4月8日に本格サービスを開始した楽天モバイルですが、サービス開始直前に料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」の内容を変更して“2.0”にアップデート。KDDIのローミングで賄っているパートナーエリアでの通信量上限を、当初発表していた2GBから5GBに増やすとともに、上限を超えた時の通信速度も1Mbpsに引き上げました。突然の大盤振る舞いの狙いはどこにあるのでしょうか?

  • 料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」を2.0にアップデートし、大盤振る舞いの内容に変更した楽天モバイル。三木谷浩史社長の狙いや変更にいたった背景は?

KDDIエリアでの通信量上限を5GB、最大速度も1Mbpsに向上

携帯電話事業に新規参入したものの、ネットワーク整備の遅れから本格サービス提供に至っていなかった楽天モバイル。ですが、3月3日にオンラインで発表会を実施し、4月8日に本格サービスを開始すると発表しました。

新型コロナウイルスの影響で静かなスタートとなった楽天モバイルの本格サービス開始ですが、サービス開始当日にサービス内容を一部変更することを発表。3月に発表した料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」を2.0にアップデートするとしたのです。

Rakuten UN-LIMITの内容について改めて振り返ると、これは楽天モバイルが提供する唯一の料金プランであり、月額2,980円(税別)で楽天モバイルのエリア内であればデータ通信が無制限になる、というのが大きな特徴。専用のコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」を使えば、音声通話やSMSも無料になるなど、大盤振る舞いの内容となっています。

  • 楽天モバイルが本格サービス提供開始に合わせて打ち出した「Rakuten UN-LIMIT」。月額2,980円で、楽天モバイルのエリア内あればデータ通信し放題というのが最大の特徴になる

ですが、Rakuten UN-LIMITには制約もあります。新規参入したばかりの楽天モバイルはエリア構築の途中であることから、自社のエリアは東京や大阪など一部の都市部のみと狭く、それ以外のエリアは提携しているKDDIとのローミングによる「パートナーエリア」でカバーしているのです。

そしてRakuten UN-LIMITでは、このパートナーエリアで通信した場合は使い放題にならず、通信量の上限が最大で2GBまでという制限が設けられているのです。制限をオーバーすると通信速度が128kbpsに落ち、再び高速通信をするには1GBあたり500円を支払って容量を購入する必要があります。

ですが、楽天モバイルは今回のアップデートによってこの制限を変更。パートナーエリアでの通信量上限を5GBに増やすとともに、それを超過した場合の通信速度制限も1Mbpsと、大幅にアップさせたのです。

  • 楽天モバイルの料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」の新しいサービス内容。パートナーエリアでの通信量上限が2GBから5GB、超過時の通信速度が128kbpsから1Mbpsへとアップしている

ユーザー満足度は上がったが楽天の負担は増える

なぜ楽天モバイルは、Rakuten UN-LIMITのパートナーエリアでの通信量制限を大幅に緩和したのでしょうか。楽天モバイルの発表内容によると、「今般の在宅ワークや教育機関等のオンライン学習実施状況を勘案」したとされており、新型コロナウイルスの影響でデータ通信のニーズが高まっていることを理由として挙げているようです。

ですがやはり、当初打ち出したパートナーエリアでの制限に対する消費者からの不満が大きかったというのが、見直しの大きな理由と考えられそうです。楽天モバイルのエリアがまだ狭く、都市部以外の大部分では実質的にパートナーエリアで利用しないといけないこともありますが、エリア整備がなされているはずの都市部であってもパートナーエリアになっている箇所がいくつか存在するのです。

  • 楽天モバイルのエリアは東京や大阪など大都市の一部に限られており、それ以外のパートナーエリアではKDDIの回線に接続する形となる。だが、エリア内でもパートナーエリアとなる場所も少なからずある

その代表例といえるのが、地下や建物の中など。例えば、東京都心で楽天モバイルを使っているユーザーが地下鉄に乗り、動画を視聴していると、パートナーエリアであることに気が付かずあっという間に通信量を消費し、速度が大きく落ちてしまう可能性もあるわけです。

そうした不満は、Rakuten UN-LIMITの発表直後から多く挙がっていたことから、うっかりパートナーエリアで利用しても安心して使えるよう通信量上限を増やすとともに、それを超過した場合も最小限の動画視聴くらいならできる、1Mbps程度の通信速度を確保するにいたったのではないでしょうか。

この措置によって、確かにRakuten UN-LIMITの大きな不満点はかなり改善されたといえます。一方で気になるのは、楽天モバイル側の負担が増えてしまうこと。というのも、ローミングの契約上、楽天モバイルのユーザーがKDDIのエリアで通信すると、通信量に応じた料金をKDDIに支払わなければならないからです。

  • 楽天モバイルはKDDIとの提携条件により、楽天モバイルのユーザーがKDDIのエリアで通信した際は、楽天モバイルがKDDIにその分の料金を支払う必要がある

そうしたことから、Rakuten UN-LIMITは当初、パートナーエリアでの通信量上限を厳しく設定したといえますが、今回の措置によってそれが緩和されたことで、楽天モバイルがKDDIに支払う料金は増えることが予想されます。特に、通信量を超過して1Mbpsの通信速度でデータ通信をたくさん利用し続ける人が多数出てくるようであれば、楽天モバイルには痛い出費となってしまうでしょう。

Rakuten UN-LIMITは、当初契約した300万名が1年間無料で利用できることから、少なくとも楽天モバイルは1年間、ほとんど収入が入らないことになります。それに加えて、当初よりKDDIへのローミングで支払う料金が増えてしまうとなれば、事業計画が大きく狂うことにもなりかねません。2.0へのアップデートで、ユーザーの満足度が向上した代わりに、楽天モバイルには一層いばらの道が待つことになるといえそうです。