KDDIは2021年9月13日、オンライン専用プランの「povo」を「povo 2.0」にバージョンアップし、基本料0円でトッピングによりデータ通信量を追加するという仕組みに大きく変化させることを発表した。この仕組みはプリペイド方式に非常に近いものだが、KDDIはなぜ、povoにそのような仕組みを取り入れたのだろうか。
基本料は0円、トッピングで通信量を追加
KDDIは2021年9月13日に新サービスの発表会を実施。その中で明かされたのは、メタバースの取り組み強化や5Gのエリア拡大、そして事前のリーク報道で注目されていた、イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社が提供する衛星ブロードバンドサービス「Starlink」との提携など多岐にわたるが、中でも大きな注目を集めたのはオンライン専用プラン「povo」に関する発表であろう。
それはpovoが2021年9月下旬から「povo 2.0」に進化すること。大きな変化ポイントの1つは基本料が0円になることだが、0円で利用できるのは従量制の通話とSMS、そして128kbpsでの通信のみで、180日間のうちに有料のトッピングを利用しなければ自動的に解約されるという。
そこで重要になるのがトッピングなのだが、povo 2.0では通話定額だけでなく、データ通信量のトッピングの充実化が図られている。そのバリエーションも幅が広く、容量だけでなく利用できる日数にも違いがあることからより柔軟性の高い利用が可能だ。
例えば30日間利用できる「データ追加20GB」をトッピングすれば、従来のpovoと同水準の月額2,700円で利用できるが、「データ追加60GB」をトッピングすれば6,490円で約3カ月間、60GBの通信量が利が可能になる。長期間利用を前提にするのであれば、データ追加20GBよりも安く利用できる訳だ。
また現在のコロナ禍のように外出が少ない時は、7日間しか利用できないものの390円とより安い「データ追加1GB」をうまく活用すれば料金を大幅に抑えられるだろう。一方で動画を長時間視聴したいという時は、従来提供されている24時間限定の「データ使い放題」(330円)に加え、「DAZN使い放題パック」(760円/7日)「smash.使い放題パック」(220円/24時間)など、コンテンツ特化型の使い放題パックも活用できる。
そしてもう1つ、povo 2.0で特徴的な仕組みとなるのが「#ギガ活」である。これは特定の店舗で「au PAY」を使って決済したり、一定以上の金額の商品を購入したり、特定の場所やサービスでpovoのアイテムを見つけたりすると通信量がもらえるもの。もらえる通信量は「3日間300MB」「7日間1GB」など利用するサービスなどによってさまざまだが、直接料金を支払うトッピング以外の方法で通信量を得られることが、より通信料を節約したい人にとってメリットとなることは間違いない。
「#ギガ活」でトッピング以外の収益も視野か
これらの仕組みを見るとpovo 2.0は非常に新しい内容であるように見えるが、実は必要な容量を都度チャージして利用する、プリペイド方式のサービスに近い内容でもある。国内ではソフトバンクの「シンプルスタイル」くらいしか提供されておらず、存在感が非常に薄いプリペイド方式のサービスだが、海外では多くの国で提供されているかなりメジャーな存在で、主として低所得者層や移民、そして銀行口座を作れない新興国のユーザーなどから支持を得ている。
しかもここ最近は、やはり月額0円から利用できる楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」や、ソフトバンクのLINEMOに追加された月額990円の「ミニプラン」など、MVNOだけでなく携帯電話会社自身がより低価格の料金を打ち出している。そこでKDDIは、povoのトッピングという仕組みをより生かしながらも、さらなる低価格を求めるニーズに応えるべく、povo 2.0でプリペイド方式に近いスタイルへと大きく舵を切ったといえよう。
高橋氏は今回の発表会で、これまで100万前後としていたpovoの契約数がおよそ90万と、NTTドコモの「ahamo」の約半分の水準であることを明らかにしている。それだけに、基本料が0円というpovo 2.0の提供により、契約数は大幅に増えることが予想される。
携帯電話会社から見た場合、プリペイド方式は従来のポストペイド方式と比べ収入が安定しないという弱点があるが、それでもプリペイド方式に近い仕組みを取り入れたのには、既存のpovoユーザーの実績も大きく影響したようだ。実際、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、従来のpovoでもトッピングの活用でアクティブユーザーのARPUは高い傾向にあったことから、povo 2.0でも「契約後トッピングの利用が増え、多様な使い方をしてもらうことで大きな減益にはつながらないと判断した」と答えている。
そしてもう1つ、#ギガ活の存在も、povo 2.0でプリペイド方式に近い仕組みを採用するに至った要因に挙げられるだろう。なぜなら#ギガ活はパートナー企業にpovoユーザーの集客というメリットを与える仕組みでもあることから、パートナー企業から利用者に応じたフィーを得るビジネスを展開することも可能だからだ。
それゆえユーザーの通信料が0円であっても、#ギガ活の利用でパートナー企業からの収入を得るなどして、収益機会を増やし安定したサービス提供につなげようとしているのではないかという様子がうかがえる。実際KDDIは、「povo Business Partner Program」を展開して#ギガ活に協力するパートナー企業を積極的に募集するとしており、より多くのパートナー企業との連携に力を入れようとしている。
プリペイド方式に近い仕組みの採用で、povo 2.0はうまく活用すれば従来以上に料金を抑えられることは確かだろう。だがそのためには、ユーザーが頻繁にトッピングの状況をチェックし、適宜適切な方法で通信量を追加する必要があるなど手間もかかり、従来以上にスマートフォンにより詳しい人向けのプランになってしまった印象も受ける。それゆえ「月額0円だから」という理由で2回線目としてeSIMに登録し、そのままあまり使用しないユーザーが続出するなど、有効活用がなされない可能性も懸念される。
高橋氏はpovo 2.0を積極的に利用してもらう策の1つとして#ギガ活の存在を挙げており、パートナー企業との連携で#ギガ活を盛り上げる手段を考えていきたいとしていた。日本においてpovo 2.0の仕組みは斬新な部分もあるだけに、従来の携帯電話会社の枠にとらわれない取り組みでいかに支持を獲得できるかが、重要になってくるといえそうだ。