楽天モバイルの新料金プランで「月額0円」を廃止することを受け、KDDIの「povo 2.0」や一部MVNOのサービスの契約者が急増しているようです。収益改善を見込んで月額0円廃止に踏み切った楽天モバイルですが、顧客流出がどのような影響を与えるかを考えてみましょう。

新料金プラン発表後に他社への流出と思われる動きが

2022年5月13日に新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表した楽天モバイル。その内容が、現行プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」と比べ、月あたりの通信料が1GB以下であれば月額0円で利用できる仕組みがなくなり、通信量が少なくても月額1,078円かかる仕組みとなったことが大きな波紋を呼びました。

  • 楽天モバイルが新たに発表した料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」。通信量1GB以下であれば0円で利用できる仕組みがなくなったことで話題となった

なぜなら、楽天モバイルの契約者は、月額0円で運用することを前提に利用する人が少なからずいたからです。Rakuten UN-LIMIT VIでは、月額0円で1GBの通信量に加えて「Rakuten Link」アプリを使った無料の国内通話が利用できるうえ、「楽天市場」で買い物をした時のポイントが1ポイント増えるなど、0円でも多くのメリットがあったことがその理由といえるでしょう。

そうしたことから、Rakuten UN-LIMIT VIIの発表に伴って、各種SNSでは楽天モバイルに対する批判の声が少なからず上がりました。加えて、月額0円での利用を前提としていたと思われるユーザーが、早々に他社サービスに乗り換えたのではないか?という動きもいくつか見受けられます。

例えば、KDDIの「povo 2.0」は2022年5月14日に申し込みが集中し、本人確認に遅れが出ている旨の発表がなされました。その後スタッフ増員を図り、2022年5月16日には遅れが解消されたようです。povo 2.0はサービス内容はかなり違うものの、月額0円から利用できるという点では共通していることから、乗り換え先の最有力候補という声は多く、タイミングを考えれば楽天モバイルからの乗り換えが多く発生した可能性が高いでしょう。

  • KDDIの「povo 2.0」のWebサイトより。楽天モバイルの新料金プラン発表直後の2022年5月14日、申し込みが集中して本人確認に遅れが出ていることを公表。増員を図ったことで、16日には解消に至ったという

ほかにも、MVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)が2022年5月17日、申し込みが集中して本人確認や商品発送に遅れが出ている旨の発表をしています。同社の個人向けモバイル通信サービス「IIJmio」の料金プラン「ギガプラン」は、音声通話付きであれば2GBプランで月額850円、4Gプランで990円と、Rakuten UN-LIMIT VIIの3GBまでの料金(月額1,078円)より安いことから、可能な限り料金を抑えたい楽天モバイルユーザーが乗り換え先として選んだ可能性が高いと考えられます。

  • IIJの「IIJmio」のWebサイトより。こちらも2022年5月17日にpovo 2.0と同様、申し込みの集中で本人確認や商品発送などが遅れていることを公表している

流出の本格化はこれから、懸念されるイメージの悪化

こうした状況を見ると、月額0円の廃止によって楽天モバイルから他社へと顧客が急速に逃げ出しているようにも見えます。ただ冷静に考えると、今起きている流出は楽天モバイルの対応に失望した人達が衝動的に乗り換えに動いた、一時的なものと考えられます。

そもそも、Rakuten UN-LIMIT VIIがサービスを開始し、自動的にプラン移行がなされるのは2022年7月1日からで、あと1カ月以上は現行のプランが利用できます。加えて、その後2カ月間は通信量1GBまで月額0円で利用できるほか、さらにその後2カ月も料金を支払う必要こそありますが、やはり通信量1GBまでであれば1,078円相当の楽天ポイントが還元され、実質0円で利用することが可能なのです。

つまり、2022年10月末まで利用する分には、従来通り通信量1GBまでならば月額0円、もしくは実質月額0円で利用可能なことから、まだ半年近くは月額0円相当での利用を維持したまま、他社への乗り換えや解約を検討する余裕があるのです。損得を考えればまだ契約を継続していた方がお得なだけに、本格的な流出が起きるのであればもう少し先になるのではないかと筆者は見ています。

  • Rakuten UN-LIMIT VIIへの移行は2022年7月1日からで、それ以降も2022年10月末までは月額0円、あるいは実質0円で利用することが可能だ

一方、楽天モバイルが今回の措置に踏み切ったのは、インフラ整備の大幅な前倒しなどで抱えている多額の赤字を解消し、2023年度の黒字化実現のため収益を改善する狙いが大きいようです。それゆえ同社としては、現在1GB以上使っており、お金を支払っている優良顧客を重視する戦略へと切り替えたものと見られ、月額0円で利用しているユーザーが他社に流出するのはやむを得ないと考えているのでしょう。

  • 楽天グループの代表取締役会長兼社長 最高執行役員である三木谷浩史氏は、決算説明会などで月額0円廃止の理由が収益改善のためであることを明らかにしていた

ただ、競合他社からしてみれば、今回の楽天モバイルの動きは顧客を奪う絶好のチャンスだというのも確か。とりわけ、月額0円という点で共通しているpovo 2.0や、3GBまでであれば楽天モバイルより安価に利用できるソフトバンクの「LINEMO」、低価格プランに力を入れるMVNOなどは、今後楽天モバイルユーザーに向けた乗り換えキャンペーンを積極化するなどして攻勢を強めてくる可能性が高いでしょう。

実際、MVNOの1つであるHIS Mobileは2022年5月19日、新料金プラン「自由自在 290」などを同日より提供開始すると発表しています。これは、通信量が100MB未満であれば、音声通話付きであっても月額290円で利用できるプラン。その内容自体は2022年3月に発表され、当初は2022年6月上旬の提供予定とされていたのですが、それを前倒ししたのは楽天モバイルから流出するユーザーの獲得を狙った様子が見て取れます。

  • HIS Mobileは、音声通話付きで月額290から利用できる料金プランを2022年3月に発表。当初は6月上旬の提供予定としていたが、楽天モバイルの動きに合わせてか、提供時期を5月に早めている

そして、他社サービスへの流出が想定以上に多く、せっかく500万近くにまで増やした契約数を大幅に減らしてしまうとなれば、楽天モバイルの収益は改善できてもイメージが低下する可能性もあり、それが今後の顧客獲得にマイナスの影響を与えることにもなりかねません。月額0円を目当てとしたユーザーの流出をどこまで認めるのか、楽天モバイルには難しい判断が求められているといえそうです。