ここ最近の値上げラッシュの中でも、冬に向けてとりわけ気になるのが電気代。その電気代が気になるのは携帯電話会社も同じようで、ここ最近の携帯各社の決算を見ると、電気代の値上げが経営に大きく影響している様子がうかがえます。電気代値上げによる携帯料金値上げの可能性はあるのでしょうか?

電気代の高騰が携帯各社の業績を直撃

ウクライナ情勢や円安など、さまざまな要因で値上げラッシュが続く昨今ですが、これから冬が近づくにつれ気になる人が多いのは、やはり電気代ではないでしょうか。エネルギー価格の高騰に加え、円安によって電力各社の経営も悪化しているようで、東京電力など電力大手6社が、国への認可申請が必要な規制料金を含む電気代の値上げを検討しているとの報道がなされています。

とりわけ、これから迎える冬は暖房で夏以上に電力を消費するだけに、電気代の値上げが家計に与える影響が気になっている人は多いことでしょう。ですが、その電気代を気にしているのは、実は携帯電話会社も同じようです。

実際、2022年11月に入って相次いでいる携帯各社の決算発表を見ると、電気代の高騰が業績に大きな影響を与えている様子を見て取れます。例えば、KDDIは2022年7月に発生させた通信障害の影響に加え、燃料費の高騰による電気代の値上がりで利益が148億円減少したとしており、そのうち燃料費高騰の影響は50億円とのこと。大きな減益要因となっていることが分かります。

  • KDDIの2022年度第2四半期決算は、前年同期比で145億円の減益となったが、その理由は大規模通信障害の影響に加え、燃料費の高騰による電気代値上げが大きく響いたとのこと

また、NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏は、2022年11月8日の決算説明会で「電気代高騰の影響が100億円に上った」と話していましたし、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏も2022年11月4日に実施された同社の決算説明会で「電気代の値上げがかなり(業績に)効いている」と話していました。携帯各社の業績に、電気代の値上げが大きく影響している様子が見て取れるでしょう。

携帯電話会社がそれだけの電気を使うことをイメージしづらい人も多いかと思いますが、実は携帯電話事業は非常に電気を使うものなのです。では、一体どこに電気を使っているのかと言いますと、携帯電話会社の要となるネットワークを支えるためです。

進むネットワーク設備の省電力化、値上げの可能性は

携帯電話のネットワークは、スマートフォンと無線で通信するアンテナや基地局、さらにそこから他の携帯電話やインターネットなどと接続するコアネットワークなどで構成されていますが、実はそれら設備はいずれも電力を多く消費するもの。もちろん3Gから4G、5Gと世代が変わるごとに機器も進化しており、省電力になってきてはいるのですが、それでも全国に多数の基地局を設置しなければ通信ができないことを考えると、必然的に消費電力は大きくなってしまうのです。

それはCO2の排出など環境への負荷にも大きな影響を与えてしまうため、近年注目されている「SDGs」などの観点から、携帯各社も消費電力削減に向けた取り組みを打ち出すようになってきました。実際、NTTドコモやソフトバンクは2030年、KDDIは2030年度を目途にカーボンニュートラルを目指すとしており、基地局などの消費電力削減に向けた取り組みを積極化しつつあります。

  • NTTドコモは2030年までにカーボンニュートラルの達成を宣言し、基地局などの省電力化に加え再生エネルギーの導入を強化するなどの取り組みを進めている

また、携帯各社にネットワーク設備を提供するベンダーも、最近は環境負担を減らすべく電力消費を抑えた機器の開発に力を入れるようになってきました。例えば、通信機器ベンダー大手の1社であるノキアは、ファンなどによる空気での冷却ではなく、液体で基地局を冷やす仕組みを開発し、冷却にかかるエネルギー消費を大幅に減らす取り組みを進めています。

  • ノキアは、液体で基地局などを冷却する仕組みを開発、日本ではKDDIと導入に向けた実証を進めているという

こうした各社の取り組みによって、携帯各社の消費電力は今後減少していくことが予想されますが、それでも当面はネットワーク維持のため多くの電力が必要なことに変わりはないでしょう。そこで気になるのが、直近の電気代値上げが携帯電話料金の値上げにつながる可能性です。

携帯電話会社も民間企業ですので、本来であれば電気代の値上げが続けばそれを料金に転嫁することが十分考えられるはずです。ですが、現在の状況を考慮するに、携帯各社が値上げするのは相当ハードルが高いというのも正直なところでしょう。

その理由は政治にあります。菅義偉前首相の政権下にあった2020年から2021年にかけて、携帯電話料金の引き下げが行政主導で進められたというのは多くの人がご存知かと思いますが、菅氏が首相を退任した現在も、総務省は料金が大幅に下がった新しい料金プランへの乗り換えを促進している状況です。一時期のように強硬な姿勢は影を潜めたとはいえ、行政側は依然、携帯電話会社同士による競争促進と携帯料金引き下げに重きを置いた政策を取り続けているのです。

加えて、携帯各社は料金引き下げで大幅な減益となってもなお、新規参入で先行投資が続く楽天モバイルを除けば電力会社のように赤字に陥っているわけではなく、経営は比較的安定しています。そうした状況を考慮するに、仮に携帯各社が値上げを打ち出したとなれば、行政側は厳しい対応を取る可能性が高いと考えられます。

  • ソフトバンクはPayPayの子会社化で、2022年度の業績予想を上方修正。携帯電話事業は各社ともに厳しいが、新規参入の楽天モバイルを除けば赤字に至るほど深刻な業績悪化に見舞われているわけではない

実際、2022年11月2日に実施されたKDDIの決算会見で、代表取締役社長の高橋誠氏は物価高による値上げの可能性について問われた際、「軽はずみには触れられない」と非常に慎重な回答をしていました。今後も、電気代が大幅に上がり続けて各社の経営を揺るがす事態となれば話は変わってくるかもしれませんが、そこまでに至らない限り、携帯料金が大きく上がることは考えにくいのではないでしょうか。