ソフトバンクは3月5日にオンラインで発表会を実施し、 5Gの商用サービス開始を正式に発表しました。ですが、5Gに対応するスマートフォンのラインアップを見ると、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1 II」がなく、中国メーカーの端末を多く採用するなど、ラインアップの傾向が従来と大きく変わっているように見えます。なぜでしょうか。

5Gラインアップの半数が中国メーカー製

かねてより、2020年3月末に5Gの商用サービスを開始すると打ち出していたソフトバンクですが、3月5日に開いた発表会で、宣言通り3月27日より5Gの商用サービスを開始することを発表。大手3社の先陣を切って、5Gのサービス開始をアピールしました。

  • ソフトバンクは、3月5日に5Gのサービス発表会をオンラインで実施。5Gの料金やサービス、端末などを発表した

あいにく新型コロナウイルスの影響で、発表会はオンラインのみで実施される形となりましたが、そこで発表された内容は大きく3つありました。1つは、5G時代のコンテンツ配信サービス「5G LAB」の提供。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を活用したアイドルやスポーツの映像配信や、クラウドゲームサービスの「GeForce NOW」などを提供するとしています。

2つ目は料金です。5Gによるデータ通信を利用するには、2月に提供を開始した「メリハリプラン」など4G向けの料金プランに、月額1,000円の「5G基本料」をプラスする形になります。ただし、2020年8月末までに契約した人は2年間、5G基本料が無料になる施策が実施されるため、当面は4Gと同じ料金で5Gが利用できるようです。

そして、注目の3つ目は5G対応のスマートフォンです。ソフトバンクは、5Gの商用サービス開始に合わせてスマートフォンを4機種用意しましたが、その内容は従来とかなり傾向が異なっていたといえます。

今回ソフトバンクが発表したのは、シャープ製の「AQUOS R5G」と韓国LGエレクトロニクス製の「V60 ThinQ 5G」、中国ZTE製の「Axon 10 Pro 5G」、そして中国オッポ製の「Reno3 5G」。従来のソフトバンクのラインアップを考えると、“レギュラー”といえるのはシャープくらい。LGエレクトロニクスは、ここ1年くらいで同社のラインアップに顔を出すようになったものの、それ以外のメーカーはあまり見かけないものであったことは確かです。

  • ソフトバンクが発表した5Gの端末ラインアップ。4機種のうち半数は中国メーカーが占めている

実際、ソフトバンクが「ソフトバンク」ブランドでZTE製のスマートフォンを採用したのは、プリペイドサービス「シンプルスタイル」向けとして販売された2017年の「Libero 2」以来となります。オッポにいたっては今回が初めての採用となりますし、携帯大手3社のメインブランドがオッポ製のスマートフォンを扱うのも、今回が初めてのことです。

  • オッポ製の「Reno 3 5G」もソフトバンクの5G端末のラインアップに含まれている。大手3社のメインブランドからオッポ製端末が販売されるのは、実は今回が初めてだ

値引き規制でハイエンドは数を絞って価格重視に

なぜソフトバンクは、従来あまり採用していなかったメーカーのスマートフォンを、5Gで積極的に採用したのでしょうか。その理由は、従来採用されながらも、今回採用されなかったメーカーから見て取ることができるでしょう。

今回のラインアップが発表された際、ネット上ではソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1 II」がラインアップに含まれていないことが大きな話題となりました。Xperia 1 IIは2月に発表されたばかりで、同社の5G対応スマートフォンのフラッグシップとなるモデル。国内では、発表直後から注目を集めていました。

  • ソニーモバイルコミュニケーションズが2月に発表した5Gスマートフォン「Xperia 1 II」。今回のソフトバンクのラインアップに入っていなかったことが驚きをもたらした

ソフトバンクは、2014年に発売された「Xperia Z3」以降、継続的にXperiaシリーズのスマートフォンを投入していますし、2019年に実施した5Gのプレサービスでもソニーモバイルコミュニケーションズの5G対応スマートフォン試験機を用いていました。それだけに、ソフトバンクが5G商用サービスのラインアップにXperia 1 IIを採用しなかったことは、かなり意外だったといえます。

なぜXperia 1 IIを採用せず、中国メーカー製のスマートフォンを多く採用したのでしょうか。理由は、端末の価格にあるといえるでしょう。Xperia 1 IIはハイエンド向けのチップセットを採用するだけでなく、21:9比率で4K解像度の有機ELディスプレイや、カール・ツァイスのレンズを採用した4眼カメラ、一眼レフカメラ「α」の技術を取り入れた高度な撮影機能など、かなり高い性能を備えた最新のフラッグシップモデルです。おのずと、値段も高額になることが予想されます。

しかしながら、2019年10月の電気通信事業法改正により、スマートフォンの大幅値引きに規制がなされたため、携帯電話会社にとってハイエンドモデルは売りづらいものになりつつあり、ラインアップの数を絞る傾向にあります。そうしたことから、ソフトバンクは今回、商用サービスに合わせて早期に販売できるAQUOS R5Gと、ケースを装着して2画面にできる分かりやすい特徴を持ったV60 ThinQ 5Gを採用し、Xperia 1 IIを外すという選択を取ったと考えられるのです。

一方で層を厚くしたかったのが、大幅値引きをしなくても購入しやすい低価格の5G端末です。ですが、低価格の5Gスマートフォンを提供できる企業となると、現状は中国の大手メーカーくらいしかないというのも事実。そうしたことから、ソフトバンクは中国メーカーの採用数を増やすという判断に至ったといえます。

Axon 10 Pro 5Gはハイエンドモデルであり、チップセットの変更による性能向上が図られているものの、基本的には2019年に海外で販売されているモデルなので、比較的安価、かつ5Gのサービス開始に合わせて投入しやすかったといえるでしょう。Reno3 5Gは、発売日こそ7月下旬以降と少し先になるものの、ミドルクラスのスマートフォン向けチップセットの採用で低価格を実現しています。

  • 2019年の「MWC Barcelona 2019」より。「Axon 10 Pro 5G」は、すでに2019年から海外で販売されているモデル。ソフトバンク向けのものはチップセットの強化が図られているものの、基本的な機能は同じなので低価格、かつ早期に販売しやすかったといえる

今回の動きからは、ソフトバンクは5G時代にハイエンドモデルの数を絞り、価格重視のラインアップに力を注ぐ傾向が強まる可能性が高いと見ることができそうです。それゆえ、Xperiaシリーズに関しても、Xperia 1 IIと同時に発表されたミドルクラスの4Gスマートフォン「Xperia 10 II」を投入する可能性の方が高いかもしれません。

端末値引き規制を受けているのはソフトバンクだけではないことから、同様の傾向は他の携帯電話会社でも強まる可能性が高いといえます。一方で、かつてのZTEや、最近ではファーウェイ・テクノロジーズがそうであるように、中国メーカーは米国の制裁を受けるなどカントリーリスクの懸念もあることから、低コストを求めるほどカントリーリスクとどうバランスを取るかという、難しい選択を迫られることにもなりそうです。