2021年4月5日、韓国のLGエレクトロニクスが携帯電話事業からの撤退を表明して驚きをもたらした一方、新たなメーカーが日本参入を表明するなど、中国メーカーの勢いは一層増しているようです。こうした各社の傾向から、スマートフォン市場が今後、どのように変化していくかを考えてみましょう。
長年の赤字に苦しんでいたLGエレクトロニクス
3月から4月にかけ、携帯電話各社の新料金プランが相次いでサービスを開始したことで、ここ半年ほど業界をにぎわせていた携帯電話料金に関する動向はひとまず落ち着きを見せつつあるようです。そうしたこともあってか、ここ最近はスマートフォン新機種の投入が注目を集めているようですが、そんな中で1つ、驚きをもたらした発表がありました。
それは4月5日、韓国のLGエレクトロニクスが携帯電話事業から撤退すると表明したことです。LGエレクトロニクスは、かつて世界トップ3の出荷台数シェアを誇り、日本でも黎明期からスマートフォンを積極的に投入してきたメーカーの1つであるなど、業界では大きな存在感を発揮してきた企業の1つです。
しかも2021年、同社は「CES 2021」でディスプレイを巻き取って伸縮するスマートフォン「LG Rollable」を披露するなど、強みを持つディスプレイ技術を武器として、スマートフォンの新しいスタイルの開拓を進めていた最中でした。その直後だけに、同社が携帯電話事業から撤退を表明したことには驚きがあったといえます。
ですが一方で、同社の携帯電話事業は2015年から赤字が続いており、長きにわたって苦戦が続いていたのも事実です。それゆえ、CES終了後には撤退に関する憶測報道もいくつかなされており、事業が非常に厳しい状況にあったこともまた確かだったようです。
実際、日本では2020年に販売された「LG VELVET」は、ケースを装着してディスプレイを追加できるという同社のハイエンドモデルの特徴を維持しながらも、性能はミドルハイクラス相当に落として価格を引き下げ、販売数を稼ぐ戦略に出ていました。このことは、同社がハイエンドモデルで他社に正面から対抗するのが難しくなっている、という苦境が見えていたのも確かです。
ですが、そもそもスマートフォン事業で長年赤字に苦しんできたのは、LGエレクトロニクスだけではありません。ソニーモバイルコミュニケーションズや台湾のHTC、エイスーステック・コンピューターなど、かつてスマートフォン市場で存在感を発揮していたメーカーの多くが、携帯電話事業で赤字となり立て直しに苦心しているのです。
実際、ソニーモバイルコミュニケーションズは出荷台数を最盛期の10分の1以下にまで減らし、「Xperia PRO」で法人向けの市場開拓に力を入れるなど、コンシューマー市場への注力を落とし事業規模を大幅に縮小することで、ようやく赤字から脱却できたという状況です。こうした状況を見れば、LGエレクトロニクスの撤退もある意味やむを得ない部分があったといえるでしょう。
低価格に強い中国メーカーに有利な市場環境に
ではなぜ、それだけ多くのメーカーが苦しい状況に追い込まれたのかといえば、中国メーカーの台頭にほかなりません。実は、多くの中国外メーカーが赤字に苦しむようになった2015年前後は、ちょうど世界市場で中国メーカーが躍進していた頃と重なっているのです。
中国メーカーは、お膝元に14億人もの巨大な市場を持つという強みに加え、低価格の製品に強く、伸びしろの大きい新興国市場で急速に販売数を拡大したことにより、世界的に大きな存在感を示すようになりました。その中国メーカーの価格攻勢に対抗できなかったメーカーが軒並み赤字となり、市場からの撤退や規模縮小を余儀なくされたわけです。
そこで中国メーカーは、ライバルの減少に伴って先進国市場への進出も積極化するようになりました。実際日本でも、ファーウェイ・テクノロジーズやZTEといった中国メーカーが2015年ごろから積極的にスマートフォンの新製品を投入し、市場での存在感を強めていました。
最近では、新興国を主体に展開してきたオッポやシャオミなどの新興勢力が、日本政府のスマートフォン値引き規制による低価格端末のニーズの高まりを受け相次いで進出。強みでもある低価格を武器として、短期間のうちに大きな存在感を示すようになっています。
2021年4月8日には新たに、オッポから分離した世界出荷台数シェア7位のスマートフォンメーカー、リアルミー(Realme)も日本への進出を発表しています。同社が当初、日本で販売するのはワイヤレスイヤホンやスマートウォッチなどのIoT製品に限られていますが、将来的なスマートフォン販売を見据えた進出であることは確かでしょう。
スマートフォンはすでに広く普及しており、コモディティ化が進んでいることから、消費者は今後より一層低価格かつ高性能であることを求める傾向が強まるとみられており、価格競争力を持つ中国メーカーには一層有利な市場になっていくものと考えられます。それは裏を返せば、アップルのように他社とは一線を画す明確なブランドを確立しているメーカーでなければ、生き残ること自体が相当厳しい市場になることも示しています。
それゆえ、LGエレクトロニクスのように撤退するメーカー、あるいは生き残るための戦略転換により、コンシューマー市場での存在感を失うメーカーは今後も増えてくると考えられます。ただ、ファーウェイ・テクノロジーズの事例が示しているように、米中対立の影響で中国メーカーへの依存度が高まることには一定のリスクも出てきているだけに、単に中国外のメーカーが減少してしまうことのリスクも今後は懸念されるかもしれません。