総務省は2024年12月13日、5G向けの新たな周波数帯となる4.9GHz帯の免許をソフトバンクに割り当てることを発表しました。ですが実は、この周波数帯の獲得に手を挙げたのはソフトバンクだけで、しかもソフトバンクが実際にこの周波数帯を用いてサービスを開始するのは2030年ごろの予定と、かなり先となるようです。一体なぜでしょうか。

  • 貴重な4.9GHz帯の免許の獲得に成功したソフトバンクだが、意外にも4.9GHz帯の獲得に名乗りを挙げたのはソフトバンクだけだった。写真はソフトバンク 代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏

ソフトバンク以外は手を挙げず、活用も5年近く先

5G時代に入ってユーザーのデータ通信量が大幅に増え、それが通信品質に大きな影響を与えるようになった昨今。その影響の大きさは、2023年のNTTドコモの通信品質低下が示していますが、携帯電話会社が増大する通信量に対処するうえで重要なのが電波です。

携帯電話の電波といえば、従来は1GHz以下の「プラチナバンド」に代表されるように、広範囲でつながりやすいことが重視されてきました。ですが、そうした周波数帯は一度に通信できる容量が小さいので、増え続けるデータ通信に対処するため、5Gでは容量が大きい電波の活用が進められています。

なかでも現在重要な存在とされているのが、主として3GHz~6GHzの「サブ6」と呼ばれる周波数帯です。サブ6はプラチナバンドと比べて周波数が高いので遠くには飛びにくいのですが、プラチナバンドの10倍近い帯域幅を持つため、大容量通信にとても強いとされています。

それゆえ携帯各社は現在、都市部を中心としてサブ6が利用できるエリアの拡大に力を入れているのですが、実は2024年、総務省はそのサブ6の周波数帯免許を、もう1つ新たに割り当てることを打ち出していました。それが「4.9GHz帯」と呼ばれるもので、具体的には4900~5000MHzの100MHz幅となります。

  • 総務省は2024年、新たな5G向けの周波数帯として4.9GHz帯の割り当てを打ち出し、免許の申請を募っていた

総務省が割り当てを検討してきた周波数帯のうち、4.9GHz帯は最も低い周波数帯。今後割り当てが検討されているのは主として30GHz以上の「ミリ波」と呼ばれる周波数帯となりますが、ミリ波はサブ6より周波数が高いので一層遠くに飛びにくく、対応するスマートフォンも少ないことから、現状まったくといっていいほど使われていない、とても人気のない周波数帯となっています。

それゆえ携帯電話会社にとって、4.9GHz帯はサブ6の割り当てのラストチャンスともいえるのですが、実際に申請をしたのはソフトバンク1社だけ。それゆえ、4.9GHz帯の免許は総務省での審査を経た末、2024年12月13日にソフトバンクへと順当に割り当てられることが決定しています。

  • 総務省は2024年12月13日、4.9GHz帯の免許をソフトバンクに割り当てることを発表。ただ、免許申請したのはソフトバンクのみで“無風”での割り当てとなった

しかも、ソフトバンクが総務省に申請した4.9GHz帯の開設計画を確認すると、2030年度末までに全都道府県に特定基地局を開設し、2031年度末までにサービスを開始するとされています。つまり、4.9GHz帯を使い始めるまでに5年はかかる可能性があり、かなり遅い印象を受けてしまいます。

意外とハードルが高い4.9GHz帯の活用

一体なぜ、貴重な4.9GHz帯がこのような扱いとなっているのでしょうか? 実は、今回割り当てられる帯域は、ほかに利用している無線システムが存在しており、それらの移行が進まなければ利用ができないのです。

現在、この帯域を使っているのは「5GHz帯無線アクセスシステム」と呼ばれるもので、要は広域で利用できる無線LANのような仕組み。光ファイバーの敷設が難しい場所で高速通信を提供するなどの用途に用いられているのですが、携帯電話会社が4.9GHz帯を使用するには、このシステムを使用している事業者に移行してもらう必要があるわけです。

その移行を早く進めるには、既存の免許人に対して移行費用を負担するなどし、移行してもらう「終了促進措置」を取る必要があり、費用がかかってしまいます。ちなみにソフトバンクの開設計画を確認すると、終了促進措置に向けて負担可能な額は最大で1440億円とされています。

  • ソフトバンクが総務省に申請した4.9GHz帯の開設計画の概要。同社は周波数移行のため、最大で1440億円を負担できるとしている

それだけの費用を負担し、時間をかけて移行してもらったうえで、ようやく4.9GHz帯が利用できることになります。そうした手間と費用を考慮した結果、他の3社は申請に手を挙げなかったのではないでしょうか。

ではなぜ、ソフトバンクはそれでも4.9GHz帯の獲得に手を挙げたのかというと、同社に割り当てられているサブ6の周波数帯が少ないからです。現状、携帯4社のうちサブ6の周波数帯(100MHz幅)を2つ割り当てられているのはNTTドコモとKDDIのみで、ソフトバンクと楽天モバイルは1つしか割り当てられていません。

それゆえソフトバンクは競争上、ほかの大手2社と引けを取らないネットワークを構築するため、どうしてもサブ6の周波数帯がもう1つ欲しかったわけです。それは楽天モバイルも同じなのですが、新興の同社は先行投資で経営が厳しいうえ、2023年にプラチナバンドの700MHz帯を割り当てられており、そちらの整備を優先する必要もあって手を挙げなかったと考えられます。

先にも触れたように、ソフトバンクがこの周波数帯を活用するのはやや先となる見通しですが、同社の代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、4.9GHz帯の活用時期が以前に取り上げた「AI-RAN」を実装する時期にも重なることから、4.9GHz帯はAIを絡めて活用する可能性を示唆していました。活用に時間がかかってしまうのは残念ですが、4.9GHz帯とAI-RANでどのような取り組みをするのかは楽しみなところです。

  • 免許割り当て後の取材に応じるソフトバンクの宮川氏は、4.9GHz帯によるサービス提供に時間がかかることもあって、AIと絡めた活用を考えている様子を示した