ここ数年で急増している、「格安SIM」「格安スマホ」などの名前で注目されるMVNO。だがそのMVNOには、実は「一次」と「二次」の違いがあるのはご存じだろうか。一次MVNOと二次MVNOとでは、一体何が違っているのだろうか。

MVNOからサービスを借りている二次MVNO

近頃、大手キャリアの半分、あるいは3分の1といった通信料で利用でき、“格安”なことから注目を集めている、仮想移動体通信事業者(MVNO)。大手キャリアからネットワークを借りて通信サービスを提供することからインフラ投資の必要があまりなく、しかもサービスを必要最小限に抑えることによって低価格を実現していることから、人気を高めている。

そうした人気を背景に、MVNOは年々増加傾向にある。今年に入って以降もMVNOの数は増加しており、総務省が公開している「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成28年度第4四半期(3月末))」によると、2017年3月末時点で、684もの事業者がMVNOとして参入しているという。これらの中には法人向けにサービスを提供する事業者も含まれていると見られるが、それでもこれだけの通信事業者が存在すること自体、驚きがある。

MVNOのサービス事業者数の推移(「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成28年度第4四半期(3月末))」より)。短期間のうちにMVNOの数が急速に伸びていることが分かる

しかしながらその内訳をよく見ると、「一次MVNO」と「二次以降MVNO」の2つが存在していることが分かる。同じMVNOであるにもかかわらず、「一次」と「二次」とで分けられているのかは気になるところだ。

では一体、一次MVNOと二次MVNOとの違いは何なのかというと、簡単に言ってしまえばキャリアから直接ネットワークを借りているか、間接的に借りているかの違いである。

MVNOとはいえど、通信事業を提供するには通信に関する一定のノウハウが必要であり、誰でも簡単にサービスを展開できる訳ではない。そのため大手キャリアから直接回線を借りてサービスを提供する一次MVNOは、NTTコミュニケーションズやインターネットイニシアティブ(IIJ)など、ネットワークに強みを持つ企業が多い。

しかし中には、通信事業に関するノウハウは持たないものの、スマートフォン向けの通信サービスを提供したいという企業も多く存在する。そうした企業が一次MVNOの協力を得てネットワークやサービスを借り、通信サービスを展開しているのが二次MVNOなのである。

実際一次MVNOの中には、自社で通信サービス展開するだけでなく、他の企業がMVNOとしてサービスを展開しやすくするよう、ネットワークやノウハウなどを提供する「MVNE」(Mobile Virturl Network Enabler)を展開している企業も多く存在する。先に挙げたNTTコミュニケーションズやIIJなどもMVNEとして多くの二次MVNOをサポートしているし、最近では日本通信のように、コンシューマー向けの通信サービスから撤退し、MVNE事業に特化する企業も出てきている。

二次MVNOは参入障壁が低いだけに課題もある

二次MVNOとして通信サービスを展開する企業の代表例としては、イオンリテールの「イオンモバイル」やDMM.comの「DMMモバイル」、LINEの「LINEモバイル」などが挙げられる。実際DMM.comはIIJ、LINEモバイルはNTTコミュニケーションズがMVNEとなっていることを明らかにしており、比較的よく知られているMVNOの中にも二次MVNOが多く存在することが分かるだろう。

名前が知られているMVNOの中にも、二次MVNOは存在する。LINEの「LINEモバイル」も二次MVNOの1つで、NTTコミュニケーションズがMVNEとなっていることを明らかにしている

二次MVNOとしてサービスを提供することのメリットは、通信に関する技術やノウハウがなくてもサービスを展開できるため、一次MVNOよりもサービス提供のハードルが低いことだ。先の総務省の資料を見ると、一次MVNOが59社なのに対し、二次以降のMVNOが625社と、圧倒的に多いことからも、二次MVNOの参入ハードルがいかに低いかを見て取ることができるだろう。

だが一方で、二次MVNOにはデメリットもある。直接ネットワークの制御に関わる訳ではないことから、通信サービスに関してはMVNEが提供するサービス内容に依存せざるを得ず、他社との差異化が難しいのだ。

例えば一次MVNOの1つ、ソニーネットワークの「nuroモバイル」などは、直接ネットワークやサービスに関わることができることを生かし、毎月500MBまで0円で利用できる「0 SIM」や、1日5時間、あるいは深夜の時間帯だけ高速通信ができる「時間プラン」など、他にはないユニークなサービスを設計・提供している。だが、二次MVNOがこうしたサービスを提供するには、MVNEとなる一次MVNO側が、二次MVNOに対してそうしたサービスを提供していることが条件となるため、かなりハードルが高くなってしまう。

「nuroモバイル」は一次MVNOの強みを生かし、深夜のみ高速通信が可能なサービスを提供するなど工夫を凝らしたサービスを提供している

そうしたことから、先の総務省の資料を見ても、二次以降のMVNOのうち契約数が3万以上の事業者が275であるのに対し、3万未満の事業者は350と、あまりユーザーを獲得できていない二次MVNOが多いことが見えてくる。ネットワークサービス面では特徴が打ち出しにくいだけに、LINEとの連携を生かしたLINEモバイルなどのように、自社が持つサービスと通信事業とのシナジーをいかに打ち出せるかが、二次MVNOが成功するための重要なポイントになってくるといえそうだ。