携帯4社の相次ぐ低価格な新料金プラン投入で存在感が薄れているMVNO。そのMVNOから、より低価格な料金プランを打ち出す動きが相次いでいますが、一方で各社の発表内容を見ると、どれだけのMVNOがこの流れに追随できるか不透明な部分もあります。

20GBで1,880円も! 一層安い料金を打ち出すMVNO

NTTドコモが月額2,700円(税別)で高速通信量20GBのオンライン専用プラン「ahamo」を打ち出して以降、携帯各社が相次いで新料金プランを発表し、低価格の料金プランのラインアップが急拡大しています。ですが、その影響で存在感を失っているのが、いわゆる「格安スマホ」などとも呼ばれる低価格のモバイル通信サービスを提供するMVNOです。

MVNOはこれまで、携帯大手の料金よりも低価格であることを武器として顧客を獲得してきました。ですが、その携帯大手がMVNOに匹敵する、あるいはそれを下回る水準の料金プランを投入してきたことは、MVNOにとって非常に大きな危機をもたらしたのです。

ただでさえMVNOは、昼休みなど混雑時の時間帯に通信速度が低下しやすく、通信品質の面で携帯大手に敵わない部分があるだけに、料金まで追いつかれてしまったとなれば勝ち目がなくなってしまいます。そこで2020年末から、いくつかのMVNOが新料金プランを打ち出しており、大手に対抗する姿勢を見せているようです。

最も早く新料金プランを打ち出したのが日本通信で、同社は2020年12月10日から「合理的20GBプラン」を提供開始。20GBの高速データ通信(当初は16GB)と70分間の無料通話が付いて、月額1,980円(税別)という低価格を実現しています。

  • 日本通信がahamoなどに対抗するべく、2020年末に打ち出した「合理的20GBプラン」。月額1,980円(税別)で20GBの通信量と70分間の無料通話が利用できる低価格が特徴だ

2021年に入ってからは、より多くのMVNOが新料金プランを発表しています。2021年1月27日には、MVNO大手であるオプテージの「mineo」が、1GBから20GBの4プランに絞って料金を安くした新料金プラン「マイピタ」を発表。その翌日となる2021年1月28日には、ケーブルテレビ大手のジュピターテレコムがMVNOとして展開する「J:COM MOBILE」も、やはりプランを4つに絞って従来より値段を引き下げた「J:COM MOBILE Aプラン ST」を発表しています。

  • オプテージの「mineo」は、新料金プラン「マイピタ」を2021年1月28日に発表。音声通話付きで20GBプランの料金が従来の半額以下となる月額1,980円と、大幅な値下げをしている

そして、一層の低価格を実現して話題になったのが、インターネットイニシアティブ(IIJ)が提供する個人向けモバイル通信サービス「IIJmio」が2021年2月24日に発表した新料金プラン「ギガプラン」です。こちらは2GBから20GBまでの5つのプランが用意されており、音声通話付きのプランでは2GBで月額780円(税別)、20GBプランで月額1,880円(税別)と、MVNOの中でもとりわけ安い料金としてきました。

  • IIJが2021年2月24日に発表した「IIJmio」の新料金プラン「ギガプラン」の概要。音声通話付きで2GBのプランは月額780円(税別)、20GBプランは1,880円(税別)と、さらなる安さを追求している

さらに、NTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」も、2021年3月に新料金プランを発表することを明らかにしているようです。そうしたことから今後も、MVNO各社の新料金プラン投入が相次ぐことになりそうです。

接続料の引き下げを見越した値下げにはリスクあり

ただ、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会は、携帯大手からネットワークを借りる際に支払う「データ接続料」や「音声卸料金」が、現行の水準では携帯大手の低価格プランに太刀打ちできないとして、2021年1月18日に緊急の措置を求める要望書を総務省に提出しています。にもかかわらず、MVNOからは次々と低価格な新料金プランが打ち出され、積極的な対抗姿勢を打ち出していることに疑問を抱く人もいるかもしれません。

各社の説明によると、データ接続料や音声卸料金が今後大きく下がることを見越し、先手を打って料金を引き下げたとしています。実際総務省は、2020年10月に打ち出した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の中で、データ接続料を3年間で5割引き下げたり、2021年夏までに検証のうえで音声卸料金の一層の低減を実現したりするとしており、今後大幅な引き下げの可能性があることは確かです。

  • 総務省「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の概要。第2の柱に掲げる「事業者間の公正な競争の促進」の1つとして、データ接続料や音声卸料金の一層の低減を打ち出している

データ接続料に関しては2020年度から、当年度の接続料が2年後に決まる「実績原価方式」から、3年後までの接続料を予測して提示する「将来原価方式」へと算定方式が変更されています。その結果、MVNO側が少なくとも3年先の料金を見据えた料金設定ができるようになったことも、今回の料金引き下げには影響しているでしょう。

  • 総務省「第二種指定電気通信設備接続料規則の一部改訂について」より。従来の算定方式「実績原価方式」では、データ接続料の予見が困難と、MVNO側から不満が挙がっていたことを受け、2020年1月に予見がしやすい「将来原価方式」へと変更がなされている

ですが、携帯電話会社側はまだ2021年度のデータ接続料を打ち出しておらず、現時点ではあくまで、データ接続料や音声卸料金が大幅に下がる可能性があるという状況に過ぎません。それゆえ、今後提示される接続料などがMVNOの想定ほど下回らなかった場合、新料金プランでMVNO側が大きな損を被ってしまう可能性もあるのです。

実際、IIJは2014年度の決算で、NTTドコモのデータ接続料が想定ほど下回らず、予想が外れたことで大幅な減益を記録したことがあります。先にも触れた通り、接続料の算定方式が変わったことで、以前よりも正確な予測がしやすくなっているとはいえ、それでも今回の新料金プランがMVNOにとってリスクの大きい施策であることに変わりはないのです。

それゆえ現在のところ、新料金プランを打ち出しているMVNOはMVNOとして大手の企業か、携帯大手傘下、あるいはグループのMVNOに限られているようで、ある程度リスクを負える企業体力がなければ対抗策が打てないことを図らずも示したとも言えるでしょう。MVNOの数は既に1,000を超え、なかには小規模のMVNOも少なくないだけに、やはり携帯大手の値下げが多くのMVNOにとって危機であることに変わりないのです。