通信業界で2023年最大のトピックとなった、NTT法の見直しに関する議論。政府与党の自由民主党(自民党)のプロジェクトチームが2023年12月1日に提言を正式に公表し、2025年を目途にNTT法を廃止することなどが盛り込まれるなど、日本電信電話(NTT)側の主張がおおむね取り入れられた内容となった一方、競合に配慮してか、電信電話公社(電電公社)時代に整備されたいわゆる「特別な資産」の扱いについては議論の余地が残されたようです。2024年に具体的な議論が本格化するNTT法の見直しですが、注目すべきポイントを確認しておきましょう。

  • 2023年、NTT法の見直しが通信業界各社を巻き込んで大きな議論となった

提言はおおむねNTT側の主張を取り入れた“NTT寄り”の内容に

2023年に突然浮上し、通信業界全体を大きく揺るがしているNTT法の見直し議論。その経緯については以前の連載で触れた通りなのですが、12月に入って非常に大きな動きが起きています。

それは2023年12月1日に、NTT法の見直しを打ち出した自民党のプロジェクトチームが「『日本電信電話株式会社等に関する法律』の在り方に関する提言」を取りまとめたこと。2023年12月11日には同プロジェクトチームが、岸田文雄内閣総理大臣にこの提言を申し入れており、政府によるNTT法見直しの方向性が示されたこととなります。

  • 自民党のWebサイトより。かねてNTT法の見直し議論を進めてきた自民党のプロジェクトチームは、2023年12月1日に提言をまとめている

気になる提言の内容についてひとことで表すと、NTT側の主張をほぼ全面的に取り入れたものとなっています。そのことを端的に示しているのが、NTT法の廃止を明言していることです。

NTT法の廃止は、今回の見直しにおける最大の焦点でもあり、競合ら180以上の企業・自治体は廃止に反対を表明しています。ですが、提言には2024年の通常国会で「速やかに撤廃可能な項目」を措置し、2025年の通常国会を目途に「必要な措置」を講じたうえで廃止することを求めるとしています。廃止を前提とした方針が示されたことからも、NTTの意向をくんだ提言となっていることが理解できるでしょう。

ちなみに、速やかに撤廃可能な項目とは、研究開発の開示義務のことを指しています。こちらの撤廃は、競合らからも反対意見が挙がっていないことから、2024年中にNTT法を改正して早期に撤廃を図りたい考えのようです。

一方の「必要な措置」とは、やはりNTT側が法の立て付けの変更を求めていた固定電話のユニバーサルサービス義務や、NTTが外資に乗っ取られることを防ぐ外資規制などを指しています。提言では、電気通信事業法や外為法など、他の法律でカバーすることを求めていますが、その内容もおおむねNTTが主張していた通りのものなので、やはりNTT寄りの内容で決着したことが分かります。

議論の余地が出た「特別な資産」の扱いが今後の争点に

一方で、競合への配慮が見られたのが、NTTが電信電話公社時代に国のお金で整備したとされる局舎やとう道(洞道)、管路などのいわゆる「特別な資産」の扱いです。

これらは、現在東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)が光ファイバーなどの整備に用いていますが、単にNTT法が廃止され、純粋な民間企業となったNTTグループがこの資産を承継したとなれば、公正競争や経済安全保障など多くの部分で問題が出てくる可能性があります。それゆえ、この「特別な資産」こそが、競合各社がNTT法廃止に猛反対する根拠でもあり、今回の議論において最大の焦点にもなっているのです。

  • NTT東西は、電信電話公社時代に整備した「特別な資産」を用いて光ファイバー網などを整備しているが、この規模のインフラは競合が整備し得ない規模であることから、NTT法見直しにおける最大の争点となっている

先のプロジェクトチームの提言を確認しますと、「特別な資産」の扱いについては経済安全保障上の視点も踏まえつつ、現状のままNTTが運用する、あるいは国有化して運営を事業者に移管するなど、早急に検討して結論を出すべきとしています。政府としても経済安全保障は重要なものだけに、懸念点が多い「特別な資産」に関しては議論に一定の余地を残したようです。

とはいうものの、全体的に見れば自民党プロジェクトチームの提言がNTT寄りの内容であることに間違いなく、NTT法の廃止を阻止したい競合からしてみれば認めがたい内容であることもまた確か。しかも、自民党のプロジェクトチームは当初、防衛費の財源確保を目的に、NTT株を売却するための法改正に向けた議論を進めていたはずなのですが、いつの間にかNTTのビジネス上の制約を取り払うことに議論がすり替わってしまっていることも、競合からしてみれば疑問がわく所でしょう。

それゆえ、自民党プロジェクトチームの提言後に総務省で実施された、情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会の第10回会合の資料を確認しますと、競合各社は2025年のNTT法廃止を打ち出した自民党プロジェクトチームの提言に明確に反対の姿勢を示しているようです。楽天モバイルの提出資料を見ると、2019年以降のNTTグループによる政治献金についても触れているようで、NTTと政治家との関係性に不信感を抱いている様子さえうかがえます。

  • 総務省「情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会」第10回会合におけるKDDI提出資料より。NTT法廃止を前提とした自民党プロジェクトチームの提言はまったく納得できるものではなく、不適切だと指摘している

筆者は、日程の都合であいにく傍聴ができなかったのですが、一連の報道を見るに同委員会の議論の中で、NTTの代表取締役社長である島田明氏が、2025年のNTT法廃止を求めているのはNTTではなく、自民党プロジェクトチームの提言であると説明。これが競合側に「2025年の廃止を求めていない」と捉えられたようで、あとからNTTがプレスリリースでそれを否定する一幕も見られました。

  • NTTのWebサイトより。先の通信政策特別委員におけるNTT島田氏の発言が「NTTは2025年の廃止を求めていない」と捉えられて誤解が生じているとして、否定する一幕も見られた

自民党プロジェクトチームの提言が出たことで、2024年には先の通信政策特別委員会を中心としてNTT法の見直しに向けた具体的な議論が進むものと考えられます。ただ、NTT法が結果的に廃止されるとするNTT側と、断固阻止したい競合との溝は依然深く、議論が難航することは間違いないでしょう。

そうした中で注目されるのはやはり「特別な資産」の扱いであり、NTT法廃止後もNTTが保有し続けるのか、別の選択肢が取られるのかによって競合側の反応も大きく変わってくると考えられます。NTT法の見直しは通信という国の主要なインフラの根幹に関わるものだけに、2024年に議論がどのような方向に進んでいくのか引き続き注目されますし、より多くの人に関心を持ってもらいたいと感じます。