2023年7月1日、NTTドコモが新料金プラン「eximo」「irumo」の提供を開始しました。なかでも注目されるのは、従来同社になかった小容量・低価格の領域を担うirumoですが、これまでそうした領域は外部のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」で賄う戦略を取っていたはずです。なぜ、エコノミーMVNOではなくirumoが必要になったのでしょうか。
他社サブブランドへの対抗が明確なirumo
NTTドコモは、2023年7月1日より新料金プラン「eximo」と「irumo」の提供を開始していますが、2023年6月20日にその発表がなされた際、話題となったのは従来NTTドコモにはなかった領域の料金プランであるirumoの方だったようです。
irumoはデータ通信量が少なく、その分安い料金を求める人に向けたプランであり、分かりやすく言えばKDDIの「UQ mobile」やソフトバンクの「ワイモバイル」など、競合他社のサブブランドに対抗するために作られたものといえます。それゆえ、仕組みも他社サブブランドにかなり近くなっています。
実際irumoは、やや特殊な位置付けの0.5GBプランを除けば3GB、6GB、9GBの3つのプランが存在し、月額料金はそれぞれ2,167円、2,827円、3,377円。そこに「dカード」で料金を支払うことで適用される「dカードお支払割」と、固定ブロードバンドの契約で適用される「ドコモ光セット割」あるいは「home 5Gセット割」を追加することで、それぞれ月額880円、1,540円、2,090円と安く利用できるようになっています。
加えてirumoは、ドコモショップでのサポートを受けることが可能です。eximoと比べた場合、OSのアップデートやスマートフォンの初期化など一部の設定サポートは有料となりますが、オンライン専用でドコモショップでのサポートに必ずお金がかかる「ahamo」と比べれば安心感が高く、そうした点も同様にショップでのサポートに重点を置いた他社サブブランドと共通しています。
ですが発表当初から、irumoの内容が「分かりにくい」との声が相次いだようです。理由の1つは、irumoが2023年7月1日にNTTドコモと合併したNTTレゾナントがMVNOとして提供していた「OCNモバイルONE」の実質的な後継となっているため。OCNモバイルONEはショップでのサポートがない分、irumoと比べて割引なしでも月額料金が安くシンプルで分かりやすい仕組みだったことから、割引を適用しなければ安くならないirumoが複雑に見えてしまったといえます。
そしてもう1つは、irumoがサブブランドではなくNTTドコモの料金プランの1つとして提供されたこと。それだけに、ユーザーは従来のNTTドコモの料金プランと同じサービスやサポートが利用できると思ったのですが、いわゆるキャリアメールの「ドコモメール」が月額330円のオプション扱いとなるなど、カットされているものが少なからずあったことが分かりにくさを増してしまったといえそうです。
ドコモブランドを求める顧客にエコノミーMVNOはマッチしない
分かりにくさゆえに評価が芳しくないirumoですが、NTTドコモにとっては料金プラン戦略の大幅な転換を図る重要な存在であることも確かでしょう。
実は従来、NTTドコモはirumoのような小容量・低価格の領域を担う存在として、そうしたサービスを提供する外部のMVNOと連携し、ドコモショップでの販売や契約をサポートする「エコノミーMVNO」を2021年より展開していました。エコノミーMVNOは、フリービットの「トーンモバイル」やTOKAIコミュニケーションズの「LIBMO」、そしてNTTレゾナントが運営していたOCNモバイルONEの3つが連携しており、なかでもOCNモバイルONEはエコノミーMVNOの中心的存在となっていたのです。
にもかかわらず、NTTドコモはNTTレゾナントを吸収するとともに、ある意味OCNモバイルONEをirumoへとリニューアルして自社サービスにするにいたったわけです。NTTドコモは、エコノミーMVNOを今後も継続するとしていますが、サービス開始前からirumoを積極的にプロモーションしている様子を見るに、今後エコノミーMVNOの存在感は大幅に失われる可能性が高いでしょう。
では一体なぜ、エコノミーMVNOではなくirumoを必要としたのかといえば、影響しているのはやはり他社のサブブランドといえます。KDDIとソフトバンクの契約の伸びをけん引しているサブブランドですが、人気の理由は小容量・低価格であまりデータ通信をしない多くの人にマッチした料金プランであることに加え、携帯電話大手が直接運営するブランドと、ショップで手厚いサポートが受けられる安心感があるからこそなのです。
一方のエコノミーMVNOは、ドコモショップで契約時のサポートはしてくれるものの、契約後のサポートはMVNO各社が対応する形となりますし、それらMVNOは実店舗がないことが多いのでサポートもオンラインや電話がメイン。小容量・低価格を求めるユーザーはスマートフォンに比較的詳しくない人が多い傾向にあるだけに、ユーザーの目線からすればドコモショップで契約するにもかかわらずNTTドコモのサービスではないものを契約し、ショップでのサポートも受けられないことに不安が少なからずあったのは確かです。
それゆえ、エコノミーMVNOは他社サブブランド対抗策としてあまり有効に機能していなかったといえ、小容量・低価格を求めるNTTドコモユーザーの流出を抑えられなかったことから、より踏み込んだ策を取る必要に迫られ、irumoの提供へと戦略転換を図ったのではないでしょうか。そもそも、低価格を実現するため大幅なコスト効率化を図っているMVNOのサービスは、スマートフォンやインターネットにある程度詳しい知識を持つ人でないと有効活用できないだけに、それを低価格戦略の軸に据えたことは戦略ミスだったと言わざるを得ないでしょう。
ですが、エコノミーMVNOとしてすでに連携している他の2社にとってみれば、NTTドコモがその取り組みを弱めることが販売面で大きなマイナスの影響を受ける可能性が高いのも事実。総務省が2023年6月21日実施した「電気通信市場検証会議」の第37回会合でも、MVNOの業界団体である一般社団法人テレコムサービス協会MVNO委員会が同様の指摘をするなど、NTTレゾナントの吸収とirumoの提供がMVNOに与える影響を懸念する見方を強めているようです。
しかも、NTTドコモがirumoを提供し、携帯大手3社が小容量・低価格の領域を直接カバーするようになったことは、料金の高さに不満を抱いて携帯大手から流出した顧客を獲得してきたMVNOにとって一層不利な市場環境となることが予想されます。それだけに、今後MVNOの生き残りは一層厳しくなり、さらなる淘汰が進むことになりそうです。