無料サポーター会員の拡大に合わせる形で、オリジナルのスマートフォン「Rakuten Mini」を投入した楽天モバイル。eSIMを搭載し、なおかつディスプレイが3.6インチと非常にコンパクトであることが特徴のRakuten Miniですが、同社がこうしたスマートフォンをオリジナルで用意したのには、どういった理由があると考えられるでしょうか。

  • 楽天モバイルが無料サポータープログラムの2次募集に合わせて提供を開始した「Rakuten Mini」。指でつまんで持てるくらいコンパクトだ

手のひらサイズでFeliCa対応、SIMはeSIM限定

自らネットワークを持つ携帯電話会社として、2019年10月にサービスを開始した楽天モバイル。ですが、インフラ整備の遅れなどが響き、5000人の「無料サポータープログラム」の会員に限定した試験的なサービスを提供するのみという状況でした。2020年4月に本格的なサービスを開始するとしているにもかかわらず、2020年1月23日には無料サポータープログラムの2次募集開始を発表しています。

2次募集で募集されたのは、前回の4倍規模となる2万人。4月までは残り約2カ月と少ない期間ではあるものの、1次募集で外れた人が多かったことや、短い期間とはいえ無料でサービスが利用できることもあってか、募集開始から1日も経たないうちに上限に達してしまったようです。

その2次募集の開始に合わせて、新たに提供が発表されたのが「Rakuten Mini」というAndroidスマートフォンです。これは、楽天モバイルが以前より公表していたオリジナル端末であり、大きく2つの特徴を持っています。

  • 非常にコンパクトなRakuten Mini。3色のカラーバリエーションを用意する

1つは、非常にコンパクトだということ。Rakuten Miniのディスプレイサイズは3.6インチと、5インチ以上が一般的な現在のスマートフォンの中では非常にコンパクト。現在国内で販売されているスマートフォンの中では、プラススタイルなどが販売する「Palm Phone」(3.3インチ)に次ぐ小ささといえるでしょう。

とはいえ、中身はもちろん通常のスマートフォンなので、電話やメール、SNSなどの利用は可能ですし、FeliCaも搭載しているので「おサイフケータイ」や「Google Pay」なども利用できます。ですが一方で、画面が狭いことから動画を視聴したり、ゲームをプレイしたりといった使い方にはあまり向いていません。

  • Rakuten Miniの背面にはFeliCaマークも用意されており、「おサイフケータイ」などの利用も可能だ

もう1つの特徴はSIMスロットがなく、組み込み型のSIM「eSIM」のみを搭載していることです。国内で販売されているeSIM搭載スマートフォンといえば「iPhone 11」シリーズや「Pixel 4」シリーズなどがありますが、これらは通常のSIMスロットも搭載しており、eSIMはどちらかといえばサブという位置付けでした。

ですが、Rakuten MiniはeSIMしか搭載されていないので通常のSIMは挿入できず、通信をするにはeSIMに対応している専用のサービスを契約する必要があります。それゆえ、楽天モバイルでは通常のSIMだけでなく、Rakuten Mini向けにeSIMのサービスを提供するようです。

  • Rakuten MiniはSIMスロットを搭載していないので、eSIMに携帯電話会社のSIM情報を登録するには専用のQRコードを読み込む必要がある

KDDIとのローミングが楽天モバイルの制約に

コンパクトであることと、eSIMしか搭載していないこと。こうしたRakuten Miniの特徴から、正式サービスに向けた楽天モバイルの狙いも見て取ることができそうです。楽天モバイルが、あまり大容量通信をしない人に向けた低価格の料金プランに力を入れてくる可能性が高い、ということです。

無料サポータープログラムの会員に向けては無料で使い放題という、ある意味大盤振る舞いの対応をしている楽天モバイルですが、それはあくまで現在のネットワークが試験段階にあるからこそ。本格的にサービスを開始した暁に、楽天モバイルがこれだけの大容量通信ができるプランを提供するとなると、1つ大きな問題が浮上してきます。

それはKDDIとのローミングです。楽天モバイルのネットワークは現在、東京23区や大阪市など限られた都市部の地上エリアしかカバーしておらず、それ以外の地域や建物の中、地下などはKDDIのネットワークにローミングすることで賄っている状況です。

  • 楽天モバイルのネットワークは徐々に広がっているとはいえ、都市部の一部に限られており、大半のエリアや建物内などはKDDIのネットワークへのローミングでカバーしている

ですが、楽天モバイルがKDDIのネットワークにローミングする際に支払う料金は、KDDIが公開している「楽天モバイル向けローミングサービス契約約款」を見ると、1パケット(128バイト)あたり0.0000596円で、1GBでは465円という計算になります。つまり、1人が1GBの通信をするたびに、楽天モバイルはKDDIに500円近く支払わなければなりません。エリア外で大容量通信をされると、それだけ楽天モバイルは出費が増え、苦しくなってしまうのです。

そうしたことから、自社のネットワークがある程度広い範囲をカバーして充実するまでは、大容量のプランに力を入れるのは難しく、小容量で低価格のプランに力を注ぐ可能性が高いといえるわけです。しかも、そうしたプランを求める人は、どちらかといえばスマートフォンの利用に明るくない人が多い傾向にあることから、楽天モバイルはあえて利用用途を限定しながらもコンパクトサイズで持ち歩きやすく、しかも多くの人が複雑に感じているSIMカードの抜き差しが不要なeSIMを採用するRakuten Miniを用意した、といえるのではないでしょうか。

とはいえ、無料サポータープログラムで購入できる端末の中には、「Galaxy Note10+」などのハイエンド端末も存在することから、何らかの形の大容量プラン提供を視野に入れている可能性も考えられます。2020年4月の正式サービス開始に向け、予想を裏切りあっと驚くプランを提供してくれることを期待したいところです。

著者プロフィール
佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。