集めるようになりました。
そして現在、再びそのプラチナバンドに関する注目が高まっているのですが、それは新興の楽天モバイルが、やはりプラチナバンドの免許を持たないことが競争上不利だとして割り当てを求めているからです。とはいえ、携帯電話向けに有効活用できるプラチナバンドの空きはすでにほとんど残っていない状況です。
そこで楽天モバイルは、2022年10月に電波法が改正され、競願の末に他社から周波数免許の再割り当てが受けられるようになったことを機として、他の3社に割り当てられているプラチナバンドの再割り当てを訴えるようになりました。そこで総務省も「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」という有識者会議を開き、携帯4社を交えてプラチナバンド再割り当てに関する議論を進めてきました。
ですが、プラチナバンドは携帯電話会社が最も活用している帯域の1つでもあり、それを他社に渡すとなればサービスに与える影響は決して小さくはありません。それだけに総務省での議論は、楽天モバイルと携帯3社の溝がまったく埋まらない平行線の状況が続き、最終的な判断は総務省に委ねられることとなりました。
その結果、総務省は楽天モバイルの意見をほぼ全面的に取り入れた報告書案を取りまとめるに至っています。それゆえ、この案がそのままの形で通った場合、楽天モバイルは競願の末に再割り当てを受けられるとなれば、移行にかかる工事費用を一切負担することなく、工事が済んだ場所から順次プラチナバンドを利用できることとなります。
裏を返すと、この案はプラチナバンドを奪われる3社の意見がほぼ通らず、移行に係る工事費用負担は全てプラチナバンドを奪われる側が負担しなければならないこととなります。各社の見積もりによると、その額は1社あたり約750~1100億円と非常に大きな額で、各社の業績に与える影響も小さくないでしょう。
再割り当て回避に向け新たなプラチナバンド発掘の動きも
これまでの総務省の動向を見るに、一度打ち出された案がパブリックコメントなどで大きく軌道修正される可能性はきわめて低いことから、今回の報告書案もほぼそのままの形で最終的な報告書がまとめられる可能性が高いでしょう。総務省がこのような案を出してしまった以上、多額の費用をかけてデメリットにしかならない作業を強いられる可能性が高い3社が問題を回避するには、楽天モバイルが再割り当ての競願申請をしないようにすることくらいしか手はありません。
そこで大きく動いたのがNTTドコモです。同社は、総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班で「700MHz帯への狭帯域4Gシステム導入の提案」を打ち出しており、これが新たなプラチナバンド割り当ての可能性を示すものとして注目を集めているのです。
700MHz帯は、地上波テレビがデジタル放送へ移行したのに伴って、2012年に携帯電話向けに割り当てられた周波数帯。当時はNTTドコモとKDDI、そしてイー・アクセスの3社が免許割り当てを受けましたが、その後イー・アクセスがソフトバンク(現・ソフトバンクグループ)に買収され、紆余曲折の末ソフトバンクモバイルらと経営統合してソフトバンクとなったことから、現在はソフトバンクも700MHz帯の免許を保有しています。
もちろん、700MHz帯もすでに携帯各社が4G、あるいは5G用として活用しているので割り当て帯域に空きがあるわけではないのですが、NTTドコモが目を付けたのはその“隙間”です。700MHz帯は、隣接する地上デジタルテレビ放送や、放送や各種イベントなどで活用されている「特定ラジオマイク」などと電波干渉を起こさないよう、隙間を空けて割り当てられており、隙間の幅は特定ラジオマイクとの間で4MHz、地上デジタルテレビ放送との間で8MHzとなっています。
ですが、NTTドコモはそのうち3MHz幅を4G向けに割り当てても他のシステムに影響が出ない可能性が高いとして、アップロードとダウンロードを合わせて3MHz×2幅を4G向けに割り当てるよう検討することを提案したわけです。他社に割り当てられている700MHz帯は10MHz幅なので、3MHz幅というのは非常に狭いように思えますが、NTTドコモの試算では1100万契約を収容できるとしており、現在は500万契約前後と見られる楽天モバイルの契約数ならば十分収容できると見ているようです。
そして何より、この周波数帯は他の700MHz帯と同様、標準化団体の3GPPが「バンド28」として標準化がなされている帯域なので、既存のスマートフォンや基地局設備などをそのまま利用することが可能。帯域幅が狭く通信速度があまり出ないというデメリットはありますが、工事が必要で使い始めるまで時間がかかる再割り当てとは違い、免許割り当てがなされればすぐ使えるのに加え、既存の設備をそのまま使えるなど多くのメリットを持つことから、楽天モバイルもこの案の検討に賛同する姿勢を示しています。
確かに、この700MHz帯が楽天モバイルに割り当てられたとすれば、少なくとも楽天モバイルの契約が大幅に増えるまでは、プラチナバンドに関する混乱も収まる可能性が高まるかもしれません。ですが忘れてはいけないのは、この提案はあくまで、これから実現に向けた検討が進められるものだということ。検討の末に地上波デジタルテレビ放送や特定ラジオマイクに影響が出るとなれば、実現は困難なのです。
そうなれば、楽天モバイルは再びプラチナバンドの再割り当てへと舵を切るため、業界全体で大きな混乱が発生することは必至でしょう。楽天モバイルとプラチナバンドを巡る動向は、まだまだ目が離せない状況が続くといえそうです。