シャープは、2024年10月29日にスマートフォン新製品2機種を発表しましたが、大きな驚きを与えたのは、夏の新製品発表では投入が見送られた最上位のフラッグシップモデル「AQUOS R9 pro」の発売を明らかにしたことです。そこには市場環境の変化を受け、フラッグシップモデルのあり方自体が大きく変わったことが影響しているようです。
夏商戦に見送ったフラッグシップを秋冬商戦に投入
2024年5月8日に実施された新製品発表イベントで「AQUOS R9」と「AQUOS wish4」を発表した際、例年同時期に投入していた最上位のフラッグシップモデルを投入しないことを明らかにしたシャープ。同社は国内メーカーの中でも、フラッグシップモデルの開発に力を入れてきたメーカーの1つでもあっただけに、その判断が大きな衝撃を与えたことは確かです。
それゆえ2024年、シャープはフラッグシップモデルを投入しないものと見られていたのですが、同社は2024年10月29日のスマートフォン新製品発表イベントで、その見方を大きく覆す発表をしています。
シャープは例年この時期は、ミドルクラスの定番モデル「AQUOS sense」の新機種を投入しおり、今回のイベントでもその新機種「AQUOS sense9」を発表しています。ですがシャープは同時に、もう1つの新機種「AQUOS R9 pro」を発表したのです。こちらはその名前の通り、シャープのハイエンドスマートフォン「AQUOS R」シリーズの中でも、「pro」が付いた最上位のモデル。夏商戦で見送られたフラッグシップモデルが、秋冬商戦に向けて投入されることになったのです。
実際AQUOS R9 proは、フラッグシップにふさわしい非常に高い性能を備えています。同シリーズの特徴でもあるカメラに関しては、独ライカカメラが監修した、3眼のカメラで構成された「バリオ・ズミクロン」カメラシステムを搭載。標準カメラには1インチを超える大型のイメージセンサーを搭載する一方、大型のセンサーが弱みとしている接写にも対応する広角カメラ、そして光学2.8倍ズーム相当の望遠カメラを新たに備えることで、幅広いシーンで高画質の写真や動画を撮影しやすくなっています。
それに加えてチップセットには、米クアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8s Gen 3」を搭載するほか、ベイパーチャンバーの搭載でゲーミングなど高負荷時の放熱も強化するなど、非常に高い性能を備えています。また、デバイス上で処理するAI技術を活用した「電話アシスタント」機能を搭載、新たに留守番電話の要約や通話時のキーワードを自動的にメモする機能を実現するなど、昨今話題となっている生成AIのキャッチアップもしっかり進められているようです。
市場変化で最上位モデルの投入は不定期に
こうした内容からも、AQUOS R9 proが他社のフラッグシップモデルに引けを取らない充実した内容であることは理解できます。であればなぜ、例年通りフラッグシップを夏商戦に投入しなかったのか?という点は疑問が残るところです。
シャープのユニバーサルネットワークビジネスグループ長 兼 通信事業本部長である小林繁氏は、その理由について「スーパーフラッグシップみたいな商品は(投入の適切な)タイミングがある」と話しています。最上位のフラッグシップモデルは各社の最先端技術を積極的に投入する必要があるため、ベストな部材が揃ったタイミングで提供したいというのが同社の考えのようです。
加えてフラッグシップモデルは、昨今の円安と政府によるスマートフォンの値引き規制で価格が高騰し、販売が大きく落ち込んでいます。それゆえ、フラッグシップモデルを購入するのは熱心なファンに限られてきていることから、定期的に新モデルを投入することが重要ではなくなってきている、とシャープは判断したのではないでしょうか。
一方でAQUOS senseシリーズのように、幅広い層をターゲットとしたモデルは定期的に新機種を投入した方が、それを販売する携帯電話会社や量販店の側が扱いやすいと小林氏は話します。市場環境が非常に厳しいことを鑑みて、モデルの性格に合わせて製品投入のタイミングを変えていくというのが、現在のシャープの製品投入方針のようです。
一方で小林氏は、フラッグシップモデルに関して「技術の最先端を攻めるうえで非常に重要。ああいうものが作れないと、スタンダードモデルでもハイエンドモデルでもいいものが作れない」と話します。フラッグシップモデルで培った技術を他の製品に生かせるだけでなく、自社のブランドを象徴する製品としてプロモーションの面でも重要な意味を持つことから、その重要性は変わらず開発は継続していく姿勢を見せています。
そうした姿勢が、シャープのフラッグシップが姿を消したことに不安を抱いていた人に安心感を与えたことは確かでしょう。ただそれでもなお、国内の市場環境が非常に厳しいことに変わりはなく、かといって同社の海外進出に向けた戦略も道半ばということもあり、フラッグシップモデル開発を継続することが容易ではないこともまた確か。国内市場の回復が見込めない限り、フラッグシップモデルを巡る状況は非常に不安定というのが正直なところではないでしょうか。