2019年10月に携帯電話事業者(MNO)としてサービスの開始を予定している、楽天の子会社「楽天モバイル」。すでにMVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを提供している楽天モバイルですが、なぜ携帯電話会社になる必要があったのでしょうか。また、市場が飽和しているなか、楽天モバイルは強力なライバルを抑えて成功を収められるのでしょうか。
この10月、携帯キャリアになる楽天
携帯電話料金の値下げやファーウェイ問題など、大きな出来事が相次いでいる2019年の携帯電話業界。ですが実はもう1つ、今年は大きな出来事が予定されています。それは、楽天の子会社「楽天モバイル」が、自らインフラを持つ携帯電話事業者として、2019年10月の参入を予定していることです。
しかしなぜ、楽天は携帯電話事業への参入を打ち出すに至ったのでしょうか。その経緯を振り返ってみましょう。
MVNOの立場では満足できなかった楽天
Eコマース「楽天市場」やクレジットカード「楽天カード」などで知られる楽天ですが、実は2007年に、東京電力系の固定通信事業者であったフュージョン・コミュニケーションズ(現・楽天コミュニケーションズ)を買収しており、通信事業者としての側面も持ち合わせています。そうしたことから楽天は、フュージョン・コミュニケーションズを通じて2012年より、MVNO(仮想移動体通信事業者)としてNTTドコモの回線を借り、モバイル通信サービス「楽天ブロードバンド LTE」を提供していました。
同社は固定通信の会社ということもあり、このサービスはデータ通信に主軸を置いた内容でした。ですが、MVNOが「格安スマホ」「格安SIM」などという名称で注目され、一般消費者の契約が急増するなど人気が高まったことを受け、同社は2014年、新たに「楽天モバイル」ブランドでスマートフォン向けのサービスを開始。その後、楽天モバイルは楽天に移管し、主力サービスの1つとして注力されるようになり、テレビCMを展開したりするなどして積極的な加入者獲得を進めてきました。
その結果、楽天はMVNOとしてトップシェアを獲得するなど一定の成功を収めました。しかし、一方で楽天は、MVNOでのサービス展開に限界も感じていたようです。
その理由は、携帯電話会社からネットワークを借りるというMVNOの立場では、あくまで携帯電話会社が提供するメニューのなかからしかサービスを選ぶことしかできないため。提供できるサービスが画一的で自由度が低いことを、楽天側は不満に思っていたようです。
そうしたことから楽天は、2017年末に自らネットワークを持つ携帯電話会社になることを宣言。2018年1月、携帯電話事業を担う楽天モバイルネットワークを設立し、同社が4月に総務省から1.7GHz帯の電波割り当てを受けたことで本格参入に至ったわけです。その後2019年4月には、同社は楽天モバイルに名称を変更し、楽天からMVNO事業も継承するなどして、2019年10月のサービス開始に向けた準備を進めています。
成否を大きく分けるエリア整備
では、携帯電話事業者としての楽天モバイルの強みはどこにあるのでしょうか。1つは、現在の楽天モバイルと同様、他の楽天のサービスと連携したサービスを提供できることです。特に、ポイントプログラムの「楽天スーパーポイント」に関しては、現在の楽天モバイルでも加入しているとポイントが貯まりやすくなるのに加え、ポイントで毎月の通信料金が支払えるなどの仕組みが用意されているだけに、その活用が注目されます。
そしてもう1つは、最新のネットワーク設備を活用できることです。純粋な新規事業者である楽天モバイルは、既存の古いネットワーク設備を一切持っていないことから、すべて最新の機材でネットワークを構築できるできるメリットがあるのです。
実際、楽天モバイルは、無線通信処理から音声やパケットの交換機、コアネットワークといった携帯電話のネットワークを構成するすべての機器を、専用の機材ではなく汎用のサーバーとソフトウエア処理でこなす「ネットワーク仮想化」技術を導入し、低コスト化を実現するとしています。そうした最新技術の活用によって、楽天モバイルはライバル他社が1年間に費やす設備投資額と同等の6000億円以下という金額で全国を整備できるとしています。
一方、楽天モバイルの弱みとなるのは、ゼロから全国にネットワークを整備する必要があること。楽天モバイルは今、ネットワークの整備のため基地局の設置などを進めている最中であり、そのための場所の確保に力を入れているようです。しかし、よい場所はすでにライバル他社が基地局を置いていることが多いため、楽天が順調に設置場所を確保してエリアカバーを推し進められるかは未知数なのです。
もちろん、楽天モバイルがサービス開始当初から全国のエリアを整備するのは難しいことから、当初は提携しているKDDIのネットワークとローミングすることでエリアカバーを賄う方針です。しかしながら、自社ネットワークの整備が順調に進まないと「ローミングのほうが快適」ということにもなりかねず、評価を大きく落とすことにもつながりかねません。
携帯電話は、端末に電波が届いて快適に通信ができてこそ価値があるもので、どんなに料金が安くてもつながらなければ価値はありません。かつてのPHS、最近であればMVNOが、料金が安いにもかかわらず苦戦したのは、インフラ整備が間に合わずつながりにくかったり、つながっても混雑時に通信速度が遅かったりするなど、ネットワークに対する不満が大きかったがゆえなのです。
楽天モバイルがいくら最新の設備でコストを抑えられたとしても、大手3社に匹敵するエリアをカバーし、快適な通信ができるネットワークを提供できなければ、評価は大きく落ちてしまうでしょう。それだけに、楽天モバイルの参入を疑問視する声は今もなお少なからずあるのですが、そうした声をはねのけて充実したネットワークを提供できるかが、楽天モバイルの成否を分けるといっても過言ではないのです。