携帯大手の低価格プラン投入で危機的状況に置かれたMVNO各社。そのMVNOの1つであるソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」が提供する「NEOプラン」は、月額2,699円で20GBの通信量が利用できるだけでなく、新たにアップロードがし放題になる「あげ放題」を追加しています。アップロード限定とはいえ、MVNOである同社がなぜ使い放題のサービスを実現できたのでしょうか。
「ahamo」などを強く意識した内容の「NEOプラン」
2021年は、菅義偉前首相による携帯料金引き下げ要請を受け、NTTドコモの「ahamo」など従来より大幅に安い料金プランを携帯4社が相次いで投入し、人気を高めた年でもありました。一方で、その割を食ってしまったのが、携帯大手から回線を借りてサービス提供しているMVNOです。
MVNOはこれまで、携帯大手より安い料金のサービスを提供することで、携帯大手の料金の高さに不満を抱いていた人たちのニーズを獲得して急成長してきました。ですが、携帯大手の側が政府の要請で低価格プランを相次いで投入したため、MVNOに流出する人そのものが減少し、契約を伸ばせなくなってしまったのです。
そうしたことから、多くのMVNOは2021年、通信量は少ないものの携帯大手より一層安い料金プランを相次いで投入し、競争力を高める取り組みを進めてきました。ですが、それとはやや違った動きを見せているのが、ソニーグループ系の通信事業者であるソニーネットワークコミュニケーションズです。
同社は、MVNOとして「NUROモバイル」ブランドでモバイル通信サービスを提供。2021年4月には、最も安いプランであれば月額720円から利用できる「バリュープラス」を提供するなど、他のMVNOと同じ低価格路線を取っていました。ですが、2021年11月にそれとは異なる新路線のサービス「NEOプラン」を打ち出しています。
これは、月額2,699円とMVNOの料金プランとしてはやや高めではあるものの、その分20GBの通信量が付いてくるプラン。NEOプラン専用の帯域を用意して通信速度を落ちにくくするなど、ahamoなどに対抗する位置付けのプランといえます。LINEやTwitter、Instagramの通信量を(一部を除いて)カウントしない「NEOデータフリー」が付いていたり、余った通信量を翌月に繰り越しできたり、3カ月毎に15GBの通信量がもらえる「Gigaプラス」に対応していたりするなど、よりお得度合いの高い内容となっています。
それに加えて、2022年1月6日には新たに「あげ放題」の追加が発表されました。これは、動画や画像などのアップロードをする際は通信量を消費しないというもので、SNSなどに動画を頻繁にアップロードするような人にはメリットが大きいサービスといえそうです。
ただ、MVNOは携帯大手から回線を借りてサービスを提供していることもあって、使い放題のサービスを提供するのは難しいとされてきました。にもかかわらず、同社がNEOプランであげ放題を実現できたのはなぜでしょうか。
MVNOが持て余す上り帯域の有効活用が狙いか
そのポイントは、使い放題の範囲がアップロードに限定されていること、そして、ネットワークを借りているというMVNOの特性にあるといえます。MVNOが携帯大手からネットワークを借りる際は、上り・下りの帯域をまとめて借りる形となりますが、スマートフォンでのニーズが多いのは圧倒的に下り、つまりダウンロードする方の帯域です。昼休みなどにMVNOの通信速度が混雑して大幅に落ちやすいという話をよく聞きますが、その時混雑するのもおもに下りの帯域となります。
一方で、スマートフォンから上り、つまりアップロードの帯域を活用するケースは、基本的に何らかのファイルをアップロードする時に限られます。動画のライブ配信をしている人でなければ上りの帯域を頻繁に利用するケースは少ないので、多くのMVNOは借りている上りの帯域を持て余しているのです。
それゆえ、いくつかのMVNOは、上り通信のニーズが非常に高い企業向けのIoT通信サービスに力を入れるなどして、余った上りの帯域を活用しています。ですが、NEOプランでは上りの通信のみを使い放題にすることで上り帯域の有効活用を図るとともに、サービス自体の魅力を高め、加入者を増やす策に出たといえるでしょう。
ただ、あげ放題のサービス内容を見ますと「継続した長時間の使用が見受けられた場合(監視カメラでの使用など)には、利用制限を行う場合がございます」と記されています。他の使い放題サービスと同様、回線を長時間占有する使い方をした場合は何らかの制約がかかることがあるようですが、スマートフォンでの一般的な利用であれば制約を受ける可能性は低いでしょう。
最近では、動画やクラウドの利用拡大で、大容量データをアップロードするニーズは徐々に高まりつつあります。そうした変化を意識し、携帯各社も5Gでは上りの通信速度向上に力を入れるようになってきましたし、上り帯域の有効活用は多くのMVNOにとって課題となっているだけに、今後他にも上りの通信を重視したサービスが出てくるかもしれません。