コンシューマー向けスマートフォン事業からの撤退を表明した京セラですが、新たに法人向けの高耐久スマートフォン「DuraForce EX」、そして「TORQUE」シリーズの新機種を投入することを明らかにしました。コンシューマー向けからは撤退したにもかかわらず、京セラが高耐久スマートフォンに力を注ぐ理由はどこにあるのでしょうか。
高い法人ニーズがあるからこそTORQUEは継続できた
2023年5月にはバルミューダがスマートフォン事業からの撤退を表明し、富士通の流れを汲むFCNTが経営破綻したことが明らかになるなど、2023年は国内のスマートフォンメーカーの撤退が相次ぎました。ですが、その中で現在やや不思議な動きをしているのが京セラです。
京セラも、2023年5月にコンシューマー向けスマートフォン事業から撤退し、今後端末事業は法人向けに特化していくことを明らかにしています。しかしながら、その直後となる2023年6月には、高耐久スマートフォンの「TORQUE」シリーズを継続し、今後新機種を投入することを明らかにしました。
TORQUEシリーズはKDDIのauブランドで販売されており、非常に高い耐久性を備えることから、アウトドアを楽しむ人などから高い支持を得ています。それゆえ、コンシューマー向けのスマートフォン事業から撤退するはずの京セラが、なぜTORQUEシリーズを継続するのか、疑問を抱く声が少なからず挙がり混乱が生じたのも事実です。
京セラは一連の戦略転換を受け、2023年8月3日に法人向け通信機器事業の記者向け説明会を実施しているのですが、その中で執行役員 通信機器事業本長である飯野晃氏が、TORQUEシリーズを巡る一連の疑問にも答えました。飯野氏の説明によると、一連の混乱はTORQUEの位置付けがやや特殊であることに起因しているようです。
TORQUEシリーズは、確かにコンシューマー向けの高耐久スマートフォンとして知られていますが、実は高耐久性を求める企業からのニーズが高く、法人向けとしても高い人気を博しているのです。それゆえ京セラは、新しいTORQUEシリーズをあくまで法人向けスマートフォンとして開発しており、その供給先となるKDDIが法人だけでなくコンシューマー向けにも販売する可能性がある、というのが真相のようです。
同様に、企業からのニーズが高いフィーチャーフォンなども法人向けとして開発を継続しているとのこと。そしてTORQUEシリーズ同様、供給先企業の判断によって、それがコンシューマー向けに販売される可能性もあるようです。
高耐久スマホはどのような業種に人気なのか
裏を返すと、TORQUEシリーズも企業からのニーズがあまりなければその系譜が途絶える可能性があったわけで、企業からのニーズの高さがTORQUE、ひいては高耐久スマートフォンの事業継続に大きく影響していることは間違いないでしょう。実際、京セラの高耐久端末の出荷台数は2023年6月末時点で累計1,260万台に達しており、かなりの数に上っていることが分かります。
では一体、どのような企業が高耐久スマートフォンを欲しているのでしょうか。その代表例は物流や建設などの業界であり、厳しい環境にある現場で安心して利用できる高い耐久性を備えた端末が必要とされているようです。
とはいえ、従来通りの音声によるコミュニケーションだけであればフィーチャーフォンで済むのですが、最近ではそうした現場にもデジタル化の波が押し寄せています。物流を例に挙げると、荷物の管理にはバーコードの読み取りが必要ですし、配送先の決済でキャッシュレス決済が求められることも増えています。
従来は、それらに対応する別々の端末が必要でしたが、スマートフォンの機能を利用すればそれらの業務への対応を1台で済ませられます。実際、京セラが2024年1月に発売することを発表した法人向け高耐久スマートフォンの新機種「DuraForce EX」は、スマートフォンだけでなくカメラを使ったバーコードの読み取りや、FeliCa/NFCなどを使ったキャッシュレス決済のソリューションも同時に提供することにより、幅広い業務のデジタル化を後押しできるとしています。
京セラが強みを持つもう1つの市場である米国では、それらに加えて、より過酷な現場で作業をすることも多い警察や消防など、公共の安全を守る業種からも高い支持を得ているとのこと。そうした用途に向けたアクセサリー類も充実しており、日本よりも幅広い利活用がなされている様子が見て取れます。
それだけに日本でも、京セラはより幅広い業務に対応できる端末の開発を進めており、2021年にLTEの技術を用いた自営無線システム「MCAアドバンス」に対応した高耐久タイプの無線機「KC-PS701」を提供。災害時の連絡手段としてMCAアドバンスの導入を進めている自治体などへの提供がなされているようです。
もちろん、そうしたデバイスを我々消費者が手にすることはほぼないでしょうし、京セラも市場縮小と価格競争が著しいコンシューマー市場とは距離を置きたい方針なので、今後京セラ製の端末をユーザーが目にする機会が大幅に減ることは間違いありません。ただ、TORQUEシリーズだけでなく、京セラの高耐久スマートフォンが今後も幅広い業種で活用されていくことは知っておいてほしいと思います。