これまで、総務省は法改正を実施するなどして、携帯電話会社に通信料の引き下げを求めてきました。ですが現在のところ、携帯電話各社の携帯電話料金は大きく引き下がっていないように見えます。一体なぜでしょうか。
楽天モバイルが期待外れ、料金はあまり変わらず
2018年、菅義偉官房長官が「携帯電話の料金は4割値下げする余地がある」と発言して以降、大きな注目を集めることとなった携帯電話の料金。実質的にこの発言を受ける形で、総務省が有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を実施。スマートフォンの大幅値引きを重視する携帯電話会社の姿勢を改め、通信料金を引き下げるための議論が進められてきました。
その結果として2019年10月1日には、分離プランの義務化や、端末の値引き上限を2万円に規制し、さらにいわゆる“2年縛り”の違約金上限を従来の10分の1の水準にまで引き下げることなどを定めた電気通信事業法の改正を実施。これまでの携帯電話業界の商習慣を大きく覆す“大ナタ”が振るわれました。
これを受ける形で、携帯電話各社はともに法改正に準拠するべく、分離プランを導入した料金プランを導入しました。ですが、その内容を見ると、確かに法改正による規制には抵触しないのですが、月額料金自体は従来のプランとあまり変わっていません。
実際、NTTドコモは2019年6月より提供している「ギガホ」「ギガライト」に関して、2年縛りの部分に変更を加えたものの、料金自体は変えていません。KDDI(au)はNetflixが利用できる新しいプラン「auデータMAXプラン Netflixパック」を追加したものの、それ以外については2年縛りの部分に変更を加えた以外、大きな変更はなされていません。ソフトバンクも、2年縛りを撤廃するなど新しい措置を加えていますが、「ウルトラギガモンスター+」などの料金自体は変わっていないように見えます。
それゆえ、大手3社の新料金プランは解約こそしやすくなっているものの、それ以外大きな変化はなく、料金競争は起きていない……というのが現状です。その理由として多く挙げられているのは、2019年10月に新規参入を果たした楽天モバイルが順調に立ち上がっていないことです。
実際、楽天モバイルはネットワーク整備が大幅に遅れたことから、現在提供しているのは5,000人限定の「無料サポータープログラム」会員に向けたプログラムのみで、内容も実質的に試験サービスといえるもの。現状、大手3社と競争できる状況にはなく、それが法改正後も競争が加速しなかった要因となっていることは確かでしょう。
むしろ安価なサービスの充実度は高まっている
ですが、本当に携帯電話業界で料金競争は起きておらず、料金は下がっていないのか?という点には疑問もあります。そもそも現在、携帯電話サービスを提供しているのは「NTTドコモ」「au」「ソフトバンク」の大手3ブランドだけではなく、ここ数年の動向を見ると、むしろ低価格を売りにしたこれら3ブランド以外に関する競争が激しくなっているからです。
実際、KDDIはUQコミュニケーションズが提供する「UQ mobile」や、ビッグローブの「BIGLOBEモバイル」など、いくつかの傘下企業がMVNOとして低価格の通信サービスを提供しています。ソフトバンクも、低価格のサブブランド「ワイモバイル」に加え、最近ではMVNOの「LINEモバイル」も傘下に収め、低価格サービスの強化を図っています。
それに加えて、多くの独立系MVNOも携帯電話サービスを提供しており、関西電力系のオプテージが提供する「mineo」や、インターネットサービスプロバイダー大手のインターネットイニシアティブが提供する「IIJmio」は100万契約を超えている状況です。楽天モバイルも、独立系のMVNOとしては220万契約を突破する最大手として、市場での存在感を高めているのです。
こうした低価格ブランドの契約数は着実に増えており、総務省のデータでもMVNOの契約数は2019年3月末時点で1312万契約に上っています。この数字には、MVNOではないワイモバイルの数字は含まれていないことから、実際にはより多くのユーザーが低価格ブランドを契約していると考えられるでしょう。
一方で、低価格ブランドは大手ブランドと比べ、サービスやサポートに関するコストを削って低価格を実現していることから、必ずしも多くの消費者に適したサービスを提供できるわけではありません。例えば、スマートフォンに乗り換えたばかりの初心者は、安さよりも手厚いサポートが必要になることから、サポートが充実した大手のブランドを選んだほうが安心といえるでしょう。
全国津々浦々をくまなくカバーする最新のネットワークと充実した店舗網を持ち、充実したサービスと手厚いサポートを提供するには相応のコストがかかるわけで、それを支えるには料金プランも高くなるのは必然といえます。それゆえ、行政側が望んでいるように、大手3ブランドの料金を4割も下げてしまった場合、サービスの質が大幅に落ちて問題が多発することは明らかです。
消費者が行動を起こさなければ状況は変わらない
こうした状況下で求められるのは、大手ブランドの料金を下げることよりもむしろ、消費者のミスマッチを改善する取り組みではないかと筆者は考えます。つまり、最先端のサービスや端末を使いたい人や、手厚いサポートを求める人などは大手ブランドにとどめ、スマートフォンの知識があって、なおかつ料金を引き下げたい人が低価格なブランドに移行しやすくすれば、消費者の不満は大幅に解消されるはずです。
従来、それを妨げていたのが2年縛りの存在でしたが、法改正でそれも事実上撤廃に近い状態となった今、必要になってくるのは消費者自らが行動を起こすことではないでしょうか。すでに低価格なブランドは多数存在するのですから、いかに消費者自身がその存在を知り、適切なサービスを選んで使い方を学ぶかという、能動的な姿勢が求められるわけです。