10月20日より開催されていた「CEATEC 2020 ONLINE」では、富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)や京セラなどが、場所を限定した5Gネットワーク「ローカル5G」に対応する端末などを展示し、積極的にアピールしていました。なぜ、これらの国内スマートフォンメーカーが、ローカル5Gに力を入れているのでしょうか。
CEATECでローカル5G向けデバイスを出展
2020年は新型コロナウイルスの影響で、さまざまな大規模イベントがオンラインに移行しての開催を余儀なくされました。国内で毎年実施されているIT・エレクトロニクスの見本市イベント「CEATEC」(シーテック)もその例に漏れず、2020年は「CEATEC 2020 ONLINE」としてオンラインのみでの開催となりました。
10月20日から4日間にわたって実施されたCEATECの中で、大きなテーマの1つになっていたと感じたのが「5G」で、より細かくいえば「ローカル5G」でした。ローカル5Gとは、場所を限定して提供される5Gネットワークのこと。携帯電話会社が広範囲に展開する5Gとは異なり、場所は限定されるものの、携帯電話でなくても5Gのネットワークを構築・運用できるのがローカル5Gの大きな特徴です。
ローカル5Gは、おもに産業用途での活用が見込まれており、5Gでさまざまな産業のデジタル化を推し進める存在として注目されています。一般消費者がローカル5Gを直接目にする機会はあまりないかと思いますが、工場や倉庫、農場などのさまざまな場所で、今後ローカル5Gが積極的に活用されるとみられていることから、高い注目を集めているのです。
今回のCEATECでは、そのローカル5Gに関する展示が多くなされていました。そうしたなかでも、ローカル5G向関連のデバイスに特に力を入れていたのが、国内のスマートフォンメーカー2社です。
その1社である富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)は、ローカル5G対応デバイスの1つとして「ローカル5G対応スマートデバイス」を出展。4Kカメラや高性能のチップセットを搭載したスマートフォンながら、ローカル5G向けの周波数帯に対応するほか、ローカル5Gのネットワーク状態を可視化できる「ローカル5Gネットワーク可視化ツール」など、ネットワーク技術者に向けたアプリなども提供され、通常のスマートフォンとは異なる様子がうかがえます。
産業向けであることを明確に示しているのが「スマートAIカメラPro」と「エッジAIキット」です。これらは、いずれもコンシューマー向けのデバイスとは形状自体が大きく異なっており、カメラと5Gを用い、撮影した映像をAIで分析して点検や監視などに役立てる専用デバイスとなっています。
京セラも、FCNTと同様にローカル5G向けのデバイス「5Gコネクティングデバイス」を出展していました。こちらも2.5インチのディスプレイを搭載してはいるものの、スマートフォンとは明らかに異なる形状で、電源がない場所でも使えるよう6000mAhのバッテリーを搭載するなど、幅広い産業向けに活用できることを想定したデバイスとなっているようです。
京セラによると、5Gコネクティングデバイスが同社初の5G対応デバイスになるとのこと。スマートフォンではなく産業用途向けのデバイスが初の5Gデバイスというのは意外な印象もありますが、それだけ同社がローカル5Gに力を入れていることは確かだといえます。
ソリューションビジネスで手堅い収益に期待
なぜ、これらの2社がローカル5G向けのデバイスに力を入れているのでしょうか。それは、コンシューマー向けのスマートフォンとは異なり、デバイス以外のビジネスへと結び付けられるからでしょう。
実はFCNTも京セラも、単にローカル5G向けのデバイスを販売することに力を入れているわけではありません。強みとなる5Gデバイスをキーとしながら、ローカル5Gを導入したい企業のネットワーク構築を支援したり、ローカル5Gを活用してビジネスを効率化するシステムなどをまとめて提供したりして、運用やサポートまでも一括で提供するソリューションビジネスに力を入れようとしているのです。
こうしたソリューションビジネスのメリットは、企業を相手にするため確実な収入が得られること。デバイスだけでなくネットワークやシステムの運用も一括して手掛けることで、売り切りではなく継続して収入が見込めることは、いわゆる“サブスク”型のサービスがもてはやされたことを考えれば何となく理解できるのではないでしょうか。
コンシューマー向けのスマートフォンビジネスは、基本的に端末を販売したらそれ以上の売上を得ることはできませんし、最近では低価格スマートフォンの人気が高まるなど価格競争力が強く求められるため、一部の企業以外は得られる利益が非常に少なく、市場が飽和傾向にある現在では生き残るのが難しい状況にあります。実際、FCNTも京セラも、コンシューマー向けのスマートフォン事業では海外メーカーに押されて厳しい状況に置かれています。
そうしたことから、スマートフォンで得た通信やデバイスの開発技術を生かしながらも、手堅く確実な売上が見込める手段として、今後成長が見込める産業向けのローカル5Gに力を入れようとしているのではないかと考えられます。実際、京セラはすでに通信事業の主軸をスマートフォンから産業用のIoTデバイスへと移す姿勢を見せており、以前から産業向けに事業をシフトしたい意向を示していました。
このことは、2社が市場環境が厳しいコンシューマー向けスマートフォンへの注力度合いを下げることも意味していますが、裏を返せばそれだけスマートフォンメーカーが厳しい状況に置かれているのもまた事実。ローカル5Gを主体とした産業向けのビジネスで収益を改善し、再びコンシューマー向けにも積極的なチャレンジを見せてくれることを期待したいところです。