調査会社のCanalysは7月30日、2020年第2四半期の世界スマートフォン出荷台数シェアを発表しました。注目を集めたのが、ファーウェイ・テクノロジーズがサムスン電子を抜き、初めてシェア1位を獲得したこと。米国からの制裁が続き、世界的なビジネスに制約が出ているはずのファーウェイ・テクノロジーズですが、なぜこのタイミングでシェアトップを獲得できたのでしょうか。

  • 米国からの制裁が続くなか、ファーウェイ・テクノロジーズがスマートフォンの世界出荷台数シェアナンバーワンを獲得した

米国の制裁中にもかかわらず四半期でトップに

世界のスマートフォン出荷台数シェアは、サムスン電子が長らくトップシェアを獲得しており、アップルとファーウェイ・テクノロジーズがその後を追う状況が続いていました。ですが、各種調査によると、2019年にはファーウェイ・テクノロジーズがアップルを抜いて世界2位のシェアを獲得するなど、大きな変化が起きていました。

そして2020年7月30日、Canalysという調査会社が2020年第2四半期(2020年4月~6月)のスマートフォンの世界出荷台数シェアを公表したのですが、なんとファーウェイ・テクノロジーズが5,580万台の端末を出荷し、5,370万台にとどまったサムスン電子のシェアを抜いてシェアトップの座を獲得したというのです。あくまで特定の調査会社における四半期ベースのシェア比較ではあるのですが、この出来事には大きな驚きがありました。

  • Canalysの発表資料より。年々シェアを拡大してきたファーウェイ・テクノロジーズだが、2020年第2四半期についにサムスン電子を抜いてトップシェアを獲得している

驚きの理由の1つは、長年シェアトップを獲得していたサムスン電子がトップの座を明け渡したことですが、より一層驚きがあるのは、やはりファーウェイ・テクノロジーズが米国から制裁を受けている状況にありながら、シェア逆転にいたったということです。

ファーウェイ・テクノロジーズは2019年5月に、米国の商務省が産業安全保障局のエンティティーリストに追加したことで、米国企業との取引ができない状況となっています。その大きな弊害となっているのが、米国企業であるグーグル製のアプリやサービスを、ファーウェイ・テクノロジーズ製のスマートフォンに搭載できなくなったことです。

その影響により、ファーウェイ・テクノロジーズが新たに販売しているスマートフォンは、過去機種のリニューアル版など一部を除いて、「Google Play」などのグーグル製アプリやサービスが搭載されていません。ファーウェイ・テクノロジーズはその代替として、「HUAWEI AppGallery」などの独自サービスを提供していますが、日本をはじめとしてグーグルのサービスが広く利用されている多くの国では、この影響でファーウェイ・テクノロジーズ製のスマートフォンが使いにくくなり、販売が伸び悩む傾向にあるはずなのです。

  • ファーウェイ・テクノロジーズは、米国の制裁によってスマートフォンにGoogle Playなどグーグル製のサービスを搭載できないことから、独自のアプリストア「AppGallery」などの提供に力を入れている

中国のコロナ禍からの回復が大きく影響

にもかかわらず、なぜファーウェイ・テクノロジーズがこのタイミングでシェアトップを獲得できたのかというと、その米国による制裁と、新型コロナウイルスが非常に強く影響したと見られています。

米国によるファーウェイ・テクノロジーズへの制裁は、現在の米中対立が大きく影響していると言われています。そうしたことからこの制裁以降、中国では米国への反発からかファーウェイ・テクノロジーズの販売シェアが急速に高まり、国内で圧倒的なシェアを獲得するようになったのです。

実際、Canalysによると、ファーウェイ・テクノロジーズのスマートフォンは現在、中国国内での販売数が70%に達しているそうです。もともと中国ではグーグルが撤退しておりGoogle Playなどが提供されておらず、ファーウェイ・テクノロジーズも以前より独自のエコシステムを展開していたことから、米国の制裁も販売に影響を及ぼすことはないのです。

  • ファーウェイ・テクノロジーズ独自のエコシステム「Huawei Mobile Services」は、170国以上でサービスを提供しており、4億人超のユーザーがいるとされているが、実際のところその多くが中国の利用者となる

それに加えて、中国は当初新型コロナウイルスの感染拡大が深刻でしたが、現在は落ち着いており経済活動が再開していることから、中国での端末販売の伸びがこの四半期での出荷台数に大きく貢献したようです。Canalysの調査によると、四半期でファーウェイ・テクノロジーズの海外でのスマートフォン出荷台数は前年同期比で27%減少した一方、中国での出荷台数は逆に8%増えたとされています。

一方で、日本だけでなく欧米や南米など、中国以外の多くの国では新型コロナウイルスの感染拡大が現在も続いており、経済活動が回復していません。その影響を大きく受けたのが、中国以外の多くの国で高いシェアを獲得しているサムスン電子です。

実際、サムスン電子のスマートフォン出荷台数は、前年同期比で30%減少しているとのこと。その一方でファーウェイ・テクノロジーズは、中国市場に支えられて減少幅が5%にとどまったことから、シェア逆転にいたったといえるでしょう。

そうしたことから、新型コロナウイルスの影響が落ち着けば再びシェア逆転する可能性が高く、今四半期でのシェア逆転は一時的なものにとどまる可能性が高いと、Canalysのレポートでも記されています。しかしながら、ファーウェイ・テクノロジーズはここ数年来世界各国で急速にシェアを伸ばしており、米国の制裁がなければ新型コロナウイルスの影響がなくても、自力でトップシェアを獲得する可能性が高まっていたのも事実です。

それだけに、ファーウェイ・テクノロジーズとサムスン電子のシェア争いは、やはり米中関係に大きく左右されることになるのかもしれません。スマートフォンのビジネスに政治が強く影響してしまうというのは、何とも複雑な気分にさせられるところです。