なかなか利活用の幅が広まらない5Gですが、その活用手段として最近注目されつつあるのが「FWA」、要は固定ブロードバンド回線の代替としての利用です。5GをFWAとして活用する動きは携帯電話会社だけでなく、固定通信事業者にも広まりつつあるようです。
世界的に注目を集める5GのFWA活用
2020年には、さまざまな要因から利用が難しいとされてきた「5G」ですが、2021年には後半ごろから都市部を主体としてエリアが徐々に広がってきたのに加え、対応するスマートフォンがハイエンドモデルだけでなく低価格モデルにも広がったことから、利用も急拡大しているようです。
ですがその一方で、5Gの利活用の幅があまり広がっていないというのも気になります。5Gが商用化される前は、5Gで自動運転や遠隔医療などさまざまなことが実現できるようになるとアピールされてきましたが、足元の5Gの使われ方を見るとスマートフォンの通信が高速になるくらい、というのが正直なところではないでしょうか。
もちろん、現在の5Gネットワークは発展途上の状態なので、スマートフォン以外での利活用が進むためにはネットワーク自体にも進化が求められることから、まだ時間がかかるものとみられています。とはいえ、5Gの新たな使い方も徐々に出てきているようで、ここ最近その代表例として注目されているのが「FWA」です。
FWAは「Fixed Wireless Access」の略で、要は固定ブロードバンド回線の代替として無線通信を用いるというもの。FWAに相当するサービスとしては、ソフトバンクの「SoftBank Air」や、UQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」など4G技術をベースにしたものがすでに存在しており、工事不要で高速通信できる回線を導入できることから一定の人気を獲得してきました。
しかも、FWAは高速大容量通信が最も重視されるため、発展途上にある現在の5Gでも十分その性能を生かすことができます。そうしたこともあってか、FWAに5Gを活用する動きは世界的に広がりを見せつつあるようで、通信機器大手のエリクソンが2021年11月に公開した「エリクソンモビリティレポート」でも、5Gを活用したFWAが今後急速に広がると予測しています。
ローカル5Gの活用で固定事業者もFWAに参入
日本では諸外国と比べ、光回線が全国の広いエリアにわたって敷設されるなど、固定ブロードバンドの環境はかなり恵まれていることもあって、FWAのニーズはそこまで大きいわけではありません。ただ一方で、そうした恩恵を受けにくいケースも少なからずあります。
それは集合住宅です。特に、古い集合住宅などでは光回線を引き込む設備がなかったり、引き込めたとしても構内の回線がVDSLで、通信速度が最大100Mbpsに制限されてしまったりするケースが少なからずあるようで、そうした住宅に住んでいる人は都市部であっても光回線の恩恵を受けることができないのです。
それだけに、国内でもFWAに対するニーズは少なからずあるといえ、5Gの普及に合わせて携帯各社もFWAにより力を入れる動きを見せています。NTTドコモが2021年に「home 5G」を提供してFWAに参入したのが、その象徴的な動きといえるでしょう。
ですが、光回線を引き込めない集合住宅というのは、携帯電話会社だけでなく固定ブロードバンド事業者にとっても獲得したい顧客が多くいることは確か。それらの顧客を携帯電話会社に奪われてしまうのを黙って見ているのを見過ごすわけにはいかないと、最近では固定ブロードバンド事業者がFWAの提供に乗り出すケースが出てきています。
そこで重要なポイントとなってくるのが「ローカル5G」です。ローカル5Gは、携帯電話以外の事業者が、場所を限定した5Gのネットワークを構築できる仕組み。それを固定ブロードバンドのラストワンマイルとして活用し、光回線を引き込めない集合住宅にブロードバンド回線を提供しようというわけです。
実際ソニーグループは、2021年11月29日にローカル5G事業への参入を表明。ローカル5Gを活用した集合住宅向けのブロードバンドサービス「NURO Wireless 5G」を2022年春ごろに提供するとしています。「NURO」といえば、ソニーグループ傘下のソニーネットワークコミュニケーションズが提供する固定ブロードバンドサービスとして知られていますが、ソニーグループはローカル5G専用の子会社を新たに立ち上げ、NUROのネットワークを生かしたFWAサービスを提供するものとみられています。
同様の動きは他の事業者からも出てきており、マンション向けインターネットサービスを手掛けるつなぐネットコミュニケーションズとその親会社のアルテリア・ネットワークス、そして固定ブロードバンドの「eo光」やMVNOの「mineo」などで知られるオプテージは、2021年12月21日に集合住宅向けローカル5Gのフィールドテストを開始すると発表しています。その内容を見ますと、アルテリア・ネットワークスのインターネット回線とオプテージのローカル5G設備を用い、マンション内にインターネットサービスを提供して通信品質の検証を進めるとしており、商用サービスを見据えたものとなっているようです。
こうした動きは今後、独立系の固定ブロードバンド事業者や地域ケーブル会社などに広がっていく可能性が高いといえるでしょう。それゆえ、2022年は携帯電話会社と固定通信事業者による、FWAを巡る争いが激しくなるかもしれません。