MVNOからここ最近、専用アプリを使う必要なく通話料が従来の半額になるという新料金プランが相次いで打ち出されている。これまでMVNOの音声通話は、専用アプリを使わなければ安くならないというのが常識だったが、なぜ専用アプリ不要で通話料を半額にできたのだろうか。

通話料30秒11円を打ち出すMVNOが急増

固定電話の国内通話料は事業者や距離、時間帯によって違いがあるが、携帯電話の国内通話料は30秒当たり20円+消費税(現在は22円)という状況が、10年以上に渡って続いている。

もちろん通話定額、5分通話定額などのオプションサービスを契約することで、一定時間定額通話にすることは可能だし、専用アプリを使って電話をすると通話料が無料になったり、半額になったりするサービスも存在はする。だがそうしたサービスを使わない限り、携帯電話の国内通話料を引き下げることはできないというのがこれまでの常識だった。

しかしながらここ最近、その通話料を大幅に引き下げた料金プランがMVNOから相次いで投入されているようだ。その先駆けとなったのが、日本通信が2021年2月に提供した、月額2,178円で通信量20GBが利用できる「合理的20GBプラン」で、専用アプリを使うことなく音声通話料も30秒11円と従来の半額で利用でき、しかも70分の無料通話が付いているのが大きな特徴となっている。

さらに、その日本通信とエイチ・アイ・エスが合弁で設立したH.I.S.Mobileも、2021年6月より新料金プラン「格安ステップ」の提供を開始。こちらも料金の安さに加え、専用アプリを使うことなく30秒11円で国内音声通話ができることを特徴の1つとして打ち出している。

  • MVNOの新たな武器「専用アプリ不要で音声通話半額」が実現できた理由

    日本通信とエイチ・アイ・エスが合弁で設立したH.I.S.Mobileの新料金プラン「格安ステップ」は、専用アプリ不要で国内通話30秒11円の料金を実現している

そしてMVNOが通話料を半額にするという動きは、日本通信とその関連事業者だけにとどまらない流れとなっている。実際NTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」は、2021年4月から提供した新料金プランで、専用のアプリを使うことなく国内音声通話料を30秒11円にしている。

さらにイオンリテールの「イオンモバイル」も2021年10月以降、やはり専用アプリ不要で国内音声通話を30秒11円の通話料を実現すると発表。さらにソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」も、2021年内に専用アプリ不要で同じ料金を実現するとしている。

  • ソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」は2021年内に、専用アプリを使うことなく国内音声通話料を30秒11円にする方針を打ち出している

一方で、MVNOにネットワークを貸し出している携帯大手の新サービスを見ると、通話定額オプションを契約しない限り国内音声通話は30秒22円のままだ。にもかかわらず、なぜこれほど多くのMVNOが国内通話料金を半額にできるのだろうか。

“卸役務”の料金値下げと“接続”による代替手段の登場が影響

それを知るにはまず、MVNOが携帯大手からどうやってネットワークを借りているのかを知っておく必要がある。MVNOはデータ通信のネットワークに関しては、携帯大手と機器を直接“接続”してしていることから、その接続料は電気通信事業法で定められたルールに基づいて毎年決められており、透明性が高い。

だが音声通話に関して、多くのMVNOは携帯大手からネットワークを“卸役務”、つまりそのまま借りているだけなので、料金も携帯大手との交渉によって決まる不透明な仕組みだ。しかも携帯大手はMVNOと競合する上に規模的にも立場が強く、MVNOが自ら設備を持って音声通話サービスを実現するにはコスト面で非現実的であるなど他に代替する手段もなかったことから、優位性の高い携帯大手は音声通話料金を見直そうとはしなかった訳だ。

  • 総務省「接続料の算定等に関する研究会」第27回会合資料より。双方のネットワークを物理的に接続する「接続」は法律によるルールで料金が決まるのに対し、相手のネットワークをそのまま借りる「卸役務」は事業者間の話し合いで料金が決まる

だがそうした状況に業を煮やした日本通信は、ネットワークを借りているNTTドコモに対して音声卸料金を「適正な原価に適正な利潤を加えた金額」にすること、そして音声通話定額サービスを提供することなどを要求した。しかしながらこの交渉が決裂したため、日本通信は2019年に総務大臣裁定を申請、その結果音声卸料金見直しの主張のみが認められたことから、日本通信はそれを受ける形で国内通話料の引き下げに至ったのである。

だが他のMVNOは日本通信の動きに追随した訳ではなく、通話料は現状維持というMVNOの方が多い。ではなぜ、最近になって日本通信に関連しない企業までもが国内通話半額を実現するに至ったのかというと、“卸役務”を“接続”で代替する手段が現れたからだ。

それは2019年12月に開催された総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」の第27回会合において、MVNOが音声通話のネットワークを借りる際、卸役務以外の代替手段が実質的に存在せず、公正競争を確保できない状況にあるとの指摘がなされたことがきっかけ。そこで携帯大手には接続による代替手段の検討が求められ、その結果提案がなされたのが、プレフィックス番号をネットワーク側で自動付与することでMVNO側の中継電話サービスと“接続”する仕組みである。

実は多くのMVNOは、専用アプリを使って電話をかけることで電話番号にプレフィックス番号を付与し、料金が安い中継電話サービスを経由することで音声通話料金を通常の半額にするサービスを提供している。だがこの仕組みには、着信した通話への折り返し発信をする際に問題があった。

というのも通話を着信できるのはスマートフォン標準の通話アプリに限られており、その着信履歴から折り返すと標準の通話アプリで発信してしまう。専用アプリから発信するには通話履歴から電話番号をコピーする必要があるなど、操作が直感的ではない上に手間がかかるため、利用者からも不満の声が多かったのだ。

だがネットワークを貸す携帯大手の側が、アプリで付与していたプレフィックス番号をネットワーク側で自動付与する仕組みを提供すれば、専用アプリを用いる必要なく中継電話サービスを経由した音声通話が可能になる。そこで多くのMVNOは、携帯大手の側がプレフィックス番号付与に対応するのを待って、専用アプリ不要で国内通話が半額になるサービスを打ち出すに至った訳だ。

  • 総務省「接続料の算定等に関する研究会」第28回のNTTドコモ提出資料より。ネットワークを貸す側がプレフィックス番号を付与する仕組みを提供することにより、MVNO側は専用アプリ不要で中継電話サービスが利用できるようになる

ただし携帯大手の対応状況にはムラがあるようで、NTTドコモは先んじて対応を進めた一方、KDDIやソフトバンクはまだ準備が整っていないようだ。そうしたことからまだ、この仕組みを利用して料金引き下げに動くMVNOは多くないのだが、今後2社の対応が進めば多くのMVNOが追随し、「MVNOは通話料半額」というのが常識になってくるかもしれない。

しかも携帯大手は依然、通話定額オプション以外の形で通話料を引き下げることに消極的だ。MVNOは携帯大手の料金引き下げの影響を受け厳しい状況にあるが、今後はデータ通信だけでなく音声通話も安価に利用できることが、MVNOの強力な武器となっていくかもしれない。