キーボードを搭載したスマートフォンとして知られる「BlackBerry」が、製造元とのライセンス終了により提供が終了することとなった。iPhoneで急速に普及したタッチ操作に駆逐されてしまったキーボード付きスマートフォンだが、スマートフォンでキーボードを使いたいというニーズはなくなってしまったのだろうか。
ライセンス契約終了で姿を消すBlackBerry
2020年6月30日、SIMフリースマートフォンやアクセサリーなどの販売代理店であるFOXが、「BlackBerry KEY2 Last Edition」を299台限定で販売すると発表した。これは既に同社が国内で販売しているスマートフォン「BlackBerry KEY2」の特別版なのだが、気になるのは「Last Edition」の文字である。
BlackBerryはカナダのブラックベリー社が手掛けたスマートフォンで、かつて米国のバラク・オバマ前大統領が、大統領選挙の際にBlackBerryを使っていたことで知られるなど世界的に人気を博していた。一時はNTTドコモが販売していたことから国内でも広く販売されていたことがある。
だがその後、BlackBerryはiPhoneやAndroidスマートフォンとの競争に敗れて急速にシェアを失ってしまった。その後OSを独自のものからAndroidへ移行するなどさまざまな試みをしたもののシェア回復には至らず、ブラックベリー社も経営不振に陥ってしまったのだ。
そこで同社は経営再建のため、強みを持っていたセキュリティ事業にビジネスの主軸を置き、2016年にハードウェア事業から撤退するという判断を下した。その後は中国のスマートフォンメーカーであるTCLコミュニケーションがBlackBerryのライセンスを取得し、BlackBerryの特徴的な要素である小型のキーボードを搭載したAndroidスマートフォンを製造、販売していたのだ。
だがBlackBerry社とTCLコミュニケーションのライセンス契約が終了したことから、「BlackBerry」を冠したスマートフォンは現行の「BlackBerry KEY2」をもって2020年8月末に製造・販売を終了することとなる。そうしたことからFOXは、製造終了する同端末の特別版となる「Last Edition」を販売するに至ったようだ。
非常にニッチだが確固たるニーズは存在する
もちろん、将来的にライセンス契約をする企業が出てくれば再びBlackBerryブランドのスマートフォンが復活する可能性もあるだろうが、現時点でそうした動は見られない。既にブラックベリー社がハードウェア事業から撤退して既に年数も経っているだけに、復活の可能性はあまり高くないと考えられる。
そしてBlackBerryシリーズの端末販売が終了することは、キーボードを搭載したスマートフォンの大規模販売がなされなくなることも同時に意味している。そこに影響したのはもちろん、iPhoneがもたらしたタッチ操作のインタフェースだ。このタッチ操作が分かりやすく、使い勝手がよかったことから幅広い層に深く浸透したが故だろう。
だがキーボードを搭載したスマートフォンにニーズがないのかというと、かなり少数ではあるが一定のニーズがあることもまた確かである。しかも現在は、少ロットのハードウェアを生産するハードルがかつてよりも低くなっているし、クラウドファンディングの活用などで小規模な資金調達もしやすくなっている。
そうしたことからキーボード付きのスマートフォンを、小規模な企業が提供するという動きは現在も継続的になされているようだ。日本ではリンクスインターナショナルが販売している「Gemini PDA」や「Cosmo Communicator」、「F(x)tec Pro1」などがその代表的な例として挙げられるだろう。
これらはいずれもBlackBerryとは異なり、本体を横にした状態で打ちやすいキーボードを搭載している。だがBlackBerryが市場から姿を消し、同様の端末が欲しいというニーズが増えてくれば、そうしたニーズに応えたいという企業やグループなどから製品が出てくる可能性もあるだろう。
老若男女問わずタッチ操作が広く普及してしまった現状、キーボード付きのスマートフォンが再び主流になることはないと考えられる。だが最近、中国の小規模メーカーが復活させた超小型のノートパソコン「UMPC」が注目されているように、キーボードを搭載した小型デバイスには、古くから確固たるニーズがある。それだけに今後、派手な形でなくても同種のデバイスが継続的に提供されることを期待したいところだ。