楽天モバイルが2021年4月に5G用の新たな周波数帯免許を獲得、さらにiPhoneなどのアップル製品の販売を開始するなど、同社にとってポジティブな事象が相次いで起きています。資金面でも、日本郵政グループらの後ろ盾を得て環境改善を進める楽天モバイルですが、大手3社と対等に競争できる日は来るのでしょうか。

  • 5G用の周波数帯の獲得やiPhoneの販売、大規模な資金調達など、楽天モバイルには追い風が吹いている。写真は楽天の三木谷浩史社長

本格サービス開始からわずか1年でiPhone販売にこぎつけた楽天

本格参入から約1年が経過した楽天モバイルですが、ここ最近、同社を巡って大きな動きが相次いでいます。その1つは以前説明した通り、2021年3月に日本郵政グループなどからの大規模な出資を受け入れたことなのですが、4月にも大きな動きが2つ見られました。

1つは、新たな周波数帯免許の割り当てです。楽天モバイルは新規参入の事業者であるため、免許を保有する帯域が少なく、現在は4G用の1.7GHz帯と、5G用の3.7GHz帯、28GHz帯のみ。より多くの帯域の免許を持つ携帯大手3社と比べると不利な状況にあるのは確かです。

しかしながら、現在空きがある東名阪以外の1.7GHz帯を5G用として免許割り当てする方針を総務省が打ち出し、楽天モバイルを含む4社がその割り当てに応募。審査の結果、2021年4月14日に楽天モバイルに免許が割り当てられることが発表されたのです。

  • 総務省は新たな5G向け周波数帯として、東名阪以外の1.7GHz帯の免許割り当てを打ち出していたが、審査の結果楽天モバイルに割り当てることが発表された

実はこの帯域は、公共用業務無線局で使用していたものを空けた帯域であり、先に空きができた東名阪向けの免許はすでにNTTドコモが獲得。4G向けとしても一度割り当て申請がなされたものの、どの会社も手を挙げず余っていた帯域でもあります。それゆえ、人口の多い東名阪エリアで活用できないというデメリットはあるのですが、一方で5G向けとしては低く広範囲をカバーしやすい帯域でもあることから、都市部だけでなく地方でも広域に5Gのエリアを広げる必要がある楽天モバイルにとってメリットとなることは確かでしょう。

そしてもう1つの動きは2021年4月30日、同社がアップル製品の販売を開始したことです。楽天モバイルは、「iPhone 12」シリーズや第2世代の「iPhone SE」などiPhoneの現行モデルのほか、発表されたばかりの「AirTag」などのアクセサリーも取り扱うことになりました。

  • 楽天モバイルは2021年4月30日より、iPhoneなどアップル製品の販売を開始。それと同時に、iPhoneの楽天モバイル回線対応も進められることとなった

さらに、iPhoneの販売開始に合わせる形で、iPhoneが楽天モバイルのネットワークに正式対応することとなりました。iPhone 12シリーズ以外では、楽天モバイル回線とKDDIのローミング回線との自動切り替えがうまくいかない時があるなど、一部制約は残るようですが、これまで楽天モバイルの回線でiPhoneを利用するにはかなり多くの制約があっただけに、iPhone利用者にとって朗報であることに間違いありません。

ただ、日本では最も人気のあるスマートフォンとされているiPhoneですが、販売条件が非常に厳しいことでも知られています。それだけに、本格参入からわずか1年で楽天モバイルがiPhoneを販売できることには驚きもあるのですが、そこには行政によるスマートフォンの値引き規制でかつてのようにiPhoneをたくさん販売できなくなり、国内での販路を広げる必要が出てきたアップル側の事情もあるといえそうです。

課題はやはりエリア、プラチナバンドの獲得でさらなる資金調達の必要も

大手3社と比べて弱点となっていたiPhoneの販売を開始したことで、ライバル他社との距離を1つ縮めることができた楽天モバイル。新たな周波数帯と日本郵政グループなどから得た資金を得て4G/5Gのエリア拡大を進め、大手3社に対抗できる体制を早急に整える……というのが同社の狙いといえますが、それにはまだ少なからぬ課題があるというのも正直なところです。

最大の課題は、やはりエリアです。楽天モバイルは、一定のエリア整備が進んだことにより、東京など一部の都府県でKDDIとのローミングを終了させているのですが、その影響で楽天モバイルのネットワークに接続できなくなったという声が、郊外を中心に少なからず挙がっているのも事実です。

楽天モバイルは当初の計画を5年前倒しし、2021年夏ごろまでに全国の人口カバー率96%達成を見込むとしていますが、それでもKDDIとのローミング終了で使えないエリアが出てきているとの声が挙がっていることを考えると、基地局をより密に整備しなければ満足できるエリアカバーを実現できないと見られています。日本郵政グループなどからの出資を受け、基地局設置を当初の計画よりも増やして密度を高める方針を打ち出したのも、ローミング終了後のエリアに対する不満を解消する狙いが強いがゆえといそうです。

  • 楽天モバイルは、2021年夏に人口カバー率96%を達成するとしているが、それでも郊外や建物内などでは電波が届かないケースがあり、より密な基地局整備が求められている

また、楽天モバイルはより広域のエリア整備に向け、衛星から携帯電話のネットワークをカバーする「スペースモバイル計画」を打ち出し、2023年以降の実現を目指すとしています。ですが、こちらに関しては技術的に可能であっても、制度面での整備が必要など、さまざまな課題をクリアする必要があり、現時点で実現の見通しは立っていないというのが正直なところです。

では、より確実にエリア面での問題を解消するうえで楽天モバイルが必要としているのは何かというと、1GHz以下の周波数帯、いわゆる「プラチナバンド」です。プラチナバンドは電波が障害物の裏にも回り込みやすいため、広いエリアや建物内などをカバーするのに適している一方、楽天モバイルには割り当てがなされていないことから、同社は総務省の有識者会議「デジタル変革時代の電波政策懇談会」で機会平等を求め、プラチナバンドの割り当てを要求しています。

  • 総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の「移動通信システム等制度WG」第1回会合の楽天モバイル提出資料より。プラチナバンドの割り当てがないことが、他の3社に対して競争上不利だとして、割り当てを求めている

ただ、プラチナバンドは利便性の高さゆえ、携帯各社だけでなく放送などさまざまな事業者がすでに利用しており、空きが少ないのが実情です。そうしたことから、先の有識者会議では、電波の有効活用に向けた周波数帯の再分配に関する議論が進められており、プラチナバンドも例外とすることなく再割り当ての審査対象とするべきとの方針が示されています。

  • 「デジタル変革時代の電波政策懇談会」第6回会合資料より。プラチナバンドを含めたすべての周波数帯の免許について、有効期間終了後に再分配の審査をする方針が示されたが、その具体的な方法などについてはまだ議論が続いている

このこと自体は楽天モバイルにとって朗報といえるのですが、一方で先にも触れた通り、プラチナバンドには既存の利用者がいるだけに、再割り当てをするにしてもどのような方法で審査するのか、事業者が変わった場合はどういった条件で移行してもらうのかなど、まだ議論が続いており、結論が出るには時間がかかるものと考えられます。仮に、既存帯域の再割り当てが実現し、審査の末に楽天モバイルがプラチナバンドを獲得したとしても、既存事業者から移行するためのコストと時間が必要なので、すぐ使えるわけではありません。

そうしたことを考慮すると、楽天モバイルがプラチナバンドを使えるようになるには相当の時間がかかるでしょうし、利用するには一層の資金調達が必要になってくるでしょう。楽天は、日本郵政グループと同時期に中国テンセントの子会社からも出資を受けていますが、それが現在、政治的な理由から議論を呼んでいることを考えると、今後大規模出資を募るにしてもその相手が限定され、思うように資金調達ができない可能性も考えられます。

そうしたことを考えると、楽天モバイルが軌道に乗って大手3社と対抗できる勢力になり得るには、iPhoneの販売などだけではまだ不十分だということが見えてきます。今後も、楽天モバイルには多くの試練が待っているといえそうです。