ワイモバイルやUQ mobileといった携帯大手のサブブランドが、相次いでアップルの「iPhone SE」(第2世代)の販売を開始しました。2020年春に発売されたばかりのiPhone SEを、サブブランドが早々に扱い始めた背景には何があるのでしょうか。

発売からわずか4ヵ月でサブブランドからも販売

楽天モバイルの本格参入を受けて、ここ最近、MVNOや携帯大手のサブブランドを主体とした低価格のモバイル通信サービスに関する競争が激化しています。そうした低価格サービスの中で新たな動きとなったのが、これまで携帯3社のメインブランドで販売してきたアップルの「iPhone SE」(第2世代)が、サブブランドから販売されるようになったことです。

実際、ワイモバイルとUQ mobileはともに、8月21日に第2世代iPhone SEの発売を発表し、8月27日より販売を開始しています。ワイモバイルは、当初64GBモデルのみの取り扱いでしたが、8月26日に128GBモデルを9月上旬以降に販売すると発表しており、全モデルがサブブランドで扱われることになりました。

第2世代のiPhone SEは、「iPhone 8」のボディデザインを踏襲しながら最新のチップセットを搭載し、比較的低価格ながらも高い性能を備えたコストパフォーマンスの高いモデルとして知られています。それだけに、第2世代のiPhone SEは携帯大手のメインブランドよりも、価格を重視するサブブランドとの相性の方が高いのは確かでしょう。

  • 低価格かつコンパクトで高いチップセット性能を持つ、第2世代の「iPhone SE」。この夏、サブブランドでの販売が始まった

ですが、従来のサブブランドのiPhone販売動向を見ると、今回の第2世代iPhone SEの投入はかなり異例であることが見えてきます。確かにサブブランドは、これまでにもいくつかのiPhoneを販売してきましたが、それらはすべて発売からだいたい1年以上の期間が過ぎてから投入されてきたからです。

例えば、第1世代のiPhone SEが日本で発売されたのは2016年3月ですが、サブブランドのワイモバイルが販売を開始したのは2017年3月でした。しかしながら、第2世代のiPhone SEの発売は2020年4月であるにもかかわらず、それから約4カ月後の2020年8月というかなり早い段階でサブブランドでの扱いが始まっていることが分かります。

  • ワイモバイルが第1世代の「iPhone SE」を販売したのは、発売から約1年が経過した2017年3月からだった

5Gの普及を考えると悩ましい存在のiPhone SE

なぜ、第2世代iPhone SEはこれほど早くサブブランドで扱われることとなったのでしょうか。そこに大きく影響しているのは、次世代モバイル通信の「5G」ではないかと筆者は考えます。

携帯大手3社は、2020年3月より5Gの商用サービスを開始しており、各社のメインブランドでは今後5Gの加入者を増やして4Gから5Gへの移行を進める必要があります。ですが、コロナ禍の影響などによって5G対応スマートフォンの販売は伸び悩んでおり、思うように普及は進んでいません。

  • 携帯大手3社は2020年3月に5Gの商用サービスを開始したが、コロナ禍が直撃して5Gの端末販売は思うように伸びていないようだ

そこで各社が期待をかけているのが、2020年に発売されるであろうiPhoneの新機種です。アップルは現在、主要スマートフォンメーカーの中で唯一5G対応端末を提供しておらず、2020年に5G対応iPhoneを投入できなければ市場での競争力を大きく落としてしまう可能性があります。

それゆえアップルは、訴訟合戦が続いていたクアルコムと和解して5G対応モデムの供給に道筋をつけるなど、ここ最近は5G対応に向けた動きを積極化していたため、新iPhoneは5Gに対応する可能性が非常に高いと見られています。それだけに、iPhoneの人気が非常に高い日本の携帯電話会社は、新iPhoneによる5Gユーザーの拡大に期待を寄せているのです。

一方で、メインブランドでの販売拡大が必ずしも喜べない存在となってきたのが第2世代iPhone SEです。第2世代iPhone SEは5Gの通信には対応していませんが、アップルは比較的古い端末でもiOSのアップデートを実施する傾向にあることから、長きにわたって使い続けられる端末になるとみられています。

このことは、スマートフォンの買い替えにお金をかけたくない消費者には嬉しいのですが、5Gへの移行を進めたい携帯電話会社にとっては、メインブランドのユーザーが長期間端末を買い替えないことで、移行が思うように進まない要因にもつながってきます。そこで、サブブランドを持つ大手2社は、第2世代iPhone SEをサブブランドでも取り扱って低価格を求める層に重点販売する一方、メインブランドでは新iPhoneに注力して5Gの普及に注力する可能性が高いと考えられるわけです。

それだけに携帯各社にとっては、新iPhoneが5Gに対応し、なおかつ早い時期に発売されることが重要になってくるでしょう。すでにアップルは、コロナ禍の影響により新iPhoneの発表を数週間遅らせることを明らかにしていますが、もし一層の遅れが生じてしまえば携帯各社の思惑、ひいては日本の5G普及にも大きな影響を与えることになるかもしれません。